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彼女を寝取られた俺、ショックで歌い手活動に没頭してたら死ぬほど人気が出てしまう~復縁したいと言われてももう遅い~  作者: 住処


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26話

 昼休みの教室。

 窓際の陽射しがあたたかくて、ぽけっとした空気が流れていた。

 咲は例によって小さなおにぎりをちまちま食べていて、七海はスマホ片手に猫の動画を眺めてる。


 俺はというと、いつもの席でパンをちぎりながら、特に何を話すでもなく画面をスクロールしていた。

 投稿したばかりの動画――サムネには佐原が描いてくれた夜のホームの絵。

 再生数は、昨日のうちに一万を越えていた。

 数字だけなら、完全にバズってると言っていい。


 だけど、不思議と実感がなかった。


「んー、朝倉また伸びてんじゃん。もうこれ次の歌で炎上とかしなきゃ一生安泰じゃね?」


「やめろ、フラグ立てんな」


 七海がスマホを見ながらニヤニヤしてる。

 そういうリアクションにも、だいぶ慣れてきたつもりだったけど。


 なんだろう。

 うまくいってるのに、心の奥だけがひんやりしてる。


「……あんまり実感ないんだよな、正直」


「なにが?」


 咲がこっちを見て、小さく首を傾げる。

 その目はいつも通り優しくて、でもちゃんと今の俺を見てる気がして、ちょっとだけ目を逸らした。


「数字は増えてるけど、画面の中だけっていうか……コメントも知らない人ばっかだし。なんか、夢みたいで」


「夢じゃないでしょ」


 咲が、やわらかく笑った。

 いつも通りの口調なのに、その一言が妙に重く響いた。


「ちゃんと聴いてる人がいるってことだよ」


「そうそう。あたしも聴いてんだし。ほら現実」


 七海が肘でつついてきた。

 軽口に笑いながら、でもその目はからかってばかりじゃなかった。


 現実、か。

 現実って、どこからだろう。

 スマホの画面の中だけが自分の場所だったはずなのに、最近、ちょっとだけ違ってきた気がする。


 廊下で、知らない後輩に「……あの人、朝倉って人?」って言われた気がした日。

 帰り道、隣のクラスの女子に指さされて笑われた日。

 それが良いか悪いかはまだわからないけど、少なくとも「見られてる」ってことは、確かだった。


 パンの包装紙を丸めながら、なんとなく天井を見上げる。


 そのとき。


「なあ朝倉、お前って歌い手やってんの?」


 声をかけてきたのは、実行委員のやつだった。

 名前はたしか……内田、だったか。

 学年ではわりと顔が広いやつ。特に派手でもないけど、よく動く。


「……は? いや、え、なに?」


 咄嗟に聞き返してしまった。

 すると内田は、特に気にした様子もなく続けた。


「いやさ、文化祭の出し物、今年ステージ系の枠が空いてるんだけど。音楽系でなんか出したいやついるって話になっててさ」


「……うん」


「で、さっき誰かが言ってたんだよ。なんか歌投稿してるやつがいるって。バズってるとかなんとか」


 その瞬間、空気が一瞬だけ変わった気がした。

 周囲の声が小さくなって、いくつかの視線がこっちに向いた気配。


 咲も七海も、何も言わなかったけど、内田の言葉をじっと聞いてた。


「お前、sakuraAって名前でやってるって本当?」


 ――バレてる。


 まだ誰にも言ってないはずなのに、ゆっくりと、確実に波が寄せてくる。

 その名前を、学校でも呼ばれる日が来るなんて。


 喉の奥が、すうっと冷える感覚。


「いや……うん。そうだけど」


 答えると、内田は「マジか」って顔をしてから、すぐににやっと笑った。


「じゃあマジで本人じゃん。すげーな、動画見たけど、あれ本当にお前かよ」


「……うん」


 返事をしながら、自分の声がやけに他人みたいに聞こえた。


「ステージ、考えといてよ。候補に入れてもいいだろ」


 そう言い残して、内田は軽い足取りで戻っていった。

 まるで、そこにすごいやつがいるのが当然みたいなテンションで。


 机に手を置いたまま、しばらく動けなかった。


「……どうするの?」


 咲の声が、すぐ隣から聞こえた。


 七海が、口の端だけで笑っていた。


「出ちゃえば? 本人として、さ」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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