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彼女を寝取られた俺、ショックで歌い手活動に没頭してたら死ぬほど人気が出てしまう~復縁したいと言われてももう遅い~  作者: 住処


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48話

 家に着くとカバンを放り出してそのままベッドに倒れ込んだ。

 頭の奥で七海の声がまだ響いている。あの目つき、言葉の強さ、そして迷いのなさ。

 胸の奥に残った棘は少し動くだけでずきりと痛んだ。


 天井を見つめながら、ふと机の上のマイクが目に入る。

 あれを初めて買ったときのことを思い出す。金をためるために慣れないバイトをして、七海に機材の選び方を教わって。

 あの頃はただ必死で先のことなんて何も考えてなかった。


 ただ、歌うしかなかった。


 パソコンを開き、無意識に一番古い投稿のページを開く。

 再生ボタンを押すと、スピーカーから当時の自分の声が流れた。

 音程は不安定、息は浅く、声も震えている。それでも、その声にはあの夜の焦りや悔しさ、どうしようもない気持ちが詰まっていた。

 そして、その声を救ったのは、初めての「いいね」と「頑張れ」のコメントだった。


 咲の笑顔も思い出す。

 ふられたとき、何も聞かずにそっとと声をかけてくれた。あの何気ない優しさがなかったら、たぶん俺はここまで続けられなかった。


 七海に歌い方を教わった日も鮮明だ。

 腹式呼吸のやり方を何度も指摘されて、プランクやクランチで腹筋を鍛えるよう言われて、正直しんどかった。

 でも、そのおかげで今の声がある。文化祭のステージだって、七海の音響とサポートなしでは成立しなかった。


 ──中途半端に両方やって両方失うのが一番バカらしいでしょ。


 今日の七海の言葉がまた浮かぶ。

 あれは突き放すためじゃない。俺に今やるべきことをはっきりさせるための一言だった。


 自分から憎まれ役を買って出たんだと、ようやくわかってくる。


 玲奈のことを「関係ない」と何度も言い聞かせてきた。

 でも、俺は頼られて悪い気がしていなかった。むしろ、その存在がどこかで自分の価値を確かめる支えになっていた。

 それを認めた瞬間、胸の中の棘は違う形に変わって、熱を帯びた。


 スマホを手に取り、七海へ謝ろうとLINEする。

 途中まで打ち込んでから入力した文字をすべて消す。

 直接伝えるべきだ。通話していいかだけ聞いてOKのスタンプが来たのですぐに通話をかける。


「……どうしたの?」


「今さ、初めての動画聞いてたんだ」


「は?」


「笑えるくらい下手で、でも……あのときの俺、必死だったなって。七海に腹から声出せって言われて筋トレさせられてさ」


「させられてって。自分でやってたでしょ」


 七海が小さく笑う声が耳に届く。


「……関係ないって、何度も言い聞かせてたんだ。玲奈のこと。でも……頼られて悪い気はしてなかった」


 自分でも驚くほど素直に言葉が出ていた。


「それがさ、どっかで自分の価値を確かめるみたいになってたんだと思う」


 七海はしばらく黙っていたが、やがてゆっくり息を吐く音がした。


「……そっか」


「ああ。それで……さっきは悪かった。本気で言ってくれたのに、突っかかって」


「私も言い方きつかったかもね。でも、本番近いんだからさ」


 昼間の尖った響きはなく、声色は柔らかくなっていた。


「わかってる。……だからもう、歌に集中する。初配信、絶対成功させる」


「あはは。なら私はその言葉信じる」


 短い沈黙のあと、どちらからともなく笑いが漏れた。

 その笑いは、胸の奥に残っていたわだかまりを少しだけ溶かしていく。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

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