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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第四章 トラキア連邦
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第五十八話 黒死病の村

 アレク達ユニコーン小隊は、一時間程で偵察を担当する村の上空に到達する。


 ルイーゼが地図を確認して、アレクに報告する。


「アレク、作戦地域に到達したわ!」


「了解! これより作戦行動に移る。ルイーゼ、僚機に手旗信号で伝達。『作戦開始』」


「了解!」


 ルイーゼが手旗信号で偵察任務の開始を各機に伝えると、小隊の各機はアレク達のユニコーン・リーダーに続いて低空飛行に移った。


 アレクが口を開く。


「高度一〇〇、目標高度に到達。これより偵察を開始する!」


「了解!」


 アレク達は一定間隔で編隊を組み、低空飛行で地上の村の様子を偵察する。








 作戦目標の村は、ヨーイチ男爵領の開拓村と、あまり変わらない佇まいであった。


 村には、ほとんど人の姿が見当たらない。


 村の上空を何回か周回して偵察を続けたところで、ルイーゼが口を開く。


「アレク。あれは・・・?」


 アレクは、ルイーゼが指で指した、村の広場の方を見る。


 驚いたアレクが口を開く。


「まさか! 広場に積まれてあるアレって、全部、人か!?」


「ええっ!?」


 村の広場に積み上げられていたのは、無数の人間の死体であった。


 上空から見たのでは、細部までは確認できなかったが、人間の死体であるのは間違いないと思われた。


 アレク達が村の上空を旋回するのを見た村人達が、白旗を手に持って家から通りに出てくる。


 ルイーゼが口を開く。


「白旗!? ・・・どうやら、村の人に交戦する意思は無さそうね」


 アレクが答える。


「だといいけど。・・・とりあえず降りてみよう」


 アレク達ユニコーン小隊は、村の郊外に飛空艇を着陸させる。





 

 

 アレク達が飛空艇から降りると、村人達が白旗を手にアレク達の元にやって来て、跪いてひれ伏す。


 先頭の村長らしき者が口を開く。


「騎士様。何卒、私達をお救い下さい」


 アレクは片膝を着いて、ひれ伏す村長に声を掛ける。


「この村で、一体、何があったんだ?」


 村長は、顔を上げてアレクに答える。


「・・・疫病です。死の病です。鼠人(スケーブン)の襲撃は、連邦軍の助けで退けました。しかし、その後、この疫病が流行して多くの村人が死にました」


 アレクは村長に尋ねる。


「連邦軍は?」


「疫病が流行り出すと伝染を恐れて、この村から去っていきました」


 アレクは立ち上がって、自分たちの前にひれ伏している村の人々を見る。


 皆、一様に痩せこけており、苦労していることが見て取れた。


 ルイーゼは村長に尋ねる。


「あの村の広場に積み上げている死体の山は?」


「疫病で死んだ者達です。村の郊外の墓地に移すと、死体を狙って鼠人(スケーブン)達がやって来るので・・・」


 アレク達は、村人達と共に村の中に入ると村の様子を見る。


 アレク達が村の通りを歩いて行くと、村の家々や通りのあちこちに疫病による病死体があった。


 疫病による病死体は、体の至る所が壊疽(えそ)によって、真っ黒に変化していた。


 病死体を見たドミトリーは思わず口を開く。


「これは・・・? 黒死病(ペスト)!?」


 アレクはドミトリーに尋ねる。


黒死病(ペスト)?」


 ドミトリーは周囲に語る。


「そうだ。 体の至る所が壊疽(えそ)によって、真っ黒になって死ぬという『死の病』だ。 この病に罹ると、まず助からない。 みんな、絶対にこの村の病死体に触るな。 動物の死体にもだ」


 真剣な表情で力説するドミトリーに、いつもはフザけているエルザとナディアも素直に聞き入る。


「・・・判ったわ」


 ナタリーはドミトリーに尋ねる。


「どうして、この村で黒死病(ペスト)が?」


 ドミトリーが説明する。


「・・・黒死病(ペスト)は、鼠が多い地域で流行するのだ。 恐らく、鼠人(スケーブン)達が感染源だろう」


 アルは苦笑いしながら口を開く。


「作物や家畜どころか人間まで食べ尽くした挙句、活動した地域で黒死病(ペスト)を巻き散らすとか。・・・鼠人(スケーブン)って、どんだけ迷惑な連中なんだ」


 アレク達と村長達が話していると、家の中から奇抜な格好をした者が現れる。


「おや・・・? そこの僧侶は、私よりも黒死病(ペスト)に詳しいようですね」


 細長い杖を手に持ち、全身をフードが付いた黒い革のロングコートで覆い、顔には仮面を付けていた。


 その仮面は、目の位置に秘密警察のような丸いレンズを二つはめ込み、口の位置には、細長い鳥のくちばしのような形になっていた。


挿絵(By みてみん)


