魅了
「断じてそんなことしていません。無責任に大きな誤解を招くようなことを言わないでいただきたい」
リスタンはすぐにそう言ったけれど。
浮かび上がった言葉にまとわりつくウソの文字に私は背中が冷たくなった。
「魔法術式の展開したことは魔力の流れで一目瞭然だというのに」
はぁっとノアはため息をつく。
ノアがあの時もし気が付かなかったら?
私は確実に彼に魅了魔法にかけられていただろう。
そしたら私は一体……どうなっていたの。
私の家で私に近づいて、魅了魔法をかけられそうになっていたという事実がじわりじわりと時間がたつほどに恐怖に変わる。
身近に迫っていた明らかな脅威に背筋がぞわっとした。
リスタンがその後も、そんな魔法を使うはずがない。
ありえない。
魔法も何も発動していないのにとか言っていて。
ノアはそれを魔法式など私にはさっぱりわからないことで間髪入れずに反論していく。
リスタンは私に釣書を送っただけではなく、魅了を使おうとしたあたり、私がやる占いのように最低限私のことについて調べているだろうから。
私がノアの言ってる論理的なことをいくらいってもさっぱりだとわかっているからこそ言葉で否定すれば、ノアとは違い魔法の才能も知識量もない私ではわからないとでも思っているのだろう。
ただ言葉でどれだけ否定しても。
私の加護によって、リスタンが実際に魅了魔法を使おうとしたかどうかの真実は嘘をつくことができないのだ。
父や母そしてセバスからいつも私の加護が特別なものだから気を付けるようにと、ことあるごとに何度も言われていた。
けれども辺境の名ばかり公爵家のパッとした特技も容姿も何もない私は、いつしかそんな周りの注意を聞き流していた。
それくらいありがたいことに私は平穏な暮らしをしてきた。
なんだかんだ言って、誰が私に何をするというのだすら心のどこかでは思っていた。
私は戦争になるかもしれない隣国の人と会うにもかかわらず、いつものように護衛のセバスだけをつけて会えば大丈夫と判断してしまっていた。
危ない目にあって初めて自覚する。
護衛はセバスだけだった私とは違い、相手は自分自身が騎士であるにもかかわらず後ろに4人も控えさせていることに ……
なのに私ときたら、たった一人だけの護衛をつれてうかつにも他国の人間に会う選択をしてしまっていた。
私には加護がある。
私にとってその当たり前は、いつしか相手の言葉が嘘か本当か見抜くことができるのだからと戦闘経験なんて全くないくせに、真実を知れるのだから大丈夫と必要以上に……
――――過信していた。
私の呼吸がいつの間にか早くなる。
「ティア、おちついて。ゆっくり息を吸って、過呼吸になる」
ノアに指摘されて、私は呼吸がひどく乱れていることに気が付いた。
ふらついた私をノアは支えると、呼吸を意識してゆっくりするようにと優しい言葉をかけてくる。
ノアの言葉には今加護を使う必要は全くないのに私の意思とは関係なくノアの言葉が浮かび上がり、浮かび上がった言葉にホント、ホント、ホントとまとわりつく。
なにこれ、おかしい変だ。
今までにないくらい大きく動揺している成果、今まで当たり前にできていた加護が制御できない。
呼吸も私の意思とは反対にどんどん荒くなる。
「いっ、いったい。ど、ど、どういうおつも……りですか?」
一向に落ち着かない心と、使いたくないのに制御できずに加護が見えるなんてことは初めてのことで動揺を納めるために私はリスタンに話しかけた。
「マクミラン様。大丈夫ですか? 私は本当に何もしておりません……」
大丈夫ですか? という言葉にはホントとまとわりつくが、その後の言葉にはウソの文字がまとわりつく。
リスタンだけではなく、後ろに控えていた騎士だちも。
明らかに様子のおかしくなった私を心配する言葉をかけ始めると。
あたりにたくさんの文字が浮かび上がり、見たくないのにホントとウソがまとわりつく。
何よこれ、こんなの知らない。
初めての事態と悪意に動揺しているからなのか。
それとも魅了の術を発動しようとしたせいなのかはわからない。
ただ、今の私の加護は私の意思ではとても制御できるものではない。
だめだ、このままでは倒れそう。
ただその前に一つだけはっきりしておかないといけない。
美人でもない、辺境の私に婚姻届けを送ってきたのはなぜなのか。
「ティア、一度下がろう。本当に顔色がよくない」
いつもとは違い、明らかに動揺した表情をしてノアが私にそういうけれど。
ノアの静止を無視して私はリスタンに聞くのをやめられなかった。
今聞いておかないと絶対にいけないことだと思ったし。
私はもうこの人と二度と会いたくない。
「これは戦争の噂とこれは関係がありますか?」
「何をおっしゃっているかわかりません。戦争だなんて……」
リスタンはすごく困惑した顔をして、そう答えるけれど。
そこにまとわりつくウソの文字。
「うぁっぁぁ……」
目にズキリと痛みが走って、私は倒れた。




