第1話:【悲報】俺、Fランク認定されて追放されました
「アメル、お前は今日限りで、うちのギルドをクビだ」
冷たい声が、部屋に響いた。
「……え?」
「聞こえなかったか? お前はクビだと言ったんだ」
目の前にいるのは、五年間所属していた冒険者ギルドのマスター。
その隣には、かつて俺と一緒に冒険していた幼馴染たちが並んでいた。
全員が、俺を見下すような目で見ている。
「まあ、当然の結果だな」
そう口を開いたのは、幼馴染であり、Sランク冒険者パーティのリーダーでもあるレオンだった。
「お前、もう二十歳だろ? それなのにFランクって……正直、恥ずかしくないのか?」
「……Fランク?」
「ああ。さっきのレベル測定で正式に認定されたじゃないか」
レオンは鼻で笑った。
俺は先ほど受けた測定結果を思い出す。
【冒険者ランク:F】
【レベル:測定不能】
【備考:測定器の異常により、正確な数値を算出できません】
確かに、そんな表示だった。
ただ、俺としては少し不思議だった。
今まで何度測定しても、同じ結果しか出なかったからだ。
「測定器が壊れている可能性はないのか?」
「まだそんなことを言っているのか?」
レオンが呆れたようにため息をついた。
「お前以外の冒険者は、ちゃんと測定できているんだよ。つまり、問題があるのはお前自身だ」
「そうそう。いつまで自分が特別だと思っているの?」
隣にいた幼馴染のミリアも、冷たい声で続ける。
「私たちはもうSランクなの。いつまでもFランクのあなたに付き合っている暇はないわ」
……なるほど。
どうやら、俺は本当に必要とされていないらしい。
「分かった。今まで世話になったな」
「……は?」
俺があっさりと答えると、レオンが拍子抜けしたような顔をした。
「お前、怒らないのか?」
「怒る理由がないだろ。クビになったんだから、もうここにいる必要もない」
「ふん。最後まで能天気な奴だな」
レオンは俺を見下しながら言った。
「いいか? お前みたいな無能は、最下層の魔物でも狩ってろ。せいぜい間引き作業でもしているんだな」
「そうね。私たちの足を引っ張らないでくれるなら、それでいいわ」
……足を引っ張る、か。
五年間、一緒に戦ってきたつもりだったのだが。
どうやら、そう思っていたのは俺だけらしい。
「それじゃあ、失礼するよ」
俺は机の上に置かれていた退職金代わりの小さな袋を手に取った。
中身は、わずかな金貨と型落ちの配信用ドローン。
どうやら、これが俺の五年間の働きに対する評価らしい。
まあ、今さら文句を言うつもりもない。
俺はそのままギルドを後にした。
◇
「……さて、これからどうするかな」
ギルドを出た俺は、街の通りを歩きながら考えていた。
とはいえ、答えは最初から決まっている。
「好きなだけダンジョンに潜るか」
俺は昔からダンジョン探索が好きだった。
未知の場所を歩き、見たことのない魔物と出会い、手に入れた素材を持ち帰る。
それが何より楽しかった。
ただ、ギルドに所属している間はそうもいかなかった。
パーティの予定に合わせなければならないし、受ける依頼も自分では選べない。
でも、これからは違う。
誰にも邪魔されず、自分の好きなように冒険できる。
そう考えると、むしろ追放されてよかったのかもしれない。
「そうと決まれば、早速行くか」
俺は街の掲示板に目を向けた。
そこには、いくつもの依頼書が貼られている。
その中から、一枚の依頼書を手に取った。
【近郊ダンジョン・魔物討伐】
【危険度:F級】
【依頼内容:ダンジョン内に生息する魔物の討伐】
【報酬:討伐した魔物の素材に応じて支給】
「お、ちょうどいいな」
F級なら、今の俺でも問題ないだろう。
せっかく自由になったのだから、まずは軽い依頼から始めることにしよう。
俺は依頼書に記載されていた場所を確認し、早速向かうことにした。
◇
「……ここか」
到着した俺は、目の前にあるダンジョンの入り口を眺めた。
少し古びているが、特に変わったところはない。
入り口の横には、何やら金属製の看板が取り付けられていた。
「えーっと……」
近づいて確認してみる。
しかし、長年風雨にさらされていたせいか、文字がかなりかすれていて読みづらい。
「まあ、依頼書にはF級って書いてあったし、大丈夫だろ」
俺は特に気にせず、ダンジョンの中へと足を踏み入れた。
そのときだった。
――ピコン。
手に持っていたドローンから電子音が鳴る。
【配信を開始しますか?】
「お、まだ使えるんだな」
せっかくなので、俺は配信を開始することにした。
【配信を開始しました】
【視聴者数:1】
「……一人か」
まあ、型落ちのドローンだし、こんなものだろう。
俺は気にせず、ダンジョンの奥へと進んでいった。
しばらく歩いていると、前方から何かの足音が聞こえてきた。
「お、さっそくお出ましか」
現れたのは、体長二メートルほどの巨大な狼だった。
全身を黒い毛で覆われ、口元からは鋭い牙が覗いている。
頭上には魔物の名前が表示されていた。
【ブラックウルフ】
「おお、ブラックウルフか」
F級ダンジョンにしては、少し大きい気もするが……。
まあ、個体差というものだろう。
「ちょうどいい。少し試してみるか」
ブラックウルフがこちらに飛びかかってくる。
俺はそれを避けると、すれ違いざまに拳を叩き込んだ。
ドンッ!!
