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決闘

開いて頂きありがとうございます。

お楽しみ下さい。

火炎砲ファイア・キャノン


――ドゴォオン


カナメが手をかざし呪文を唱えると、その手の前の空間に魔方陣が浮かび上がり、そこから紅蓮の炎が放たれる。中級魔法ということもあり威力はかなり強い。

流志が立っていた場所からはもうもうと黒い煙が立ち込め、地面には未だに火が残っている。煙のせいで中は確認できないが。もし流志に直撃していたなら、ただでは済まないはずだ。


「……もう終わり? やっぱり思った通りね。『忌み人』なんて弱くて、意味のない存在ね。残念だけどアンタはもうアイクに近づかないで。」


カナメは勝利を確信しているのか、余裕の表情で姿の見えない流志に向けて言い放った。


「いやいや、まだ終わってないよ。後、戦いの最中に気を抜くのは絶対にやめた方がいいと思う。」


「―ッ!」


煙の中から流志の声が聞こえた。その声には力があり、まだまだ戦えそうである。カナメは少しだけ驚いたような表情を見せた後、すぐに気を引き締め臨戦態勢にはいると、煙のほうを睨み付けた。伊達に二つ名をもっているわけではない。


徐々に煙が晴れていき、中の様子が見えるようになる。するとそこには、ボロボロのコートをはおり、こともなく立っている流志の姿があった。


「俺はまだへばっちゃいない。戦いってこんな甘いもんじゃあない、そうでしょ?」


「ッ! なにを偉そうに! 力も持たないクズのくせに!」


そして、両者は駆け出す。一方は、生まれながらにして多くのものを得ていた者。もう一方は生まれながらにして多くを奪われていた者。

雌雄はすでに決しているように見えるかもしれない。しかし、流志の顔には一片の曇りもない。彼は知っているのだ、いや、知りすぎている――闘い、というものを。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



――少し時間は遡る


「……ふぅ。今日は大変な一日になりそうだなぁ。ま、いつものことって言えば、いつものことだけど。」


流志は自分以外誰もいない家のリビングのソファーに座り、今日の決闘の準備をしながらひとりゴチる。現在の時刻は七時二十分。土曜日ということもあり、平日のような喧騒も聞こえてくることもなく静かなものである。しかし、流志の家が静かなのはそれだけが理由ではない。各々の用事のため、未だに家族の面々が帰ってきていないのだ。


(二日も一人で家にいるってのもなんだか寂しいけれど、以外とちょうどいいタイミングだったね。)


流志は今日の決闘のことを家族には知られたくはなかった。両親や姉、兄は流志の置かれてきた状況などを知っているためどうしても心配をかけてしまう。それは流志にとって避けたいことであった。


(これまででも十分すぎるほど色々と助けてもらってるからな。できるだけ心配はかけないようにしたいよ。)


「っと、そろそろ時間かな。」


必要なものを全て準備し終わり時計を見ると流志が予定していた出発の時間になっていた。

今一度装備などを点検し、使い込まれかなりボロボロになっている黒いフードつきのコートと、これまたボロボロな赤いフードつきのコートを二枚着込んだ。これは変な感じのオシャレなどではなく、今回カナメと闘うにあたっての作戦―流志にとっては基礎中の基礎だが―の一つである。


気負いや緊張の色など一切見せずに玄関のドアを開けると、流志は朝の陽光に眼を細めた。


昨日も通った『フラワーロード』を、昨日と少しだけ違う気持ちを抱きながら流志は歩く。もちろんかいそう学園に向かっているのだ。何故かというと決闘場所は海創学園に備え付けてある多目的利用場No8(多目的利用場は全部で十個あるため、それぞれに番号がふられている。流志からすれば多すぎだろって感じである。)で やることになっているからである。


道の両サイドに咲いている花々を見ながら歩いているといつの間にか校門前にたどり着いていた。なんとなく顔をあげるとそこには凜の姿があった。


「おはよう。凜。」


「おはようございます。流志くん。」


「凜はもうちょっと後に来てもよかったのに。今、九時だよ。俺とキャンベルさんの決闘の時間まで後一時間はあるよ。」


「何を言ってるのよ。流志くんのことだから一時間前には来るのは知ってたからね。この時間に合わせてきたの。一人で時間まで待つよりは話し相手がいたほうがいいでしょ?」


「もちろん。ありがとう、凜。」


「……うん。どういたしまして。」


穏やかな笑顔を浮かべ、お礼をする流志に少し顔を赤らめながら応える凜。


「それじゃあ、まあ、ここで話すのもなんだし、多目的利用場の観覧席にでも座ろうよ。」


「そうね。それがいいね。」


多目的利用場は校門から近いところにあり、あっという間に二人は着いた。


「……何回も言うようで悪いんだけど、やっぱりこれは無駄というか、やりすぎというか。これじゃどう見てもコロッセオだよね。多目的とか言いつつ明らかに用途が限られてくるよね。まあ、具体的には闘いとか決闘とかアレ(殺し合い)っぽいこととか……」


