プロローグ - かわいすぎる悪魔
「羽生 天音さん、好きです! つき合ってください!!」
学校の屋上、晴れ渡る空、暖かくなり始めた春の風。とんでもなく平凡なシチュエーションで、佐藤 大輝は目の前の少女に頭を下げる。差し出した右手は小さく震え、膝はがくがくと笑っている。
きっと彼女は、細い眉を下げて困っていることだろう。肩のラインで揃った亜麻色の髪が、風に揺れている様子が目に浮かぶ。もしくは「いつものこと」かもしれない。何せ“天使”と称される学校一の美少女だ。告白など日常茶飯事だろう。
大輝もそのかわいさに取りつかれた、哀れな男の一人にすぎない。しかし大輝にとって、魅力的すぎる彼女はもはや天使ではない――悪魔だ。
「えっと……佐藤くん」
「は、はいぃ!」
小鳥がさえずるような声に呼ばれ、緊張した大輝の声は盛大に裏返る。
「どうして、私が好きなの?」
「えっ」
大輝が顔を上げると、垂れ気味の大きな瞳に見つめられる。大輝は思わず目を逸らし、後頭部をぽりぽりと掻く。
「えっと……最初は顔がかわいいなと思って。話してみたら優しくて、声もきれいで、仕草も上品で、頭もよくて……もう、とにかく目が離せなくなっちゃってさ。天使って呼ばれてるけど、すごすぎてむしろ悪魔だなってオレは思ってて……」
「……悪魔?」
少し低い天音の声に、大輝ははっとする。普通に考えて「悪魔」は悪口だ。弁解しようとして、手が無意味に宙をさまよう。
「いや、その……悪い意味じゃなくて! それくらい魅力的っていうか、かわいすぎてっていうか……ん?」
そのとき、大きな影が大輝に覆いかぶさる。空を見上げると、太陽は雲に隠れ、青かったはずの空が血のように赤く染まっている。
(え、もう日ぃ沈んだ? まだ昼間のはず……)
天音に目を向けると、その細い脚から濃く長い影が伸びている。逆光に包まれた姿は、某推理漫画の犯人より黒い。
ありえない光景に、大輝は思わず後ずさる。
「羽生、さん……?」
「なんでわかったの? 私が……」
天音の影がゆらりと揺れ、背中から虫のような透明な羽が現れる。カッと開かれた目は空よりも赤い。その姿はまるで――
「私が、悪魔だって」




