Tエンド
召喚者「軍人」
一人の若い男が立っていました。
網の被った丸い帽子に、上下お揃いの高そうな生地の着込み、それらすべてが黒、緑、茶色をごちゃまぜにしたような色になっていました。
そして、彼、『救世主』はとても大切なものを持っておりました。
偉大なる神の武器「ハチハチシキ」です。
『救世主』は王から、人々が魔王によって苦しめられていると聞きました。
「ならば私に任せてください。」と『救世主』は言いました。
『救世主』は自分と同じ服を何着か作らせ、それを着た何人かの護衛を引き連れて魔王の城まで行きました。
途中、何度も魔物と遭遇しましたが、「メイサイ」と名付けられた服によって森に紛れ、一行は何事も無く無事に魔王の城へとついたのでした。
そして、城に潜り込むと気づかれないようにこっそりと魔王のいる玉座に向かいました。
そこでは、魔王がすでに待ち構えており、『救世主』との戦いを始めたのでした。
激しい死闘を繰り広げるうちに、一人、また一人と護衛の仲間が倒れていきました。
残るは『救世主』のみ、そんな危機的状況下で、「ハチハチシキ」が光を発し、魔王は倒れたのでした。
そして、魔王が居なくなった世界は平和となり、『救世主』の栄誉を称え、世界中の軍は「メイサイ」を着込み、神の武器の模倣品である「ハチキュウシキ」を携えることとなったのでした。
「この物語みたいに、俺は『救世主』でありたかったんだけどね。」
『救世主』はそう言いました。
召喚陣による再送が行えず、人々の英雄として暮らすこととなった『救世主』は、生前よくぼやいていたそうです。
王宮離れの地下書庫に隠されていた、『救世主』の行動を記録した書物によると、魔王殺しはもっとつまらないものだったらしく、ただ忍び込み、遠距離から油断した魔王の頭に発砲しただけだそうです。
それが、物語では捏造されていて、『救世主』は生前よく苦笑いをしていたそうです。
でも、時折苦笑いから酷く悲しい顔をしたそうです。
世話係がそのことを聞くと、彼は「ハチキュウシキ」と「メイサイ」の普及に酷く悲しんでいたとのことです。
「きっと、この世界も俺たちの世界と同じになる。」と彼は何度も口にしたそうです。
人と人とが、遠距離から殺し合う世界になると彼は予想していました。
そして、それは正しかったのです。
今日も、どこかで小競り合いが起こっています。
飾りとは言え王族である私は、幕僚会議に参加する義務があり、その報告を聞くこととなります。
そして、軍師が作った作戦を承認します。
それが私の役割だからです。
今日もまた、「メイサイ」でまぎれた兵士が、「ハチキュウシキ」で人を殺します。
『救世主』がこの世界を見たらどうように思うのでしょうか。
それは、私にはわからないのでした。
ただのお飾りには、一切わからないのでした。