「……そうね。これに関しては私も上手いフォローのしかたが思いつかない。」


そう、この多目的利用場はどっからどう見てもコロッセオの形をしている。中央に広場があり、その広場を囲んですりばち状に観覧席が設けられているのだ。因みに収容人数は千五百人である。また、戦闘の余波が観客に及ぶことがな無いように、広場と観覧席との間には防護膜が張られており、様々な衝撃だけでなく有害なガスの類いもシャットアウトできる構造になっている。これをコロッセオと言わずになんと言うのだろう。

考えても仕方ないことだと二人は諦め、観覧席に座った。


「ねぇ、流志くん。今日の決闘大丈夫なの。いや、流志くんが強いってことは知ってるよ。でも、相手はあのキャンベルさんだし、流志くんが大ケガするところとかは見たくないよ……」


人の傷つく姿など見たい訳がいない。それが好きな人であればなおさらだ。


「大丈夫だよ。こんなの今まで何度もあったからね。いや、これよりひどい状況だって数えきれないぐらいあったさ。でも、ありがとね、凜。心配してくれるのは本当に嬉しいよ。」


(まあでも、楽な展開になることはないだろうけどね。)


それから二人はこれからの学校のことや、春休みの間に起こった出来事などを喋りあった。これから決闘を行う者とは思えない和やかさだ。


そんなこんなで時刻は午前十時。予定の時間となった。 すると入り口の方から声らしきもののが聞こえてきた。どうやら、アイク一行――もちろん今日の相手であるカナメもいる――が到着したようだ。流志と凜は話を止め、広場の中央に移動した。しばらくするとアイク一行がやって来るのが見えた。

一行の表情は様々で、カナメは不機嫌さを隠そうともせずに流志を睨み、他の三人のハーレムメンバーは何だか居心地の悪そうな顔をしている。アイクは本当にすまなそうな顔をしながら流志のほうをみるが、それによってカナメがまた不機嫌になってしまうため、困り果てている様子だ。


「おはよう。アイク、鬼瓦さん、イスピニアさん、ミミさん、それにキャンベルさんも。」


「ああ、おはよう流志。すまねぇな、こんなことになっちまって。俺もカナメを説得しようとしたんだが……」


「アイク!こんな奴に謝る必要なんてないわよ!」


今の言葉に凜は拳を握りしめ、カナメを睨む。カナメは一瞬ひるんだがなんとか気を持ち直して、凜ではなく流志を睨む。そんな中流志とアイクは


(本当にすまん。)


(いや、大丈夫だよ。アイクがキャンベルさんと仲良くなったのは最近みたいだし、あんまり俺の事を認めてくれてないのも仕方ないさ。まあ少しでも認めてもらえるように頑張る。それに、今回のことは母さんのことでカッとなった俺も悪いしね。)


視線だけで会話をしていた。親友だからこそできる芸当である。


「さて、そろそろ時間だし、やりましょうか。あんまり遅くなって誰かに見られるのも嫌だしね。」


流志が決闘の日時を休みの日の午前中にしたのは人目につくのを避けるためだ。流志にとって手の内を簡単にさらすのは死活問題につながるのだ。



流志とカナメを広場に残し残りのメンバーは観覧席へ移動した。これから決闘が始まるのだ。


「ルールはもうわかってると思うけど、一応確認。基本は何でもあり。魔法でも神力でも神通力でも使えるものなら何でもいい。後、このコロッセオは生死に関わるような攻撃は自動的に緩和するようになってるから、ある程度の攻撃は大丈夫。でもあんまり強力すぎると緩和しきれないからさすがに止めてね。」


