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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春ダン活編
17/20

第17話 ん?

「はあ、いいですけど……じゃあ、あたしから」


 一番手の遥香ちゃんが姿勢を正す。……本当に面接みたいだなあ。


「桃園さんについては多少正光様から聞き及んでおりますよ。ダンジョン食材を使った料理をお店で出したいのだとか?」

「はい。ただ、両親をまだ説得できていなくて。実力で示すためには何度も試作しないといけませんから、それで食材を調達したくて」

「なるほど。正光様からのお祝いも、役立ちそうで何よりです」

「そ、その節は本当にありがとうございます。申し訳ないくらいで……」

「いえいえ、実はあれでもほんの一部ですから。私たちで消費する以外は売却する予定だったのです」


 それを聞いて遥香ちゃんは胸をなでおろす。

 ダンジョン食材には賞味期限という概念がないから、どんどん溜め込んでしまうのかもしれない。

 それにしても、さすがではある。


「蓮見さんは?」

「っす。おれ、陸上やってて、大学もそっちで推薦もらってんすけど。ケガしたときのためにポーション用意しときたくて。あれ、買うと結構かかるんで」

「ふむ……」

「ま、単純にスポーツ感覚ってのもあるんすけどね。遥香みたいに褒められた理由じゃないっすわ」

「そんなことはありませんよ。目的意識があるのは良いことです。レクリエーション目的で探索者になる方もたくさんいらっしゃいますし」


 そう結んで、ノートに何か書き終えた清野さんが次に向き直ったのは、那月ちゃんの隣にいる茜ちゃん。

 ……もしかしてわたしが最後?


「芒原さんはどうでしょう」

「えっと、その、私も褒められるような理由じゃなくて。ダンジョンでま――魔道士になって、スペルを使ってみたかったんです。でも現実はこの通りで……でもっ、今は強い自分になりたくて、探索者を続けてますっ!」

「素晴らしい理由ではありませんか。探索者としての方向性、こればかりは本人の希望が叶うとは限りません。それは残念ですが……それでも、盾役とは戦闘の中心です。お仲間の皆さんにも頼られているのでしょう?」


 その言葉に、わたしたちは大きく頷く。

 茜ちゃんは感極まったように、顔を赤くして震えている。あ、隣の那月ちゃんに抱き着いた。


「ふふ……では、最後に柊さん。お聞かせ願えますか?」

「あっはい」


 どうしよう、何も考えてなかった。

 まさか「人目を気にせず魔法を使い倒したい」なんて、本当のことを言えるわけがないし。

 みんなには「せっかく適性があるんだからなってみようかな~って」なんて説明しているけれど、この流れでは非常に言いにくい。言うしかないけど。


「いやー……今度こそ本当に褒められた理由じゃないんです。せっかく適性があるし、受験が早く終わっちゃって暇だし、って」

「特に理由はない、と?」

「まあ……はい……」


 清野さんのまっすぐな視線から、つい目をそらす。志望動機を上手く答えられなかった受験生の気分だ。

 

「なんていうか今は『ダン活するためにダン活してる』って感じで。遥香ちゃん、那月ちゃん、茜ちゃん……みんなのおかげでとっても楽しい、です」

「……なるほど」


 この手応えのない感じ。本当に胃がキリキリしてきた。というか、恥ずかしくなってきた。

 どうしてこんなことを聞かれているのかもわからないのに。


「あのっ!!」


 そこで声を上げたのは、茜ちゃんだった。


「ちーちゃんって、本当にすごいんですっ! 私なんて探索者になって一ヶ月経ってもまだモンスターが怖かったのに、同じ一ヶ月でちーちゃんはここまで来て、初日からすごいスペルを使って……理由なんてなくても、なるべくして探索者になったんだと思いますっ! 運命……そう、運命なんですよ!!」

「……茜ちゃん……」


 まさかの援護に、思わず涙が出そうになってしまった。

 そもそもこの面接もどきで何が決まるかすらわかっていないけれど、それでも助けようとしてくれたのだ。その事実がうれしい。


「うんうん、千世ちゃんがいなかったら今日までに第四層まで来れてなかったかも」

「つか下手したら初日の時点でおれらより強かったんじゃね?」

「……みんな、あの、ありがたいんですけど……そのくらいで……」


 そう、うれしいんだけども。褒められて照れ臭いのもそうなのだけども。

 あまりにも「初日からすごかった」みたいな情報を出されてしまうと、ボロが出てしまうかもしれない。


 正真正銘、同年代トップの攻撃型魔道士が向こうにはいるのだ。


「……よいお仲間をお持ちですね」

「それは、はい。おかげさまで……」


 視線を合わせられないわたしに、清野さんが笑う気配がする。


 ともあれ、探索者になった理由は一通り述べた。

 いったい何の意味があってそんなことを聞いたのか、わたしたちへの提案とやらには関係あるのか。


「さて……お聞かせいただき、ありがとうございました」


 その一言と同時に、清野さんは再びノートを膝に置き、ぴしっと姿勢を正す。

 わたしも釣られて背筋を伸ばす。他の三人も似たようなもので、最初の緊張感が戻ってきた。


「大変、参考になりました。……そんな皆さんに、私から提案いたします」

「…………」

「……私たちの……正光様のパーティに、加入しませんか?」


 ……まあ、薄々そんなところじゃないかとは思っていた。

 たぶん、わたしたちに提示できるメリットを探っていたのだと思う。


「まず、桃園さん。私たちのパーティが種類豊富なダンジョン食材を大量に手に入れられるのは、既にご存知(ぞんじ)かと思います。……それ以上のメリットがあるであろうことも、私は把握しています」

