第7話 イレギュラー
一月十二日、オオミヤダンジョン。
フロアボスに挑むべく、わたしたちパーティは第二層へ足を踏み入れ……そして、難なくボスを突破していた。
「なんか大したことなかったな」
「ね! このまま第三層まで行っちゃおう!」
別にわたしがサクッと片付けたわけではなく、順当にみんなの力を合わせる形で倒すように調整した。雷の魔法では強力すぎるので、体力の温存とスペルの練習と称して、講習の時に見せた風属性を使わせてもらったのだ。
魔道士型になりたくて色々調べていたらしい茜ちゃんが「雷属性は風属性を覚えてる人がひらめきやすいっていいますもんね」と言っていた。
いずれ氷属性スペルっぽいものもお披露目したいので、次は水属性を先に見せておくつもりだ。
「第三層に入ったことは?」
「一応、初めてこのフロアボスを倒した時に様子見だけね。ちょっと様子が変わってくるよ」
そんな話をしつつ次の階層への階段を降りていく。視界が開けた先は、第二層までの草原よりも低木や茂みの増えたフィールドだった。
なるほど、ここからは不意打ちへの警戒をより強めないといけないらしい。
「ちょっと往復が大変になってきたけど、今日からはここで活動だね」
ぐっと手に力を入れてそう宣言する遥香ちゃんのツインテールには、新たに一対の赤いリボンが結ばれていた。
つい先ほど倒したフロアボスの戦利品だ。花おばけとか呼ばれている、植物型のモンスターである。
そしてわたしの髪にも白いリボンが結ばれている。ワイヤーも入っていないのに、重力に逆らってぴょこぴょことウサギの耳のように立ち上がっている。これは先日の角ウサギの戦利品で、換金せずに分配してもらったものだ。
頭頂部からこの小さなウサ耳もどきが生えているとちょっと恥ずかしいので、少し横にずらしたところに結んでおいた。
これらのリボンは既に効果が判明している有名なアイテムなので、アイテム鑑定を依頼するまでもなく魔道士型のわたしたちが使わせてもらうことになった。
遥香ちゃんの赤いリボンは、スペルの効果を僅かに上げるもの。
わたしの白いリボンは、スペル使用時の消耗をこれまた僅かに抑えるものだ。
わたしには無用の長物なのが心苦しいけれど、初めての探索の記念として大事にしようと思う。
「ちょっとだけ休憩したら探索再開しよっか」
リーダーである遥香ちゃんにそれぞれ返事をして、みんな水分をとったり軽食をかじったりしはじめた。
わたしも水筒を取り出して一口。冷たくておいしい。
ついでにスマホを取り出してダンジョンフォーラムの新着レスやSNSをチェックする。隙あらばスマホを見てしまう現代っ子なので。
『世界最年少のクラスB探索者が来日 目的は?』
『元アイドル 二人の夫との結婚生活を公開「一妻多夫への偏見やめて」』
『日本史上最速のCクラス認定探索者、なんとBクラス到達記録も余裕で更新かwww』
『ダンジョン専門家が語る ダンジョンと共に生まれた「D世代」の今』
そんなネットニュースやまとめサイトの見出しがタイムラインを流れてくる。
どれも知らない人の話なのでぴんとこない。こういう変な注目を浴びない人生でありたいものである。
でもD世代当事者として専門家の話だけはちょっと気になる、気もする。あることないこと言われてそうだし。
「そろそろ行くよ~」
「はぁい」
さて、楽しい探索の続きをしよう。
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オオミヤダンジョン第三層のモンスターは、ヤギ・巨大アリ・キノコおばけである。
わたしたちの活動の都合上、偶然見つけたとかでもなければ、基本的に固定シンボル型のフロアボスを狙うことになる。
そしてこの階層の固定シンボル型はアリの派生形のみ。……アリかー……
ちなみにこのメンバーの中で虫が平気なのは那月ちゃんだけである。
そして、アリは群れる。
「ヒィィィ……!!」
悲鳴を上げながらもアリの攻撃をゼロ距離で受け止める茜ちゃんには尊敬の念しか湧かない。わたしにできるのは迅速にアリを始末することだけだ。
「ウィンドカッター」
風の刃を飛ばすスペルの名を唱えながら、風っぽいエフェクトのついた斬撃を飛ばす。
そもそも風の刃とは何なのか。風なのに目に見えるとはどういうことなのか。永遠の謎である。
「ダブルスラッシュ!」
前方では那月ちゃんが斬撃を飛ばしてアリを薙ぎ払っている。ダブルとついているけれど、ギフトのおかげで斬撃は四つ分。お得だ。
そう、第二層のフロアボス戦で那月ちゃんはスキルをひらめいていた。
やはりフロアボスの経験値はおいしいということか。
わたしもソロ討伐を続けていれば探索者として大きく成長できるとは思う。探索で歩き回っても疲れなくなるのなら意味はあるのだろう。
「うっ……うっ……」
「よしよし……」
戦闘終了後、半泣きでドロップアイテムを拾い集める茜ちゃんの背中をさすりつつ、アイテムを受け取ってカバンに詰める。