「ハッ 心配ないわ。アンタなんかにそんな強いの使うまでもないわ。」


「そう。じゃあ、やろうか。」


二人は距離をとり構える。

二人の決闘に開始の合図はなく、一呼吸の間を置くと流志はカナメに向かい走る。カナメはその場を動かず手をかざすと静かな声で呪文を唱える。


火炎砲フレイムキャノン


―――そして場面は冒頭に戻る


カナメは走りながら魔法により作られた火の玉を流志に向かい次々放つ。流志はそれらをかわしながら走る。しかし火の玉の数は非常に多く、かわしきれなかったものが肩や脇腹などにかするが流志はまったく怯むことなく突き進む。


カナメは流志のそんな様子に一瞬困惑しかけたが、流志はすでに目の前に迫ってきているため気を持ち直す。そして流志を向かえ撃つために魔法により拳に炎を纏わせる。


対する流志の手に得物はない。もちろん魔法などを使えるわけもないので、まさに素手である。


――流志とカナメが激突する。


カナメは炎を纏った拳を流志にむかい突きだす。流志は右手に持った短剣(‥‥)でその拳を受け止めとた。そして拳の勢いを受け流し、短剣を横一閃。バランスが崩されたカナメは踏み込んでいた足にかなりの力を込め、無理矢理バックステップをして流志の一撃をかわす。そしてそのまま距離を十分にとり、息を整えながら一連の流志との流れを考える。


(火の玉を受けても何もなかったかのように走っていたし、武器もどこからともなく取り出した。それに『火拳フレイムナックル』の拳圧にも耐えるってことは……)


「……そのボロボロの赤いコートと黒いコート、対炎効果付きやつに、対衝撃効果付きのやつね?」


「うん、そうだよ。そりゃあ、キャンベルさんみたいな強力な火炎魔法の使い手が相手なんだから、これぐらい当然でしょ。さっき火炎砲を受けても立っていられたのもこのコートのおかげ。まあ、直撃してたらさすがにヤバかったけどね。」


「で、そのコートを生かした戦法が暗器使いってわけね。意外と考えてるのね。」


「まぁね。俺が闘うにはそれぐらいしないと。」


「ハッ! 確かにそうね! じゃあこれならどう!? 弱者さん!――『火柱ファイアーポール』」


途端に流志の周りを囲うように炎が立ち上がる。流志は一瞬でカナメの意図を悟り、コートの中に隠し持っているカバンから『オーツー草』を取り出すと口に含んだ。

カナメが狙ったのは、炎により酸素を消費させることによる窒息だ。しかし、流志にとってこのような攻撃方法など予想の範疇にすぎず、もちろん対策もしている。それがこの、通常の何百倍もの酸素を常に放出する『オーツー草』である。


流志がしばらくじっとしているとカナメが魔法を解く。


「へえ、これも対応できるんだ。『忌み人』のわりにはやるじゃん。」


(普通俺が動けない間に次の攻撃の準備ぐらいするはずなんだけど……。やっぱり優位からくる余裕かなぁ。)


カナメがなんのアクションもせずに自分を観察するように見ていることに流志は内心でため息をついた。流志からしてみればカナメの行動はありえないことである。決闘であれ闘争であれ、闘いの最中に気を抜き、次の攻撃のチャンスを潰すというのはかなり愚かなことなのだ。


(まあ、俺の策を成功させるにはちょうどいいから気にしないでいこうっと。)


思考をそこで打ちきり、再び意識を闘うことだけに集中させていく。その変化を感じとったカナメもまた表情を真剣なものに変える。


闘いはまだ始まったばかり。本番はここからだ。




「ねえねえ、この前からカナメちゃんが言ってる『忌み人』って何のことなの?」


流志とカナメの攻防を見ながらミミは疑問に思っていたことを周りの皆に尋ねた。


「……『忌み人』というのは、災厄の象徴または世界からの呪いを受けた者と呼ばれている人々のことですわ。これは一般常識のはずなのですが。」


「災厄の象徴? 世界からの呪い? りゅーくんが何か悪いことしたってこと?」


「いえ、そういうことではありませんわ。そうですね、この機会に一応『忌み人』についてお教えしましょうか。」


「お願いします!」


「わかりました。まず、ミミさんもご存じの通りこの世界は五百年前に数多くの世界が融合し、一つになることによって誕生しました。そして、その過程で大きな悲劇が起こってしまった。これは分かりますね? ミミさん?」


「うん、分かるよ。各世界の人々が白い光に包まれて消えてしまったってやつでしょ。それで各世界の人口が四分の一ずつぐらいになって、それが合わさって今の世界になったんだよね。」


