episode3
次の日。
土曜日は、小山田が勤める会社が休みの日である。彼は、朝から次の作品「ハレーポッターと漬物石」の執筆作業に取り掛かるため、原作の小説を買いに近くの本屋に来ていた。
最初、小山田は映画のストーリーをパクって小説にしようと考えていた。だが、よくよく考えると映像を小説にするのはかなり難しい事が分かる。例えば、少年がほうきに乗って空を飛ぶシーン一つにしても、映画では最新のCGを使って迫力ある映像を視覚的に表現できるが、小説ではそれを全て文章で表現し読者に伝えなくてはならない。小説家を名乗る者ならば当たり前の事であり、また逆にそれが小説家としての腕の見せ所なのだろうが、ボキャブラリーに乏しい小山田にそんな芸当が出来るはずも無い。彼は開始三秒で諦めていた。
だが、すぐに小山田は別の手を考えた。
そもそも、映像を文章にすると言う考え方自体が間違っていたのだ。映画に原作である小説があるのであれば、それをそのままパクッた方が楽に決まっている。ストーリーだけじゃない。文章や話の構成、気の利いた台詞など、すでに完成した物が存在するのであれば、それを使わない手は無いだろう。こう言った事には、良く頭が回る小山田であった。
目的の本はすぐに見つかった。映画が終わったとは言え、未だに根強いファンが多い作品である。本屋には、その本を紹介する特設コーナーが設けられていた。
小山田は喜び勇んで、目的の本を手に取る。だが、その本を目の辺りにした小山田は、その圧倒的な大きさに驚いた。
「ぶ、分厚い……」
縦二十二センチ、総ページ数四百六十二ページの原作小説からは、凄まじい重量感と威圧感が小山田の手に伝わって来る。それはもはや、人を撲殺出来る鈍器とも言えた。
小山田の額から、タラリと大粒の汗が流れ落ちる。
子供の頃から活字が嫌いだった小山田。彼は、辞書に触れるだけで知恵熱が出る体質だった。このままだと、また昔のような原因不明の高熱が出るかもしれない。だが、ここまで来て何も買わない訳にも行かない。小山田の身に、今、人生の進退を決める重大な選択が迫っていた。
小山田はゴクリと喉を鳴らすと、意を決し、勇気を持って勢い良くページを開いた。
「ぐわあああああああっ!!」
見開いたページには、ギッシリと詰まった細かい文字の嵐。
ある程度のダメージは予想していた小山田だったが、その破壊力は想像以上であった。
仰け反りながら、小山田は慌ててページを捲る。
挿絵だ。挿絵を見て目を癒すしか無い! 挿絵はどこだ?!
だが、捲っても捲っても何故か文字しか出てこない。それもそのはず、実はこの小説は作者の意向から意図的に挿絵が無い構成となっていたのだ。恐らく、小説を読む人の想像力を沸き立たせ、同時に挿絵から与えられる固定したイメージを定着させたくないと言った作者の考えなのだろうが、小山田にとっては苦痛以外の何者でもなかった。
「ぐふおぇっ!」
奇声を発しながら本屋を飛び出した小山田は、目を抑えながらフラフラの足取りでその場を後にした。




