14話
別れ際、咲がふっと笑って言った言葉が、まだ耳の奥に残っていた。
また聴かせてね、智也くんの歌。
そのひとことが、思っていた以上に優しくて、
歩き出したあとの足取りまで、少しだけ軽くなっていた。
電車を待ちながら、なんとなくスマホを取り出す。
投稿したばかりの曲のページを開くと、再生数がじわじわ伸びているのが見えた。
いつもより、少しだけ早いかもしれない。
コメントも、ちらほら届いていた。
よかった、伸びた、声合ってる
そんな言葉の並びの中に、ひとつだけ、妙な既視感のあるアイコンが混ざっていた。
……あれ。
指先が止まった。
前にも見た覚えがある。
数週間前。腹から声出せ、って書いてきたあの粘着っぽいやつ。
まさか、と思いながらタップすると、そこには短く、こんなふうに書かれていた。
『音クソすぎて草。よくこんなん上げられるな。』
一瞬、画面を閉じようとした。
けど、閉じられなかった。
口の中で、小さく舌打ちする。
そのくせ、心のどこかがザラついたままだった。
なんか、ムカつく。
でも、たしかに
録音したとき、少し音割れてた気もしていた。
あれって、もしかして
機材のせい、なんだろうか。
部屋に戻って、制服を脱ぎ捨てたあと、パソコンの前に座った。
椅子の背にもたれたまま、検索バーに指を伸ばす。
初心者 歌ってみた 機材 おすすめ
エンターキーを押すと、ズラズラと商品名とレビューと値段が並んだ。
「……たっっけえ……」
本格的なマイク、オーディオインターフェース、ポップガード、マイクアーム揃えたら普通に三万超えてくる。
しかも、上を見ればキリがない。
「まずは環境を整えるべきです」「最低でもダイナミックマイク以上を」なんて言葉が画面に並んでる。
スマホで録ってた俺が、今さらそんなところから入っていいのかって気持ちもあった。
あのコメントは、引っかかった。
咲のまた聴かせてねと並んで思い出したってことは、多分、それだけ気にしてるってことだ。
「……でも、いきなり三万は無理」
ため息をつきながら、画面をスクロールする。
どうせ中古とか微妙なんだろ、と思いながらも一応チェックはしてみた。
やっぱりレビューもバラバラで、よく分からない。
画面を閉じる。
買わない、じゃなくて、買えない。中途半端なもんで後悔するくらいなら、もうちょい本気で整えたほうがいい。
そう思ったら、自然と「高校生 バイト 土日 夜」と検索していた。
金がないなら、稼げばいいだけの話だった。
机に突っ伏して笑いながら、俺は天井を見上げた。
届いたら、全部、試してやる。
どうせなら、今まででいちばんいいのを録ってやる。
アンチでさえぐうの音もでないようなやつを。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و