「その通りです。世界を統合するにあたっての人口調節だったとか、我々の先祖が世界間を渡りすぎてしまった反動、もしくは何か大きな存在からの罰ではないかなど、いろいろな憶測が立てられていますが、今のところ確かな事実は分かっていません。」


「だけど、それと『忌み人』にどんな関係があるの?」


さっぱり意味がわからないといった調子で首を傾げるミミ。


「実は、というか、これも一般常識ですが、この一連の出来事には続きがありますの。」


「続き?」


「ええ、世界が徐徐に交わっていき、完璧に一つとなった後に現れ始めたのですわ。『忌み人』と言われる人々が。」


「現れ始めた? どこからか出てきたってこと?」


「少し違いますわ。どこからか現れたのではなく『忌み人』の特徴である白髪、白眼をもった子供が生まれるようになったのです。それも、人間族、魔族、神族などの種族や血統に関係なくランダムに、突然に。」


「ああ、どうりで時々、白髪や白眼の人を見かけるのかぁ。ボク今までファッションなのかなって思ってたよ。でも、どうしてその白髪、白眼ってだけで『忌み人』なんて呼ばれてるの? それにカナメちゃんとかクラスの皆とかなんだかリュウくんのことあんまり良く思ってないみたいだけど?」


「それは……」


「それは、あの白髪と白眼が昔皆が消えていった時の白い光に似ているってことと、あの特徴を持つ人々は皆、能力や才能が格段にない、いや奪われている。私たちの魔法や神力なんかの力もあの悲劇以降かなり制限されているみたいだけど、流志くんたちのソレはまったくの別物。魔法や神力は種族の問題とかもあるけど、それを差し引いてもおかしなくらい才能がないの。それに人間族―流志くんの種族―の特徴である科学ですら上手くつかえないの。そのようなことから世界からの呪いだとか災厄の象徴って呼ばれている。だから、皆気味悪がったり、本当に最悪な人たちはいじめの対照なんかにしているのよ……まったく、ふざけた話よね。流志くんのこと何にも知らないのに『忌み人』というだけで判断するなんて――本当にふざけているわ。」


「……」


非常に言い辛そうにしていたリリアナに代わって答えたのは凜だった。

しかし、その答えの言葉に返事を返すことができる者はいなかった。凜の表情と声があまりにも冷たかったからである。


「おい、凜。落ち着けよ。」


重い空気を振り払うために、アイクは凜に声をかける。


「…ああ、ごめんなさい。皆のことじゃないから気にしないで。」


アイクの一言で我に帰った凜は表情を元に戻して、纏っていた冷たいオーラも霧散させた。


(やっぱりいつになっても馴れないですわね、神谷さんの出すオーラには。これがアイク様にも並ぶとも噂される『戦女神』の強さということですか。私も湊さんもミミさんもかなりの実力者のはずですが言葉も出せなくなってしまうなんて……)


リリアナは背中を流れる冷たい汗を感じながら、内心で呟いた。他の二人も同じ様子で、額の汗をぬぐっていた。



「燃えろ 燃えろ 我が根源の炎よ。我が道を阻む敵を焼け。象るは槍。貫くは意思―――」


『紅蓮の麗槍クリムゾンランス


リリアナが場の空気が落ち着いたのもつかの間。今度は流志とカナメの戦況に変化が起きた。


「カナメの奴、十八番の上級魔法をだしてきたぞ。これは、そろそろ勝負をかけるつもりだろう。まあ、東雲に限ってカナメの十八番を見て焦るってことはないだろうけどな。」


「そうだな。流志のことだから切り札の三つか四つは隠し持っているだろうさ。」


湊とアイクとのやり取りを最後に、五人は会話を止め、意識を流志とカナメの勝負へと集中させた。




『紅蓮の麗槍クリムゾンランス


カナメが呪文を唱え終わると、その手にはどこまでも紅く、美しい槍が握られている。


「それが噂に聞く紅蓮の麗槍か。中々にヤバそうだね。」


カナメは槍を構えると一直線に流志へと向かって駆け出した。カナメと流志との距離は十リールは離れているため、すぐに激突することはないだろう。普通なら。


(――これってキャンベルさん得意のアレだろうね。ってことは――)


ドンっという音が聞こえた瞬間、カナメの姿が消えた。


流志は思考をとっさに打ち切ると、思いきり横に飛んだ。ゴロゴロと地面を転がり、回転の勢いを利用して体勢を立て直す。そして、流志がつい先程までいた空間には、カナメが槍を突きだしていた。

