ふたりのハヤテ その7 ふたりのハヤテ
いよいよ『ふたりのハヤテ』の最終話です。今までお読みくださりありがとうございました!
今回はバッタは出てこないので、苦手な方もご安心してお読みください!
[それでは、ひとりにつき金貨一枚。どうぞお確かめください]
[ヒャッホウ!]
冒険者ギルドに戻り、手続きが終わると、受付のカロリーヌさんが報酬を渡してくれました。ほむらが嬉しげに口笛を吹きます。
[おお、おとと! 四角じゃなくて丸い金貨よ! おお! これが金貨なのね!]
[嬉しいね、お兄ちゃん!]
[確かに巣立ちもまだの俺たちが、なかなかお目にかかれるもんじゃないよな~!]
ほむらは金貨を引っくり返しながら満足げに眺め、うみは嬉しさに頬を紅潮させています。小金貨は小さく長方形で、これでもかなり高価なものですが、その五倍の価値のある金貨は、庶民に簡単に手に入れられるものではありませんでした。
カロリーヌさんが微笑ましそうな顔をします。
[依頼を無事達成されたので、皆様はこれから一週間、冒険者ギルドの施設が無料で使えます]
[ありがとうございます]
かざみが頭を下げます。
[おお、どんな施設があるの? 詳しくは知らないのね]
うみが戸惑いながら言うと、カロリーヌさんはニッコリ笑いました。
[道場で武芸が磨けますし、冒険に必要な技能実習もありますよ。魔法の研究所もあります。図書館も自由に使えますし、他にも加盟店の宿代が割引になったり、様々な特典がございますよ。こちらのパンフレットをお持ちください]
カロリーヌさんは綺麗にネイルした指で、冒険者ギルドのパンフレットを渡してくれました。
[最後に皆様、依頼人がお会いしたいから館にお越しくださいとおっしゃっています]
[えっ!?]
皆驚いて顔を見合わせました。
[私がわかるのはここまでです。お館までの地図をお渡ししておきますね]
カロリーヌさんはニッコリ笑うと、簡単な地図と住所の書かれた紙片を、かざみに渡してくれました。
冒険者ギルドを出ると、反対方向に歩きはじめたかざみをほむらが引き戻します。
「かざみが地図を持っていたってなんの役にも立たないよ! 俺に貸して!」
そして地図に目を落としたほむらは、ハッと空を見上げました。
「今、ポツッときたかも。さっさと行こうぜ!」
ここ数日は良く晴れていたのですが、今日になって雲が広がり、どんよりとした空模様になっていました。
ほむらに着いて皆が館に辿り着くと、ドアを開けてくれたのは執事でした。一瞬別荘の執事かと勘違いしそうになりましたが、よく見ると別人です。彼は丁寧に言いました。
[ようこそ皆様、ガルシア男爵がお会いしたいとおっしゃっています]
五にんは書斎に案内されました。本がぎっしり詰まった本棚があります。窓を背後に大きな机があり、書類の束が積み上げられています。机には気難しそうな男性が座っていました。髪は銀に近い金髪で、瞳は薄いブルーです。眉間と口元に皺がありました。彼は不機嫌そうに言いました。
[娘の犬を探し出してくれて感謝している。犬などいつでも買えるのだが、娘はあれがいいと泣くのでな]
その言葉に、皆は表情を変えました。
[お前たちを呼んだのは娘がどうしても会いたいと言うからだ。余計なことは言わないようにな。ひとり頭金貨一枚を渡したのもそのためだ]
パーティの、特にほむらがいかにも嫌そうな顔になりました。
[なにを言われたら困るんだ。お前が森にお嬢様の鳥を捨てたことか?]
[ほむら……]
[口答えはやめろ!]
ガルシア男爵は唸り声を上げます。
[図星だったようでございますね!]
[ほむら!]
かざみが鋭く囁きました。
[怒るにも値しない相手だ。危険な真似はよせ]
その言葉に、ガルシア男爵は顔を赤くしました。
[お前らに渡した金など、いつ取り上げても良いのだぞ!]
[おお、それは違うと思うの、ガルシア男爵]
うみが凛とした声を上げました。
[これは冒険者ギルドを通した取引よ。ちゃんと契約書にも書いてあるの。うみたちは立派に犬を取り戻し、ギルドがお金を払ったの。うみたちから男爵が報酬を取り上げるのは、契約違反よ]
ガルシア男爵は再び唸り声を上げます。
[鳥を捨てたのは魔物だったからだ! 出入りの商人が珍しい鳥がいると言うから手に入れたが、あのような不気味な魔物、娘の傍には置いておけん!]