 アレク達は、家の中から現れた者を警戒して、戦闘態勢を取る。


 奇抜な格好をした者は、慌てて自己紹介をする。


「皆さん、落ち着いて下さい。 私は怪しい者ではありません。 私は『黒死病(ペスト)医』です」


 剣を構えたまま、アレクが口を開く。


「・・・その格好で『怪しい者ではありません』と言っても、説得力が無いだろう」


「少々、お待ち下さい」


 その者は、そう言うと奇抜な仮面を外し、被っていたフードを退け、アレク達に顔を見せる。


 東洋風の黒目黒髪の顔立ちの青年であった。


 顔を見せたこともあり、アレク達は構えていた武器を降ろした。


「申し遅れました。私、黒死病(ペスト)医のマイロと申します。皆さんは、・・・連邦軍ではありませんね? その帝国騎士(ライヒスリッター)の装備を見ると・・・」


 アレクは、マイロに答える。


「バレンシュテット帝国辺境派遣軍だ」 


「やはり。そうでしたか」


 マイロは、今までの経緯をアレク達に話す。


 マイロが話しでは、マイロは連邦軍と一緒にこの村に来たが黒死病(ペスト)に苦しむ住民を見捨てることができず、連邦軍が去った後もこの村に留まったとの事であった。


 マイロはドミトリーに話し掛ける。


「僧侶の方。バレンシュテットの医学は、トラキアよりも遥かに進んでいるようですね。是非ともご教授願いたい。黒死病(ペスト)による病死体は、どの様に処理したらよろしいか、ご存じありませんか?」


 ドミトリーはマイロに答える。


「異論はあるだろうが、黒死病(ペスト)の流行を防ぐには、火葬にしたほうが良いだろう。病死者が着ていた衣服も燃やしたほうが良い」


「・・・なるほど。これ以上の流行を防ぐには、どのようにしたら宜しいでしょうか?」


「患者を隔離し、衛生に注意しろ。糞尿は道路や戸外に巻き散らすのではなく、人家から離れた場所で一か所に集めて肥料にするように。鼠が群がるような環境はダメだ。衣服や頭髪は清潔にして、ノミやシラミが湧かないようにするのだ」


 ドミトリーの話にマイロは深く頭を下げる。


「なるほど。流石、バレンシュテット帝国ですね。ご教授に感謝致します」


 ドミトリーの解説を聞いていたエルザとナディアは感心する。


「ドミトリー、凄い!」


「只のハゲじゃないのね!」


 二人の言葉に顔を引き吊らせながら、ドミトリーが答える。


「拙僧も、まだまだ修行中の身。・・・しかし、我々も早くこの村から立ち去ったほうが良い。・・・それにしても、黒死病(ペスト)の流行とは! もはや、戦どころではないぞ!?」


 アレクは小隊に指示を出す。


「そうだな。ドミトリーの言うとおりだ。皆、飛行空母に戻ろう」


 アレクはマイロに話す。


「もうすぐ帝国軍が来る。救護班を寄越すように話しておくよ」


 マイロはアレク達に頭を下げる。


「ありがとうございます。お世話になりました」


 アレク達は、飛空艇に乗り込む。


 トゥルムは、ドミトリーに尋ねる。


鼠人(スケーブン)はバレンシュテット帝国でも暴れていたが、何故、帝国では黒死病(ペスト)が流行しなかったんだ?」


 ドミトリーが答える。


「・・・『魔法科学文明』による『公衆衛生』の違いだ。黒死病(ペスト)は、※(注)鼠が運ぶと言われている。帝国には、鼠が蔓延る環境が無いだろう? ・・・上下水道があり、魔導石によりお湯を沸かして入浴する習慣がある。しかし、他国には上下水道は無く、糞尿や残飯は戸外や路上に撒き散らすうえ、入浴するような習慣は無い。その違いだ」


(※ペスト菌を保有する、ネズミなどのげっ歯類から『ネズミノミ』を介して感染します)


 ドミトリーの説明にトゥルムは感心する。


「なるほどな・・・」


 アレク達ユニコーン小隊は、飛空艇で飛行空母へ帰還の途に着いた。


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