第96話「ジブチ成長計画」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2027年冬。ジブチ基地。黒田の執務室。
三菱重工の前田が入ってきた。
「黒田PMC代表、本日はご挨拶に参りました。ジブチ造船所の運営について、ぜひ三菱重工にお任せいただきたくご提案に参りました」
「ほう」と黒田が言った。「それだけか?」
前田が少し笑った。「いえ。手土産をお持ちしました」
前田が小さな封筒を黒田に渡した。
黒田が封を開けた。中身を確認した。しばらく黙った。
「——これは」
「当社からFEPAへの進呈品です。詳細は封筒の中に」
黒田がもう一度中身を確認した。「25式空対艦誘導弾の量産初期ロット20発を試供品として贈呈」
前田を見た。「お前ら、本当に商売上手だな」
「恐れ入ります」
その時、マリーニが入ってきた。資料を持っていた。
「前田様、ジブチ造船所の建設費についてご相談があります。今から計算しましょう」
前田が少し顔をこわばらせた。「……はい、喜んで」
翌日。ジブチ基地。会議室。
マリーニが資料を広げていた。JFEスチールの担当者、カナデビアの担当者、田中本部長、黒田が揃っていた。
橘がモニター越しに参加していた。
「整理します」とマリーニが続けた。「まず製鉄所です。JFEスチールにジブチへの製鉄所建設をお願いします。スーダンの鉄鉱石——埋蔵量12.5億トンがあります。エチオピアの天然ガスで電力を確保します。ジブチで製鉄して造船用鋼材を現地調達する——これがジブチ造船所の原価を大幅に下げます」
JFEの担当者が頷いた。「スーダンの鉄鉱石とエチオピアの天然ガスがセットで使えるなら——採算は取れます」
「次に淡水化プラントです」とマリーニが続けた。「カナデビアにジブチとタジュラ、2カ所への大規模淡水化プラントの建設をお願いします」
カナデビアの担当者が資料を出した。「中東での実績があります。ジブチの水需要を賄えるプラントを設計できます」
「よろしくお願いします」
田中本部長が手を挙げた。「淡水化プラントの建設、うちが受けます」
「もちろんです」とマリーニが静かに笑った。「田中本部長にお願いするつもりでした」
田中がため息をついた。「防護壁が終わったら次は淡水化プラントか」
「港湾の埋め立てもお願いしたいのですが」
「全部ですか」
「全部です」
東京。内閣官房。
牧野が橘に資料を出した。「Tachikoboに各社から開発申請が来ています。極東開発がポンプ車・散水車ユニット、タダノがクレーンユニット、北越工業がコンプレッサー・油圧発生・ディーゼル化ユニット、オカダアイオンがブレーカー・破砕機・林業ユニットです」
橘が資料を見た。「許可を出せ。ただしユニットの設計データはTachikoboに帰属させる。製造は各社に任せていい」
「了解しました」
橘が続けた。「元々アスタコシリーズは技本からもMAGIからも電動ではトルクが足りない。無理すると稼働時間が極端に悪くなるって話は上がっていたんだ」
牧野が頷いた。「じゃあ、北越のディーゼルエンジンでバッテリー充電しつつ、PTO取り出しをすれば油圧機器が使えて渡りに船だな」
「そうだな。そもそもその他のユニットも北越の油圧頼りだろ。北越が他社に声をかけたんだろ」
「じゃ、城島にも伝えておくよ」
その夜。橘が城島に電話した。
「コマツに大型ブルトーザD155AXIを20台、超大型ダンプトラックHM400-5を40台、超大型バックホウPC950-11を5台、半年早急で発注しておいてくれ。ジブチに修理拠点を設けろとも伝えてくれ」
「了解した。金額は?」
「D155AXIが40億、HM400-5が80億、PC950-11が5億で125億円だ。それとスカニアのトレーラーヘッドと40tの重機運搬舵付台車のセットを20台、40億円も頼む。合計165億円、ODAで処理する」
「FEPAの備品として?」
「そうだ。ジブチの高地はガレ場が多い。港湾の埋め立てに必要だ」
「了解した」城島が少し間を置いた。「田中本部長には?」
「言うな」
「……サプライズか?」
橘は答えなかった。
数週間後。ジブチ基地。
田中本部長のもとに連絡が入った。
「田中本部長、コマツとスカニアから資材が届いています。D155AXIが20台、HM400-5が40台、PC950-11が5台。スカニアのトレーラーヘッドと40t重機運搬台車のセットが20台です」
田中がしばらく止まった。「——発注したのは誰だ?」
「FEPAの備品として政府から手配されたようです」
田中がしばらく黙った。
黒木玲子が隣で静かに言った。「橘参事官からだそうです」
田中がしばらく港の方を見た。
「——ったく、鉱山開発かよ」と田中がつぶやいた。
目が少し潤んでいた。
東京。内閣官房。
城島が橘に報告した。「三菱重工がジブチ造船所の建設権を取りに来た。マリーニに即座に捕まったそうだ」
「そうか」
「JFEが製鉄所、カナデビアが淡水化プラント——全部動き始めた」
「そうか」
「田中本部長、コマツとスカニアが届いた時に目が潤んでいたそうだ」
橘が少し間を置いた。「そうか」
「あれはプレゼントだったのか?」
橘は答えなかった。ドールAが温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。
今日も温かかった。
窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。
ジブチでは製鉄所の設計が始まっていた。カナデビアが淡水化プラントの測量をしていた。三菱重工がマリーニに建設費の説明をしていた。田中本部長がコマツの重機の前に立っていた。北越工業がアスタコシリーズのディーゼルユニットの設計を始めていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