皆は表情を険しくします。
[森の奥に捨てて、逃げたと言ったら娘が泣くから犬を買ってやった。親の勤めは果たしておる!]
[おお、それなら犬のハヤテちゃんが攫われたのは男爵の責任よ! 冒険者ギルドには事実を偽って依頼をしたことになるのね。うみたちが訴えれば、違約金を取られるのは男爵の方よ!]
うみが声を張り上げると、ガルシア男爵は頭を抱えました。
[もう良い! わかった! ふさぎ込んでいた娘が元気になり、わしもお前らに感謝しておる! これでいいな、娘に会ってやってくれ。余計なことは……なるべく言わないでくれ]
言って男爵は頭を掻きむしります。ほむらが低い声で言いました。
「うみ、ありがとな」
五にんは執事に、お嬢様の部屋に案内されました。
[初めまして! 私はエステル。貴方がたがハヤテを取り戻してくれたのね! 本当にありがとう!]
犬のハヤテを傍に置いたエステルお嬢様は、パッと花が咲くような笑顔で言いました。父親と同じ金髪碧眼で、ただ、顔はあまりガルシア男爵に似ていませんでした。きっと母親似なのでしょう。年頃はうみたちと同じくらいに見えます。ハヤテは尻尾を振ると、嬉しそうにワンと吠えました。
[私も鳥人に生まれたかったわ。皆さんはお空を飛べるの? なんて羨ましいんでしょう!]
[おお、エステルお嬢様、飛べるのはまだこのオキナさんだけなの。でも翼を使えば、ヒトより遠くまで跳ぶことはできるのよ。そうやってハヤテちゃんやヤギさんたちを救出したのね。ヤギさんを抱えてきたのは、力持ちのかざみとおととよ]
[まあ、大冒険だったのね!]
エステルは目を輝かせます。
[エステルお嬢様、窓を開けていい?]
突然そらが言いました。
[もちろん良くてよ。でもどうして……]
そらはすぐに窓を開けます。すると灰色の鳥が部屋に飛び込んできました。
[チッ、雨が降ってきやがった!]
言って羽根をブルブルと震わせます。そしてなにごともなかったかのように、そらの肩に止まりました。エステルの目が驚きに見開かれます。
[ハヤテ!]
そらがニコニコ笑って言いました。
[ね、鳥のハヤテちゃんよ。お嬢様のお友達でしょう?]
言うとエステルは口元を押さえ、涙を溢れさせました。
[おおハヤテ! 生きていたのね]
鳥のハヤテはなにも言わず、横を向きます。エステルはハンカチで涙を拭いました。
[ハヤテ、私にはわかっていたの。鳥籠はハヤテには小さかったでしょう……?]
エステルの傍では、犬のハヤテが怯えたようにキャンキャン鳴いています。エステルは一歩前に出ました。
[あなたと過ごした日々はとても楽しかったわ。ハヤテのこと、忘れない。撫でてもいい……?]
ハヤテは黙って首を差し伸べます。エステルは優しくハヤテの頭を、背中を撫でました。
[ああ、嬉しい。もう一度会いたいと思っていたの。だけどもう、あなたは自由よ]
ハヤテはなにも言いません。
[おお、おとと、ハヤテちゃんに着いて来て貰ってはいけない?]
うみが言いました。
[使い魔にするってことか?]
ほむらが言いました。鳥のハヤテはツンと横を向きます。
[使い魔は素敵だけど、それより、ハヤテちゃんとはお友達になりたいのね。ハヤテちゃん、そらたちと一緒に冒険者にならない?]
そらが可愛らしい声で言いました。
[ね、エステルお嬢様、ハヤテちゃんが仲間になってくれたら、様子を知らせるのね。そらは共通語で字が書けるのよ!]
エステルは涙を拭って笑いました。
[それは凄いわね!]