一瞬だった。
ブラックウルフの巨体は壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「……おお」
思ったより簡単だったな。
まあ、F級の魔物ならこんなものか。
俺は倒した魔物の素材を確認しようと近づいた。
その頃、配信画面には少しずつコメントが流れ始めていた。
【今のブラックウルフ……?】
【いや、サイズおかしくない?】
【どこのダンジョンだよ】
【ちょっと待って、背景に映ってる壁……】
【これ、もしかして……】
俺はそんなコメントに気づかず、さらに奥へと進んでいった。
そして、しばらく歩いた頃。
『グオオオオオオオオッ!!』
突然、地面が震えるほどの咆哮が響き渡った。
「おっと……」
思わず足を止める。
目の前に現れたのは、全身を黒い鱗で覆われた巨大な竜だった。
翼を広げれば、通路全体を覆い尽くしてしまいそうなほどの大きさだ。
頭上には、見慣れない文字が浮かんでいる。
【終焉竜アポカリプス】
「おお……!」
これはすごい。
こんなに大きな魔物を見るのは初めてだ。
「F級ダンジョンにしては、随分と立派な魔物がいるんだな」
俺は感心しながら竜を眺めた。
一方、配信画面ではコメントが急激に増え始めていた。
【え?】
【待って、今どこにいる?】
【そのダンジョン、まさか……】
【嘘だろ。あれ、終焉竜アポカリプスじゃないか?】
【なんでそんな場所に人がいるんだよ!?】
【誰か運営に通報しろ!】
そんなことは知らず、俺は目の前の竜に向き直った。
「ちょうどいい。少し試してみるか」
その瞬間、竜が大きく口を開いた。
膨大な魔力が集まり、巨大な炎の塊が形成されていく。
普通の冒険者なら、その時点で逃げ出すだろう。
だが、俺は違った。
「よし」
軽く一歩踏み込む。
そして――。
ドンッ!!
拳を振り抜いた。
次の瞬間、竜の巨体が吹き飛び、視界から消えた。
「…………あれ?」
俺は目の前の光景を眺めた。
つい先ほどまでそこにいたはずの竜が、跡形もなく消えている。
残っていたのは、床に転がった大きな魔石だけだった。
「……弱くないか?」
もう少しくらい手応えがあると思ったのだが。
そのとき、視界の端に見慣れない表示が浮かび上がった。
【経験値を獲得しました】
【レベルが上昇しました】
【レベル:9999 → 10000】
【警告:レベル上限が確認できません】
【警告:測定可能範囲を超過しました】
【称号を獲得しました】
【世界唯一のレベル限界突破者】
「…………ん?」
俺は表示された文字を何度も見直した。
レベル上限が確認できない?
どういうことだ?
俺は自分のステータスを開いてみた。
【冒険者ランク:F】
【レベル:測定不能】
【称号:世界唯一のレベル限界突破者】
【攻撃力:測定不能】
【防御力:測定不能】
【魔力:測定不能】
【総合評価:測定不能】
「……もしかして」
しばらく画面を眺めた後、俺は一つの可能性が思い浮かんだ。
「測定器が壊れていたんじゃなくて、俺の数値が大きすぎたのか?」
もしそうだとしたら、今までの疑問にも説明がつく。
俺は別に弱くなかった。
むしろ、強すぎたのだ。
ただ、誰も俺の強さを測れなかっただけなのだ。
「……まあ、そんなことどうでもいいか」
俺はステータスを閉じた。
それよりも、先ほどの魔物が気になる。
あれだけ大きな魔物だったのだから、素材くらい残っていてもよさそうなのだが。
「魔石だけか。ちょっと残念だな」
俺は足元の魔石を拾い上げた。
その頃、配信画面は大変なことになっていた。
【終焉竜が消えた……】
【え、今の一撃で?】
【嘘だろ。あれ、何百年も討伐できなかった魔物だぞ】
【いや、そもそも何でF級ダンジョンにいるんだよ】
【ここ、F級じゃないぞ】
【誰かこの人に教えてやれ!】
視聴者数は、いつの間にか数百人を超えていた。
さらに、配信を見つけた者たちが次々と人を呼び込み、数字は増え続けていく。
「お、意外と見てくれている人がいるんだな」
画面を覗き込み、俺は少し嬉しくなった。
せっかくなので、視聴者に向かって話しかけてみる。
「今の魔物、結構大きかったですね。ここって、意外といい狩場なのかもしれません」
【大きかったですね、じゃないんだよ】
【だから、ここはF級じゃないって!】
【頼むから一度外に出て確認してくれ】
【その看板、読めなかったのか!?】
「……?」
何やらよく分からないコメントばかりだ。
まあ、いいか。
「さて、せっかくだし、もう少し奥まで行ってみるか」
俺はそう言って、ダンジョンの奥へと歩き始めた。
◇
その頃。
王都の冒険者ギルドでは、緊急警報が鳴り響いていた。
【緊急速報】
【SSS級ダンジョン『絶望の深淵』】
【最下層に封印されていた終焉竜アポカリプスの討伐を確認】
「……何だと?」
ギルドマスターは、報告書を受け取ると目を見開いた。
終焉竜アポカリプス。
過去に何度も討伐作戦が実施され、そのすべてが失敗に終わった伝説級の魔物だ。
それが、たった今討伐されたという。
「討伐者の情報は?」
職員は震える手で、報告書の続きを確認した。
【討伐者:元所属冒険者】
【冒険者ランク:F】
「…………は?」
その名前を見た瞬間、ギルドマスターは言葉を失った。
つい数時間前、自分たちの手で追放したばかりの男。
「まさか……あいつが?」
一方、その頃の俺はというと。
「次は、もう少し歯ごたえのある魔物がいるといいな」
そんなことを呟きながら、鼻歌交じりにダンジョンの奥へと進んでいた。
ちなみに、俺はまだ気づいていない。
自分が今いる場所が、世界で唯一のSSS級ダンジョンだということに。