「っ……はい」


「次に、蓮見さん。当然、深層で手に入るポーションの方が質が高い。そもそもこちらのパーティには回復役のひなたさんがいるので、ポーションを使う機会がほぼありません。入手したポーションをそのまま回すことも可能です」

「……っす」


「そして、芒原さん。残念ながら、重戦士がスペルを覚えられる可能性は限りなく低く、そこはお力になれそうにありませんが……より強く、より多くのモンスターと対峙してご自身を高めていく環境は、あなたの望むところであると思います」

「そう、ですね」


「最後に、柊さん。…………」


 あんなふわふわな理由しか提示できなかったわたしをどんな手で誘おうとするのかと思いきや、清野さんは口元に手を当てて黙り込んでしまった。

 視線だけがわたしを貫き続けていて、少しだけ居心地が悪い。

 

「……これはあくまで私の想像ですが。今日の探索、退屈だったのではありませんか?」

「っ、えっと」

「大丈夫ですよ。楽しさを求める方がとどめだけを刺す作業で満足するとは思っていません。……今日は安全のためあのようなやり方を採用しましたが、実力に差がある者同士でパーティを組み続けた場合、実力はやがて平均化されることがわかっています。いずれ私たちが普段活動している深層で、『楽しいダン活』ができるようになるでしょう。他のお三方とも、一緒に」

「……なる、ほど」


 ……図星を突かれてつい狼狽(うろた)えてしまった。

 ただ、正直なところあまり響かないというか、専業探索者のパーティに入るデメリットが大きすぎる。ソロで潜る暇がなくなってしまうだろう。

 このメンバーでダン活を続ける理由が生まれるのは、捨てがたくはあるけれど……


「……で、でもあたしたち、もう進路が決まってて」

「もちろん、学生の本分は勉学ですから、そこに支障が出ないように配慮します。休日のアルバイト程度の感覚で……言葉は悪いですが、補欠メンバー程度に考えておいてください。その後の就職先が決まっていなければ、専業探索者の道も考えていただきたいですが」


 さすがに隙がない。退路を塞がれているとも言える。


「……ところで、桃園さん、柊さん。今日柚希さんから聞いた話、他のお二人には?」

「は、話してません!」

「同じく」


 那月ちゃんと茜ちゃんは何のことかと首をかしげている。


「約束を守ってくださったのですね。しかし、ここでお二人にも話しておきましょう」


 清野さんは胸に手をあてて、わずかに微笑む。


「……ひなたさん、柚希さん、ヒルデさん、そして私。パーティの女性全員が、リーダーである正光様と婚約関係にあります」

「…………そりゃ、また」

「はわ……やっぱりそうだったんですかぁ……すごいですぅ……」


 さすがの那月ちゃんも面食らっている。

 茜ちゃんは……顔を赤くして目を輝かせている。いつも通りかもしれない。


「このことは公式な発表があるまでどうかご内密に。……私たちは(みな)、正光様の探索活動を支えたく思っています。しかし女性である以上、常に全員がダンジョンに同行できるとは限りません。そのせいで戦力が下がるのは避けたい。そのため、信用できる人材を探していたのです」


 それがわたしたち、ということなのだろう。遥香ちゃんの存在が大きいのは間違いない。

 元々体力・体質面で女性探索者は男性より不利だと言われがちだし、結婚するなら妊娠出産に子育てもあるはず。つまりそういうことだ。

 まあ、どうせお金はあるんだからそんな時くらいダンジョン探索はやめとけと言いたいけれど、奥さんが複数人いるとそうもいかないのだろう。


「……複数人で一人の相手を愛している身として。愛する人を同じく愛し、支える人が増えるというのは、存外喜ばしいものなのですよ」

「…………そ、そうなんですか……」


 その言葉と視線は、明らかに遥香ちゃんに向けられていた。遥香ちゃんは乾いた笑いで返している。

 配慮のある人だと思っていたのに、恋愛絡みになると眼鏡が(くも)るのだろうか。その状況に耐えられるのは普通に少数派だと思うのだけれど。


「そういうことで……パーティに入られる際には、私たちと同じ立場でお迎えします」


 冷静な時に考えてほしかったのに、食材という餌まで吊り下げられて、結局こうなってしまった。

 まあ、さすがに即決は求められないだろうし、っていうかわたしは断りたいし、あとでゆっくりと話し合って――


「そ、それって、こここ……婚約……」

「そういうことです。()()()()()()


 ……………………ん?

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― 新着の感想 ―
ん?まさかこれが作品説明にある一人ぼっちになる原因なのかな? なんかヤバいスキルで洗脳でもされてそう・・・。
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