見ると、槍の石突きの方から煙が上がっている。先程の音は炎が噴き出した音だったようだ。


「あら、避けきれたのね。一撃で決めるつもりだったんだけど。」


「まあ、一応君の十八番ぐらいは調べてあるからね。さすがに知らなかったら今ので詰んでたよ。」


「でも、私の有利は変わらないわね。アンタにはこの速さと熱量に耐えられる術がないはずだから。」


『紅蓮の麗槍』――カナメの得意魔法である。最大の特徴はその火力である。穂先から石突きまで紅いその槍は、炎を圧縮してできたものであり、これまでに使用していた魔法の何倍もの火力があるのだ。そして、圧縮された炎を噴射させることによりジェット機のようなスピードを生み出している。また、他の部分からの開放も可能であり、穂先に触れれば焼き切られてしまう。


「それはどうかなっ!」


流志は言葉と同時に短剣を投げる。さらに自分もカナメに向かって走り出す。


投げた短剣をカナメが弾いた隙をついて追い討ちをかける考えだ。が、しかし、カナメも若手のホープと呼ばれる程の実力者。流志の考えをすぐに理解することができた。


カナメは飛んでくる短剣を薙ぎ払うと、勢いそのままに回転する。そのままでは流志のタイミングの方が速いはずだが、カナメは穂先の横から炎を噴射し、加速。流志が間合いに入る、まさにその瞬間に、一閃を叩き込んだ。


とっさに新たな短剣を取りだしガードするもその一撃は重く、体勢が悪かったのも相まってなす術もなく吹き飛ばされる。


「ガハッ ゴホッ」


カナメの一撃は非常に強力だったため、対衝撃コートをもってしても衝撃を緩和しきなかった。内蔵にもダメージがあったらしく、かなりの量の血を吐く。


(格闘も強い魔法使いって反則でしょ。いや、魔法の手助けもあってのことだろうけど。…………ただ、武器を使い物にならなくしてくれるのは好都合(‥‥)かな。)


どうやらカナメの槍の熱量にやられたらしい。短剣は刃の部分がかなり溶けていて何かを切るということはできそうにない有り様だ。


「何を黙りこくってるの? 実力差を感じて怖じ気づいた? 今からでも降参してもいいのよ。」


流志が息を整えながら思案していると、カナメが挑発をしてくる。


(後、やっぱりあの態度もラッキーだな。)


流志は原型のなくなった己の短剣を地面に投げて突き立てる(‥‥)と、またもやいつの間にか武器―今度は先程の短剣より少し長い剣―をとりだすと、カナメに切りかかる。だが、『紅蓮の麗槍』により、一撃の速さと熱量が尋常じゃないカナメに届くことはなく、また吹き飛ばされる。


流志は血を吐きながらも立ち上がり、やはり使い物ならなくされた剣を地面に突き立てると、今度は旋回しながらカナメを攻める。

しかし、スペックの違いは大きく、いとも簡単に先手を打たれ、重い一撃をもらってしまう。

何度かこの光景が繰り返された。


(ハァ……ハァ……準備はできた。後は仕上げだ。)


カナメの攻撃を何度も受けた流志は無数の傷をつくっており、正直いって息を吸い込むだけで体が悲鳴をあげ、闘いたくないと訴えかけてくる。それでもなんとか踏んばり、今回カナメに勝つために用意した策の仕上げのために剣を構える。この剣には今までと違い、何か古代文字のようなものが腹に書き込まれている。


流志は剣を振りかざしながらカナメに迫る。そしてそのまま振り下ろす、と思いきや逆手に持ちかえると地面に突き刺す。


「我 呪われし者。悲しき病を持つ者。今 我は望まん。等しき苦痛を彼の者に――」


「へぇ。それが切り札? じゃあ、こんなのはどう? ――『座標爆破ポイントフレア


カナメは流志の行動に驚くどころか、余裕そうに笑う。そして呪文を唱える。すると、流志がこれまでに突き立ててきた、六つの短剣や剣が爆破された。

「アンタがコレを狙ってたのは分かってたわ。でも雑な策ね。だっておかしいでしょ。わざわざ武器を地面に突き立てるなんて。しかも六芒星を描くように剣を配置してるし。これじゃあ気づいてくれって言ってるようなものね。残念でした。」


