↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女を寝取られた俺、ショックで歌い手活動に没頭してたら死ぬほど人気が出てしまう~復縁したいと言われてももう遅い~  作者: 住処


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/56

27話

「出ちゃえば? 本人として、さ」


 七海の声が、いつもより静かに響いた。

 からかい半分にも聞こえたけど、たぶん本音だった。


 俺は返事をしなかった。

 できなかった。


 その日の放課後、教室を出て昇降口に向かう途中も、ずっと頭の中がぐるぐるしていた。

 咲と七海は後ろを歩いていて、三人の靴音だけが、やけに大きく響いてた。


「文化祭、どうするの?」


 咲が訊いたのは、下駄箱の前で靴を履き替えてるときだった。

 声色はいつも通りやわらかい。

 でも、目はちゃんと答えを求めていた。


「……考え中」


「ふうん」


 咲はそれ以上は言わなかった。

 けど、少しだけ寂しそうに笑ったような気がして、心がちくりとした。


「いや、だってさ」


 自分でも何を言いたいのかよくわからないまま、言葉が口をついて出た。


「顔出ししてないし。声だけだったから、ここまで来れたっていうか……」


「へえ」


 七海が俺の横を通り過ぎながら、つまらなそうに言った。


「じゃあ、ずっとそのままでいれば? モニターの裏に隠れて、知らない誰かのためにだけ歌ってりゃいいじゃん」


 ピタリと足が止まる。


 七海は振り返って、真っ直ぐに俺を見た。

 表情は、笑ってもないし、怒ってもない。

 ただ、まっすぐだった。


「顔なんて出さなくていい。仮面でも、ステージ暗くしてもいいよ。でもさ――今このタイミングで逃げたら、あんた後悔するよ」


「……後悔?」


「あんたは、届いてんの。もう。気づいてんでしょ? 声が、ちゃんと誰かに届いてるって」


 その言葉に、咲が小さくうなずいた。


「わたしは、智也くんの歌、みんなに聴いてほしいなって思う」


「……」


 言葉が出なかった。

 嬉しいとか、ありがたいとか、そういう感情じゃなかった。

 ただ、ぐっと胸が熱くなった。


 その夜、俺はいつものように録音を始めようとした。

 マイクを立てて、イヤホンを耳に入れて、歌詞のデータを開いて──でも、声が出なかった。


 いや、出るには出た。

 けど、いつもの声じゃなかった。


 ノイズ混じりの、自分でも聴きたくないような、薄っぺらい声だった。


 目を閉じて、深く息を吐く。

 七海の言葉が頭をよぎる。

 咲の、あの目も。


 なんだよ。

 俺は、ただ……


「誰かのために歌うって、こんなに怖くて、あったかいんだな……」


 つぶやいた声は、自分でも意外なほど落ち着いていた。




 翌朝、教室に入るなり、俺は内田を探した。


 見つけると、足が勝手に向かう。

 心臓が少しだけ速くなる。


「あのさ、文化祭のステージ、俺……出るよ」


 内田は目を丸くして、それからにかっと笑った。


「マジかよ! サンキュー! これで目玉できたわ!」


 周囲がざわつくのがわかった。

 誰かが「本人だって、やっぱ」とか言ってる。

 でも、今日はもう逃げなかった。


 席に戻ると、咲が小さく拍手してくれた。

 七海はニヤッと笑って茶化してきた。


 俺は、なんか照れくさくなって、うつむいた。


 でも、心の中は不思議なくらい、晴れていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。