49話
昇降口を出ると空は茜色に染まり始めていた。
七海は「バイトあるから先行くね」と軽く手を振って、校門の方へ歩いていく。
残った俺と咲は自然と並んで通学路を歩き出した。
「……今日はななちゃんとふつうな感じだったね?」
昼からずっと様子を見ていたような声音だった。
俺は少しだけ間を置いてから、うなずく。
咲はほっとしたように目を細めた。
「よかった。昨日ちょっとピリピリしてたから、気になってたんだよ」
ふと口にすると、咲はぱっと表情を明るくした。
「……まあ、そうかもな」
軽く笑ってみせたが、胸の奥にある小さな不安までは消えていない。
「これからはもっと歌に集中しようって思ってるんだけどさ」
「けど?」
咲は俺の横顔をちらっと見ながら問い返す。
「配信はやっぱ初めてだし、ちゃんとやれるかどうか……不安は残ってる」
咲が短く考え込む。
やがて、にこっと笑って俺を見る。
「じゃあさ、その不安、なくしちゃおうよ」
「……そんな簡単に?」
「簡単にじゃなくて。できること全部やるの。七海ちゃんにも協力してもらって、本番の前に全部確認しておけばいいんだよ」
「確認って……?」
「例えばさ、当日のカメラの位置とか背景とか。えーっとリハーサル? みたいな」
「リハーサルか」
「そうそうやってみた方が良いと思うよ。もしかしたら思ってたのと違うなんてことあるかもだし」
「たしかにな。でもリハーサルなんてどうやろうかな……」
「た、例えばさ、当日のカメラの位置とか背景とか。智也くんの部屋、事前に見せてもらえれば、当日バタバタしないかも?」
「……でも、人を部屋に呼ぶってのはな」
「えー……そ、そこ気にする?」
咲は首をかしげながらも、ほんの少し頬を赤くして視線を逸らした。
「気にするだろ、普通」
「だって……私と七海ちゃんだけだし……」
最後の方は少し声が小さくなる。
「……そういう問題じゃなくて」
「もしかして散らかってたり?」
さっきまでの照れを隠すみたいに、急に軽い調子で笑う。
「まあ……片付いてるほうじゃないな」
「じゃあ映るとこだけ綺麗にすればいいんだって。ほら、解決」
咲はわざと軽い調子で言うが、俺は返事を渋る。
「じゃあさ、ななちゃんにも聞いてみよ」
咲はスマホを取り出し、短くメッセージを打ち込む。
ほんの十数秒後、通知音が鳴った。
「ほら、すぐ返ってきた」
咲が画面を見せてくる。そこには『それ最高じゃん。やろう』と一言。
「……お前ら、勝手に決めんなよ」
「勝手じゃないよ。確認するだけだって」
咲はくすっと笑って、少し真剣な声に変える。
「ね、私たちが全力でサポートするから、智也くんは歌に集中して」
その穏やかな声が、不安の輪郭を少しだけ溶かしていく。
とはいえ、部屋を見られる緊張感はやっぱり残ったままだった。
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