「冒険者ギルドに戻ったら、うみとそらのご両親について問い合わせなくてはならないな」
館を出て歩きながら、かざみが言いました。
「お兄ちゃん、父さんと父ちゃん、見つかるといいね!」
「そ、そうね……」
うみは元気なく言います。
「正直お前ら強いから、このままパーティでいられたら嬉しいんだけど、保護者がいるならしょうがないよな……」
ほむらが残念そうに言います。
「アホー! アホー!」
その時、カラスの鳴き声がしました。ほむらが指さします。
「あっ! お前、俺たちに付き纏ってたカラス!! なあ、そら、そうだろ?」
上空から白い翼の鳥人がふたり、舞い降りてきました。背が高く、白い翼を畳んでも、とても目立ちます。カラスはふたりのうちの、赤い冠羽根の鳥人の肩に、澄まして止まりました。
「やあ、無事冒険を終えたようだね!」
「カァ、カァ!」
「父ちゃん!!!」
そらが嬉しげに赤い冠羽根の鳥人に突進し、抱きつきました。父ちゃんは目を細めて、そらの頭を撫でます。父ちゃんは燃えるような赤い冠羽根に、赤い瞳を持っていました。しなやかな腕と脚はとても長く見えます。
「ごめんね、はぐれちゃって。でも立派に仲間も見つけて、冒険も成功して良かったじゃん!」
「父ちゃん、そら、頑張ったの! 撫で撫でして!」
「いいよ~!!!」
父ちゃんも嬉しそうにそらの頭をぐしゃぐしゃと撫でます。うみがおずおずと言いました。
「父ちゃん、うみたちのこと、見ていたの?」
父ちゃんは片目を瞑りました。
「そうだよ。たまたま近くにいたこのカラスくんに使い魔になって貰ってね。なんかうまく行きそうだから、見守りに徹しちゃった! まぁ、森には慣れてるし、見つけた仲間も強いし、そんなに心配はしていなかったんだよね!」
「良くやった」
緑の冠羽根の父さんが言いました。彼は父ちゃんと同じくらい背が高いですが、がっしりとした身体つきです。彫りの深い顔は整っていて、黄金色の涼しげな目をしていました。
「アラシ君! そもそもキミが反対方向に歩いて行くから、この子たちを見失ったんじゃん!」
「すまない、イカヅチ」
かざみが驚いて目を瞠りました。
「アラシ殿とイカヅチ殿……!? 伝説の冒険者ではないですか!」
「アラ~! 俺たちのこと知ってたの!?」
イカヅチはそらを離すと、ひょいとかざみの顔を覗き込みました。
「へぇ、キミ、若い頃のアラシ君にちょっと似てるじゃん!」
「……イカヅチ」
イカヅチは笑い声を立てます。
「アラシ君たら、こんなちっちゃい子にまで嫉妬しちゃうの!?」
するとほむらがかざみとイカヅチの間に割り込みました。イカヅチを睨んで両腕を広げます。
「おやおや……」
「ご無沙汰しております、先生」
アラシが落ち着いた声で言いました。
「久しぶりに弟子を取られたのですか?」
「道楽のうちさ」
オキナがニヤッと笑います。
「こんなに愉快な冒険はそうはなかったぞ。腹がよじれたわい」
「そうかそうか、強い剣士と強いレンジャー、最高の先生もいるときた! うみ、そら、いい仲間を見つけたね!」
父ちゃんの言葉に、うみは目を瞠りました。
「おお父ちゃん、うみたちは皆さんに着いて行っても構わないの?」
「勿論だとも!」
「頑張れ」
「じゃあねみんな、バイバ~イ!!」
ふたりは大きな白い翼を広げると、風を巻き起こし、稲妻のような速さで飛び去って行きました。
五にんはふたりが小さくなってゆくのを見ていましたが、我に返って冒険者ギルドに足を向けました。
「なあなあ、正式にパーティになったなら、リーダーは誰にする?」
ほむらが言います。
「おお、やっぱりかざみかしら?」
うみが言いました。ほむらは首を捻ります。
「うーん、俺とふたりの時はそうだったけど、このメンバーだとな~んか違う気がするんだよね~!」
「そうだな」
かざみが言います。
「俺は剣を振るい、風を起こすことはできるが、言葉で仲間を鼓舞するのは苦手だ。そう思うと、パーティのリーダーには、うみがふさわしいと思う」
「おじいちゃんを除けば、一番年上だしね!」
ほむらが同意します。
「おお……皆さんはそれでいいの?」
「ベストだと思うぞ」
「さすがお兄ちゃんね!」
そらが嬉しそうにしました。
「ねえ、ハヤテちゃんはそらたちの仲間になってくれるの?」
ハヤテはそらの肩に止まって言いました。
「さっさと冒険者ギルドに戻ろうぜ! せっかく止んだ雨がまた降り出しそうじゃねぇか!」
一組のきょうだいと一組のつがいに、ふたりの灰色の魔法使い。彼らの記念すべき最初の冒険が終わりました。
しばらくお待たせすると思いますが、次回作『ひなどりたちの冒険譚 さらわれた花嫁』でまたお会いしましょう!
また、『ふたりのハヤテ』は紙の文庫本とKindle Unlimitedで出版予定です。紙の本は5月11日(日)の文学フリマに持って行きます!
出版は道楽です。WEB版はここにはずっと残しておくので、特に紙でも電書でもなくていい方は、引き続きこちらでお楽しみください!