「――与えんことを。今 我は望まん。等しき涙を彼の者の瞳に――」


そんな嘲笑になど耳を傾けず流志は言葉を紡ぎ続ける。そんな様子に嫌なものを感じ、カナメは笑みを消して流志をしとめにかかる。


「――与えんことを。今 我が血を持って望みを果たさん――」


カナメの槍が眼前に迫る。


――だが、もう遅い


『平等に優しい世界テンダーワールド


瞬間、カナメの手から槍が消える。

カナメの顔が驚愕に染まるのが分かる。その隙を見逃すはずもなく、流志は剣を振るう。

カナメは回避行動をとるも、動揺によりかわしきれず、腕を斬られた。


「くッ! どういうことよ!? 媒体は破壊したはず!!」


斬られた腕を押さえて叫ぶ。


「媒体って言うってことは、呪術ってことにも気づいてたんだ。すごいな。」


「そんなことはどうでもいいのよ! 私が聞いてるのは、どうして発動したかってことよ!」


流志は落ち着いた声音で答える。


「キャンベルさんは剣が媒体だと思ったんだよね?」


「そうよ!」


「それが間違い。言葉を返すようだけどおかしいと思わなかった? 剣が媒体だとしたらあんなに明らさまにするのはありえない。それに思い出してみてよ。俺は吹き飛ばされるたびに、剣を突き立てる以外に何かしてたでしょ?」


「――ッ! まさかッ!あの吐血は!」


「そういうこと。今回の媒体は剣ではなく、血だったんだ。自分で傷つけたら怪しまれるから、キャンベルさんの攻撃を利用させてもらったよ。まあ、ダメージはかなりくらったんだけど。」


「くッ!」


カナメは流志の策にまんまとはめられたことに悔しさを感じると同時に、その鮮やかさに舌を巻いていた。

血を自然に流すためにカナメの攻撃を利用し、さらに気取られないようにするために剣を用意して血から意識をそらしたのだ。

そして、さらに驚くこととなる。


「後、キャンベルさんは一つミスをしたね。俺が何かしていると気づいたなら、すぐに潰すべきだった。泳がし最後に策を看破して動揺させようとしたのだろうけど、それを俺が気づいてるかどうかにも気をつかわないと」


「――ッ!」


これにはカナメも声も出せず、ただただ驚く。


(嘘でしょ!! 私の考えも見越して、それさえも利用したっていうの!?)


「ああ、そしてこの呪いの効果は、大体分かってると思うけど、能力や魔法といった特別な力を一定時間封じることだよ。キャンベルさんの強さだと持って七分だから、後四分ぐらいかな。」


流志は目を細める。


「じゃあ、時間もないし行くよ!」


流志はカナメに斬りかかる。これで勝負は決まったかと思われたが、今度は流志が驚くこととなる。


「私にも切り札はあるのよ!」


カナメは刀身が光でできている剣で、一撃を受け止めていたのだ。


「――ッ! 魔法剣か!」


「そう、魔力貯蔵式のね!」


流志の呪いはカナメの力を封じたのであり、道具などを使えなくしたわけではない。だから事前に準備されていた武器などには対応しきれないのだ。


二人は斬りあう。状況的には五分に見えるが、実際は流志が圧倒的に不利だ。

カナメはダメージというダメージはない。対する流志はすでにギリギリだ。


徐々に流志が押され始める。焦った流志は二つの小さな玉を地面に投げつけた。すると玉は砕け散り、とてつもない悪臭がたちこめる。


「うッ! 何コレ!」


あまりの臭いにカナメは一旦距離をとる。


「臭い玉ってやつだよ。」


流志は臭いが立ち込めている間は攻められることはないと思っているのか。その場で立ち、体を休ませている。


(ハッ コイツもなんだかんだで甘いじゃない! 私がこの程度でチャンスを逃すとおもっているの!?)


魔法剣を振りかざし、とどめの一撃をみまうために踏み込む。それはまるで先程の再現のよう。


(この嫌な感じは――)


今一度眼前の敵を見る。そこには瞳に自信の光をたたえ、ライターを持っている流志がいた。


(どうして二つも玉を投げた? どうして煙玉ではなく臭い玉を? どうしてその場を動かない? そしてあのライターは――まさかッ!!)


足に力を込め踏みとどまろうとするが、間に合わない。


流志はライターのふたを開け、火をつけた。


――ドゴォン!!


二人を中心にして爆発が起こる。


しばらくの沈黙の後、煙が晴れて見えたのは、悠然とたつ流志と少し離れたところで横たわるカナメの姿だった。

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