37話
「ねえ、告白されたって、ほんと?」
登校途中、偶然駅で会って並んで歩いていたら何気ない口調で咲が言った。
思わず足が止まる。
「は? え? なんで?」
急にそんな話を振られて、まともに反応できるはずがない。
咲は口元をちょっとだけ緩めて、いたずらっぽく言った。
「噂になってるみたいだよ?」
「……マジで、どっから漏れてんだよ……」
「ほんとみたいだね」
俺の挙動不審な反応に咲が言葉を続ける。
先週の放課後。
帰り際の渡り廊下であの子に呼び止められた。
悪い子じゃないと思う。むしろ明るくて、友達多そうで、人気もある方だろう。
ちょっとびっくりしたけど、素直にうれしかったのは事実だ。悪い気はしなかった。いや、ちょっとドキッとした。
でも、うん……違うな、と思ったから、断った。
ちゃんと、言葉を選んだつもりだった。
それに水原もあっけらかんとして特にショックを受けているようには見えなかった。
「誰に聞いたの、それ?」
咲が名前をあげたのはクラスの男子だった。
俺とはほとんど関わりがない、陽キャ系の男子たちだ。
「本人が笑いながら『振られちゃった〜』って言ってたのが、いろんな尾ひれついてるっぽいよ」
「……勘弁してくれよ」
咲がちらっと横目でこっちを見る。
「てか、そういうのって断る側も勇気いるよね」
黙って頷く。
咲はそれ以上何も言わず、前を向いた。
昼休み。
咲と七海と三人で、いつものように後ろの席に集まって弁当を開いた。
和やかな時間だった。
けれどふと、教室の前の方で誰かが「水原が〜」と話しているのが耳に入って、箸が止まった。
「ちょっとトイレ」
そう言って、席を立つ。
男子トイレのドアを押し開け、洗面台の前に立った。
なんか、もやもやする。
ちゃんと断ったはずなのに、なんで俺の名前があちこちで出てるんだよ。
そんなときだった。
手を洗って、顔を軽く水でぬらす。
トイレのドアが開いた音に、振り返る。
入ってきたのは、見覚えのある顔だった。
「よ。朝倉」
声をかけてきたのは田嶋。
肩幅の広い男子が、洗面台の横にのそのそと立っていた。
「……ああ」
田嶋は隣の洗面台には寄らず、壁に背中を預けて俺を見てきた。
「最近さお前の名前、けっこう聞くぜ?」
「……そう?」
「文化祭の歌とか? SNSで見たって言ってたやつもいたし」
「ああ……まあ」
たぶん、あの動画のことだ。
「でもさ」
田嶋の口調が、少しだけ変わる。
「お前、最近ちょっと調子乗ってるって、言われてるぞ」
「……は?」
思わず顔を上げる。
田嶋は肩をすくめて、どこか他人事みたいに言った。
「俺が言ってるわけじゃないよ? 『歌で調子乗ってる』とか、『ちょっと目立ったからってイキってる』とかさ」
淡々とした言い方だった。
「それで?」
「別に、気をつけた方がいいんじゃね?」
そこまで言って、田嶋は一拍置いた。
「そういや、お前水原のこと振ったらしいじゃん?」
口ぶりは軽い。でも、どこか探るような目をしていた。
「……なんで、それ知ってるんだよ」
「噂になってんぞ」
なんだそれ。
「でもさ、あいつけっこう本気だったらしいよ? お前に告るって決めてからめっちゃ緊張してたって」
そこだけ、妙に具体的だった。
なぜそんなことまで知ってるんだ。
田嶋の目を見ないようにして、俺は手を拭いた。
背後で続けられる言葉が、やけに薄っぺらくて、でも不快だった。
「ま、別にいいけどさ。振ったんなら仕方ないしな」
「……ああ、忠告ありがとう」
それだけ返して、俺はトイレを出た。
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