第78話 嫌者の本の中へ
「うわぁああああああ!!!!」
警備室と思われる場所でモニターの前に座っていた竜二が叫び声を上げて手首を押さえようとするのだが、両手首から吹き出す血に抵抗も虚しく夥しい血が竜二の体と部屋を赤に染めていく・・・
モニターの中の竜二と同じように手首に刃物を差し込まれたような傷が突然開き床に転げまわる竜二。
痛みなのか恐怖なのか本人にしか分からないが叫び声を上げてのた打ち回る。
「ぁ・・・ぁ・・・」
目の前の恐怖にどうする事も出来ないまなみと白根は座ったまま飛び散った竜二の血を少し受けながら固まる。
そのなか竜一だけが竜二に駆け寄り自分の服を竜二の手首に巻いて止血を行なおうとするのだが・・・
「くそっ血が止まらない?!」
人間は体内の血の30%を失うと生命の危機に陥るという。
人体の中に流れている血は体重の約8%だ。
成人男性で1.5キロの出血をすると生命の危機と言われているのを竜一は思い出しながら止血を何とかしようとするが抵抗もむなしく・・・
「い・・・いやだ・・・いやだよ・・・兄ちゃん・・・」
「竜二!しっかりしろ竜二!!」
そのまま竜二は目を閉じてモニターの中の竜二と同じように息を引き取った・・・
「う・・・そ・・・」
その光景を目の当たりにした白根は両手を口元に置きながら震える・・・
まなみも竜二の遺体から目を背け震える・・・
竜一は抵抗も虚しく竜二の亡骸に破いた上着を被せ椅子に戻って頭を抱える・・・
どうしてこうなった・・・
なぜ竜二が死ななければならないのか・・・
疑問が頭の中を駆け巡るが答えは出ずに溜めた涙を流しながら顔を上げる・・・
「続きを見よう」
竜一の言葉に2人は頷き椅子に座りなおす。
失血死の場合心臓マッサージが意味を成さないのは当たり前である。
幾ら心臓を動かしても出血が増えるだけなのだから。
3人はげっそりとした顔のままモニターに視線をやるのであった。
隠し部屋を出た竜一の背中には血塗れの竜二が背負われていた。
験者の本は白根が拾い抱きしめるように持ちながら竜一の後を付いてきていた。
「一度あの部屋に戻ろう・・・」
「うん・・・」
一番後ろを歩くまなみは今起こった事を理解しきれないのかブツブツと何かを言いながら付いてきている・・・
今回の事でこのデスゲームが本物だと判明した。
それを3人は理解しあの部屋へ戻るのであった・・・
「ここに置けばいいのかな・・・」
「その前にそれ何が書かれているんだろうな・・・」
白根が験者の本と書かれたくぼみに本を置こうとして竜一の言葉にその手を止める。
しかし・・・
「あれ・・・開かない・・・」
本には特別おかしな事は何も無いにも関わらず開く事が出来なかったのだ。
見た目は普通の紙の本なのにページがまるで1つの塊の様に開く事が出来ないのだ。
白根のその言葉に竜一はそれ以上何も言わず開こうとする白根の手をそっと押さえた。
その場に竜二の遺体を降ろして白根の方を向いて頷く。
「置くね」
白根がその窪みに験者の本を置いた。
すると部屋の空気が少し変わった感じがして甘い匂いが漂ってきた。
その香りを嗅いだ時にまなみの表情が変化した。
「この匂い・・・まさか・・・アソコに・・・」
フラフラとまるで夢遊病患者の様にまなみは1人歩き始めそれを白根と竜一は止めようとする。
だがまなみはじっと2人を見詰め。
「本を揃えないとここから出れないのよ?行かなくちゃ」
今までと全く違うまなみのハッキリとした口調に白根と竜一は驚く。
まるで人が変わったかのように感じまなみが進む後を付いていく。
「こっち・・・」
まなみが向かったのは医学関連の棚であった。
そして、それは在った。
「これが・・・嫌者の本・・・」
本棚の角に小さなテーブルが置かれその上に本が1冊置かれており表紙に嫌者の本と書かれていた。
そのままその本に手を伸ばすまなみだが竜一がそれを止める!
「まてまなみ!うかつに触るな!」
だがまなみは竜一が肩を掴んだのにも関わらず意味を成していない様に本へ向けて手を伸ばす。
まるで機械が動くのを止めようとしても無駄だと感じるようにまなみの体は竜一の抵抗を全く物ともせずに動いたのだ。
そして、本を手にした瞬間まなみと触れていた竜一の意識はフッと消えるのであった。
「えっ・・・本に・・・入った?」
モニターの前の3人は唖然としてそれを見ていた。
その場に残された白根は目の前で2人が本の中へ吸い込まれていく様を目の当たりにして本に触れる事無く辺りを見回しその場で待つ。
そして映像は切り替わり図書館の中とは思えない光景がそこに広がった。
そこは工場の中の様な作りであった。
目の前に5メートル四方の四角い穴が開いており、中にはぎっしりと見覚えのある物が入っていた。
その前に立つ竜一とまなみは突然咳き込み始める。
「げほっごほっごほっ・・・」
「けほっえほっえほえほ・・・」
まるで肺の中に水が入った様な違和感を2人は感じ互いの顔を見て恐怖に震える・・・
2人の顔がブレて残像の様に血塗れで死んでいる表情が残像の様に浮かんでいたのだ。
『ようこそ、毒の部屋へ』
工場のアナウンスの様な声がそこに響き竜一とまなみは咳き込みながらも顔を上げる。
『この場所には約5分で死に至る毒が充満している。君達の目の前に在るピンク色の液体が見えるかい?その中にはこの毒の解毒剤が入っている』
そう言って視線をやると床にピンク色の液体が入った小さな瓶が置かれていた。
2人のうちのどちらか1人だけ助けるとかそういう話かと竜一もまなみも覚悟を決めるが・・・
「これと同じ物がそこの穴の中に何本か入れてある、それを見つけて自分の体内に入れられれば10分後に開く扉から外へ出られる。それじゃあ頑張ってね」
そのアナウンスが終了すると同時に床に置かれていた小さな瓶は何もしていないにも関わらず破裂した。
竜一とまなみは互いに見合って視線を穴へと向ける。
中に在るのは大量の注射器、液体が入っているのかカラフルに様々な液体が入った状態で置かれているその中へ入りピンクの液体が入った注射器を自らの体内に打ち込まなければならない事実に2人は立ち尽くすのであった。




