第79話 死のカウントダウン、ピンクの液体を・・・
「あぐっ?!」
突然痛みが走りまなみが片足を上げた。
見るとふとももが避けたように切れ血がにじみ出ていた。
肺に感じる毒の不快感は増すばかりで体の痺れを徐々に感じていた。
「ぐぁっ?!」
再び穴を覗き込もうと動いた竜一の背中にも痛みが走る。
それで竜一はなんとなく理解した。
皮膚が伸縮をしなくなっているのだ。
人体という物は関節の可動を行なう際に皮膚が伸縮する事で動く事が可能となっている。
もしもその皮膚の伸縮が起こらないとしたら・・・
身動き一つと共に皮膚は裂けてしまう・・・
「こんな毒・・・注射程度で助かるのかよ・・・」
竜一は痛みが走る背中を押さえようとする本能を無理矢理押しとどめて穴の中を覗く・・・
手を伸ばせばいくつかの注射器には手は届くが探すべきはあのピンクの液体が入った注射器だ。
カラフルな液体が入っている中にはどんな薬品が込められているのか分からず躊躇するまなみ。
「どうしよう・・・」
まなみの言葉は竜一に尋ねているのではなく独り言だろう。
だが以外に焦りがあまり見えないのに竜一は安堵していた。
5分で死に至ると言っていた・・・
つまり5分は生きられるという事だ。
「とりあえず手の届く注射器を引き上げてみよう」
竜一の言葉に一緒に手を伸ばすまなみであったが、腕を伸ばすと共に肩や背中、膝に指まで皮膚が裂けて痛みが走る。
出血に関しては毛細血管から血がにじみ出る程度なので大した事は無いのだが、動くだけであちこちの皮膚が裂ける痛みは次々と2人を襲う。
手から滴る血で注射器が赤く濡れるが構わず何本か針に触れないように掴み上げ横に置いていく・・・
空、緑、黒、白、空、紫、黄・・・
2人で15本程の注射器を皮膚が裂けながら引き上げるがその中に探していたピンクの液体が入った注射器は無かった。
そして、2人の動きはそこで止まる・・・
互いに見合う竜一とまなみ、手の届く範囲の注射器はあらかた取り出してしまったのだ。
つまりこの先は注射器が詰まった穴の中へ降りるか道具を使うしか無いのだが・・・
「あぐっ!」
今まで大丈夫だった腹部の皮膚も避け始め首の皮も張り始めてきたのを感じていた。
既に2分半が経過し残り時間が半分になった2人・・・
その2人をモニターで見る別室の竜一とまなみも同じように皮膚が裂けて血がにじみ出ていた。
「ふ、二人共大丈夫?!」
「あ・・・あぁ・・・俺達は動いても問題ないみたいだけど・・・これはきついな・・・」
白根の心配する言葉を聞いて3人の視線は死んだ竜二の遺体へ向く。
その横に2人が並んでしまえば残るのは白根1人、そう感じつつも竜一は口を開く。
「だけど・・・自分を信じるしか無いだろこれは・・・」
全身から血が滲み垂れ始める竜一であるが自らの椅子に戻りモニターに視線を戻す。
残り2分ちょっとであの場所まで行ってもう1人の自分達と同じように本に触れて中へ入ったとして助けられるかと聞かれればNOと答えるしか無いだろう。
痛みで呻くような鳴き声を漏らすまなみの背を撫でる白根をチラリと見つつもモニターに視線を戻す竜一。
頭の中では必死にモニターの中の自分と同じように解決策を考えていた。
だがあの注射器の中身が一体どんな液体か分からない以上は中へ飛び込むという選択肢はありえなかった。
それこそ硫酸などの液体が入っていた場合毒以外の方法で死ぬのも十分にありえるのだ。
そして、そんなモニターの前の竜一と同じように穴の前の竜一も身動きを取らずに考えていた・・・
「いやぁああ・・・」
穴の前のまなみからの悲鳴に竜一は目を疑った。
まなみの唇が溶ける様に垂れ始めたのだ。
瞼も目を隠すように折り始め筋肉が機能しなくなり始めていたのだ。
「くそ・・・何か・・・何か無いのか・・・」
竜一は周囲を見回す。
首の皮膚が裂けて首周りを切り裂かれたように痛みが全方向から襲い掛かるがそれも気にせずに竜一は探し続けた。
自分の指が既に上がらなくなりつつあるのも気付いていたがそれよりも竜一は何か無いかと必死に探す・・・
そして、竜一は一つの方法を思いついた!
「まなみ!我慢しろよ!」
そう言って皮膚が裂けるのを無視して竜一は腕を伸ばしてまなみの腕を掴んだ!
握力がもうあまり無かったが指ではなく手の平で包み込むように引っ張りまなみをそこへ連れて行く!
竜一の頭の中ではあのアナウンスを思い出しながら最後の賭けに出ていたのだ!
そう、アナウンスは言った・・・
『これと同じ物がそこの穴の中に何本か入れてある、それを見つけて自分の体内に入れられれば10分後に開く扉から外へ出られる。』
そう、あのピンク色の液体を体内に入れられれば助かると言っていたのだ。
2人の進む方向の床には割れた小瓶と床に広がるピンク色の液体が残っていた。
あの声は注射器で打ち込めとは言わなかった。
体内に入れられればと言ったのだ。
それはつまり・・・
「まなみ我慢しろよ!」
そう言って竜一は床に残っていたピンクの液体に指をつけてその指を溶け始めているまなみの唇の中へ突っ込んだ!
そして、自分はそのままその上に倒れ舌で液体を舐め取る!
ガラスが割れたので破片が落ちているが既にあちこち裂けていてそんな事はお構い無しに竜一は床を舐めた!
「たす・・・かったの?」
「びだい・・・だな・・・」
舌が裂けた竜一は言葉が上手く話せない、倒れた床に自分とまなみの血が広がっているがそれ以上の皮膚が裂ける事は無かった。
5分が過ぎても2人は生き残ったのだ・・・
そして、2人は何も言わず天井を見上げ次のアナウンスを待つ・・・
『コングラッチュレーション』
それは天井ではなく頭の中へ響き渡った。
2人の意識は声の後突然闇に溶ける様に消えモニターの中の工場の様な場所は真っ暗になるのであった。