魔石資源はいいものの、アリの甲殻みたいな素材もドロップするので、倒しても虫の恐怖からは逃れられないのだ。
「……みなさん……こんな階層はさっさと突破してしまいましょう……っ!」
「お、ええね。その意気だ」
一人だけぴんぴんしている那月ちゃんが心底羨ましい。
わたしはアリが相手の時だけ雷での狙撃を解禁することを心に決めた。
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やる気になったわたしたちは、第三層のモンスターを倒しに倒した。
アリを避けたい気持ちはあれど、そういうわけにもいかない。アリのフロアボス――女王アリを狙う以上、アリ相手に戦闘経験を積まなければいけないからだ。
徘徊型ボスがいればこっそり魔法で誘導できなくもないけれど、残念ながらあとの二種類はランダムポップ型だ。挑めるタイミングを見計らってパーティを誘導するにも運が絡んでくる。
「いっそんことさぁ、もうボスアリに挑んでいいんじゃね?」
「さ、さすがに今日二層のボスを倒したばかりですよ? 早くないでしょうか」
「今までみたいにキャリーしてもらえたらいいんだけどねー」
少し遅めのお昼休憩をとりつつ、そんな話をする。
わたしとしては、どんな形で第三層のフロアボスを突破するにせよ、さっさと活動の場を第四層に移すのはありだと思っている。ちょっと背伸びして格上と戦うと大量の経験値を得られるという話をダンジョンフォーラムで見たからだ。
まあ、そうやって無理をして瓦解するパーティも後を絶たないわけで。
女王アリは、その辺のアリ以上の群れを引き連れているという。茜ちゃんの様子を見ている限り、捌ききれるかどうかは不安が残る。
いくら「ヘイト集中」のギフトがあるとはいえ、魔道士型の遥香ちゃんや強力な攻撃をするわたしに一瞬ヘイトが向くこともあるのだ。
まあ、攻撃がくる前にちゃんとヘイトは取り直してくれるんだけど……これ以上敵が強くなり数も増えたらどうなるかわからない。
「千世ちゃんはどう思う?」
「そうですねぇ、キャリーしてもらえるなら行きたいと思いますけど。わたしたちだけで挑むのはちょっと早いんじゃないでしょうか?」
「で、ですよね!」
茜ちゃんの様子を見て思ったのだけれど、わたしが入るまでのこのパーティは、慎重路線に寄りすぎていたんじゃないだろうか。
支援魔道士型の遥香ちゃんは戦闘に参加できないから、実質茜ちゃんと那月ちゃんの二人だけで戦闘を回していたのだ。いくら遥香ちゃんのスペルで能力が向上していたとしても、身体や手数が増えるわけではない。
だから、とっくに自分たちだけでボスを突破できる実力があったにも関わらず、第二層で足踏みしていたわけだ。
それを何とかするべく新しい攻撃役を求めてわたしに声をかけてきたんだろうし、問題は解消されてきている。
経験を積むごとに個人の能力は成長し、そして遥香ちゃんの支援スペルの効果も上がっているので、これからはどんどん先に進めるようになるだろう。
ただし、アリに関しては大群を捌ききれるようになってからにするべきだ。
わたしがいればさりげなくフォローできる自信はあるけれど、本来不相応な場所にみんなを放り込むのはよくない。
「んー、そうだね。とりあえず今はボスのいる場所に行ってみよっか。大規模パーティとかに参加できるかもしれないし……それでいい?」
その提案に異議が出ることはなかった。
今日の方針が固まったところで、みんなでその場を片付けて、探索再開の準備をする。
そして、いざ出発と荷物を抱え直したところで。
『ピーッ、ピーッ、ピーッ……』
その場にいる全員のスマホが、一斉に鳴り響いた。
『オオミヤダンジョン第三層にてイレギュラーが発生。フロアボス・レッドファンガスが徘徊を始めました。該当フロアにいる探索者の皆様は…』
探索者アプリの通知には、そう表示されていた。
★★★
【Tips: ダンジョンフォーラム】
探索者協会が運営する、探索者のための掲示板サイト。
本名の代わりにニックネームで書き込むことも可能だが、探索者ライセンスに紐づいたIDが表示されるため、匿名性は低い。それゆえインターネットにしては比較的治安はいい。
ダンジョンフォーラムはあくまで探索者同士の情報交換に用いられる場であり、特定の探索者のファンスレや外に持ち出せるアイテムに関するスレなど、非探索者にも関わるような話題のスレはダンジョンフォーラムよりも一般の掲示板サイトで立つことが多い。
ダンジョン探索の性質上、外部サイトにてアングラなスレが立つこともあるが、ダンジョンフォーラム内でそのような書きこみがなされない限り探索者協会は関知しないとされている。
活動報告にて、桃園 遥香のイメージ画像およびプロフィールを公開しています。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3057657/blogkey/3633226/




