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episode2

 その後、2ちゃんねるでも「『小説家になろう』で痛い小説を載せる奴を晒すスレ」で晒された小山田のページは、インドネシアのスマトラ山火事もびっくりなくらい炎上し続けた。

 もともと負けん気の強い小山田が、自分を罵倒するコメントを間に受け、馬鹿正直にコメントを返していたのも炎上が肥大化した要因の一つであるが、そもそも何故このような事態になってしまったのかを理解できない彼の頭にも大きな問題があった。

 数日後、事態を重く見たサイトの管理者は小山田に厳重注意を通達。即刻アップした小説を削除するように要請した。だが、怒りの冷めない小山田はその忠告を無視し、小説を頑なに載せ続けた。その結果、彼のページは二日後には強制削除され、この世から跡形も無く消滅していた。

「ふおおおおっ? 俺様の小説が消えただとおっ?!」

 朝起きて、サイトをチェックした小山田は、衝撃の事実に自室内で一人咆哮した。

「未来の偉大なる小説家に対してなんたる仕打ち! こんな横暴が許されるのか? この世に表現の自由は無いのか? 今日この日、民主主義は完全に死んだのだ!」

 だが。

 時間が経つにつれ、怒髪天状態だった小山田の頭が少しずつ冷静になり始める。そして、考えた。何故、このような事になってしまったのか。

 人間とは考える葦である。怒りに身を任せ、理性を失ってはいけない。小山田の身に、今、パスカルが降臨していた。そして五秒の長考(小山田基準)の末、小山田はある一つの結論に達した。

「時代が追いつかなかったか……」

 自分の才能が時代に比べて早すぎたのだ。いつの時代も、早すぎる才能に世は難色を示す。これは仕方の無い事なのだ。ならば、自分の才能レベルを時代に合わせて落とすしかあるまい。ああ、なんと自分は寛大な人間なのだろうか。

 小山田はそう結論付けて一人納得した。全く持って、彼はめでたい性格であった。

 だが、どちらにしろこのままの状態では自分は小説家になれない。一体どうしたものかと悩もうとした時、何気に時計を見た小山田は目を見開いて驚いた。

 時刻は夜の九時。そして今日は金曜日。そう、金曜ロードショーが始まる時間である。

 小山田は慌ててTVをつける。とりあえず、悩むのは映画を見た後だ。

 小山田は活字は嫌いだが、映画は漫画と同じくらい好きだった。基本的に深く考えるのが苦手な小山田は、TVや映画のように視覚的に情報が流れ込んでくる方が理解できる。そもそも、彼は文章を読んで情景を思い浮かべる行為そのものに怒りを感じてしまう人間なのだ。本気で小説家を目指すのはやめろと言いたい。

 そして、金曜ロードショーは始まった。

 今回放映される映画は、1990年代のイギリスを舞台に、魔法使いの少年の学校生活や、主人公の父母を殺害した強大な闇の魔法使いとの因縁の戦いを描いたファンタジー映画である。

 既に原作、映画ともに完結しているこの作品は、第一作目が公開された当初は、各国の興行成績を次々と塗り替え、社会現象となるくらい大ブームを巻き起こした。また、『ファンタジー映画は売れない』と言ったジンクスを打ち破った事で、多数の類似作品が世に出回るなど、ファンタジー映画を一つのジャンルとして確立させた金字塔作品でもある。

 ちなみに原作は小説であり、現在までで分かっているだけでも六十七言語に訳されている。世界規模で考えると、恐らく小山田が前回参考にした某漫画以上の認知度があるだろう。

 その時、映画を見ていた小山田の目が突然カッと見開かれた。そして次の瞬間、彼の頭上には雷が落ちていた。

 原作は小説……だと?

 小山田はスクッと立ち上がると、盆踊りとも、どじょうすくいともとれそうな意味不明な舞を踊り始めた。実は長時間の思考をすると知恵熱が出てしまう小山田は、考えをまとめる際に踊ってしまう癖がある。恐らくこれは、彼が無意識に生み出した自我を守る一種の自己防衛手段では無いかと言われている(小山田・談)。

 やがてその不思議な舞を踊り終えた時、小山田の顔はまるで悟りを開いた仏のような穏やかな表情となっていた。そう、彼はこの追い詰められた状況の中で、一発逆転満塁ホームランとなる手を編み出していたのだ。

 そうだ、何もパクるのは漫画で無くても良いのだ。目の前に、世界中で大ヒットした美味しい題材が転がっているでは無いか。しかも、この作品は既に完結している。何も悩まなくても始めから終わりまでレールが敷かれているのだ。後はそのレールに乗って、夢の印税生活と言う終着駅にレッツらゴーすれば良いのだ。

 タイトルは「ハレーポッター」。

 ハレー彗星に乗って地上に降り立った魔法使いが、悪のマシン軍団と戦って活躍する物語だ。そして、ラストはマシン軍団に捕まり改造されサイボーグとなった彼の父親との涙無しでは語れない壮絶バトル。恐らく全米が泣くに違いない。

 小山田は確信する。今この瞬間、この世に今世紀最大最高傑作が爆誕した事を。

 仏の小山田の口元に、悪魔のような邪悪な笑みが浮かぶ。

 時代がついて来ないだと? だったら俺が時代を作ってやるよ。そうだ、今日が記念すべき小山田伝説の幕開けだ。そして、夢の印税生活が始まるのだ!

 自室内に、小山田の高笑いが木霊する。

 彼は、未だに自分の間違いに気がついていない。

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