Uエンド
召喚者「偉大なる猫」
人影があった。
長い脚に細身の胴、指もちゃんと五本ついている。
そして、頭の部分も丸い。
だが、その大きさが普通の人とは違った。
召喚者の頭は、猫であった。
それも、とても凛々しい山猫そっくりであった。
王は恐る恐る猫頭人身の召喚者に近寄り、頭を垂れた。
そして、召喚者に魔物によって世界が危機的状況であること、魔王と呼ばれる存在がその頭目であること、そして『救世主』として魔王を倒し、この国を救ってほしいと伝えた。
『救世主』はふかふかの顎に手を当て首を傾け、口を開いた。
「別にいいけど、その後ちゃんと元の世界に帰れるのよね?」
鈴の転がるような澄んだ、女性の声だった。
面食らった王がどもりながら、「もちろんです。」と伝えると、『救世主』は魔王の居場所を聞いた。
大臣が持ってきた地図を確認し、魔王の城に印をつけると『救世主』は「行ってきます。」とだけ言い残し、走って離宮を飛び出していった。
常人では出せないほどのスピードで、王や近衛たちが慌てて外に出た時には、すでに『救世主』の姿はなかった。
そしておおよそ2週間後、『救世主』がひょっこりと帰ってきた。
手には倒したとの証である、魔王の首を持って。
その話はすぐに城下へと広まり、『救世主』を称える物語や書籍などが国に溢れ返った。
当の本人は、魔王を倒すとさっさと元の世界へと帰ったため、誰も名を知らなかった。
そのため、『救世主』は国の言葉で、偉大なるという意味のバス、猫と言う言葉のテトの二言を合わせた「バステト」と呼ばるようになった。
いつしか「バステト」は国の主神となり、人々はとても猫を大切にするようになっていった。
『救世主』バステトによって、国は救われたのだった。
それから数百年後、国は戦に負け、滅びた。
猫を体に括り付けた兵士が敵国によって投入され、主神の化身である猫を切れない兵士は皆倒されたのだった。
皮肉にも、全く同じ存在によってこの国は救われ、そして滅びたのだった。
『救世主』バステトによって。
当の彼女はそれを知らないだろう。
なぜならば、神などこの世界に居ないのだから。




