第75話「交戦」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年10月下旬。テヘラン。
片桐隆文がカーヴェ・アフシャールと向かい合っていた。
イラン外務省安全保障局長のアフシャールは五十代後半、細身で目が鋭かった。
「——日本がわざわざテヘランまで来るとは珍しいですね」
「大事な話があります」と片桐が静かに言った。
「どうぞ」
「終戦後のイランの復興について、日本は積極的に支援する用意があります」
アフシャールが少し表情を変えた。「——続けてください」
「ただし条件があります」
「条件?」
「革命防衛隊を含むテロリスト・民兵組織が——巡航ミサイル、弾道ミサイル、対艦ミサイルを保持することは一切認めません。ヒズボラ、フーシ派、ハマス——全ての代理勢力への武器供与も同様です」
アフシャールがしばらく黙った。「——革命防衛隊はイランの主権の問題です」
「一点だけ申し上げます」と片桐が続けた。「革命防衛隊は今回の停戦交渉を妨害し続けました。イラン政府の指示にも従わなかった。これは宗教やイデオロギーの問題ではありません。革命防衛隊はイラン自身の近代国家としての発展を阻害しています。イラン政府が本当に復興を望むなら——この問題は避けて通れません」
室内が静まり返った。
アフシャールがしばらく窓の外を見た。テヘランの街が広がっていた。
「——持ち帰ります」
「よろしくお願いします」と片桐が続けた。「サウジアラビア、イエメン、ヨルダンとも同様の協議をしています。中東の安定は全ての国の利益になります」
アフシャールが少し間を置いた。「——イエメンとヨルダンまで」
「そうです」
「FEPAはジブチにいます」と片桐が静かに答えた。「国連の委託を受けて海上警備と掃海をしています。日本政府は何もしていません」
アフシャールがしばらく片桐を見た後に言った。「——なるほど」
同じ頃。ホルムズ海峡。
掃海母艦「うらが」が停船していた。MCH-101が前方を飛んでいた。AN/AQS24Aが海面を走り、機雷の位置データがUSCに送られていた。
「うらが」から「前方に機雷群を確認。啓開を開始します」と地下司令部に報告が入った。
はやぶさ改第二部隊5隻が「うらが」の周囲に展開して護衛についていた。
その時、E-3からデータが入った。
「北方より高速接近目標多数!革命防衛隊の高速ミサイル艇6隻——ドローン多数を伴っています。タンカーに向けて接近中!」
第二部隊の指揮官が無線を取った。「全艦、戦闘配備!」
アラビア海を北上していた大型タンカーが警告を発していた。
「——助けてくれ!ミサイル艇が接近してくる!」
第二部隊の指揮官がケイラに無線を入れた。「ドナヒュー少佐、交戦許可を」
ケイラがアデン湾から無線で返した。「国連軍司令部に確認を取れ」
地下司令部。
黒田が国連軍士官に向けて言った。「タンカーが革命防衛隊に襲撃されようとしています。交戦許可を」
ドイツの国連軍士官が即座に答えた。「——交戦を許可する」
黒田が無線を取った。「全部隊、交戦許可。テロリストを一隻も逃がすな」
ホルムズ海峡。
「全艦、速力一杯!」
LM2500が唸った。はやぶさ改5隻が50ノット超で革命防衛隊の高速ミサイル艇に向かって突進した。
「ドローン接近!」とアンナ・コワルスキが叫んだ。「シャヘド型——15機!」
「AHEAD弾で迎撃!全艦射撃開始!」
35mm4連装が火を噴いた。Link22が5隻の射撃データを統合して無駄のない迎撃が始まった。ドローンが次々と落ちた。1機、3機、7機、15機——全機撃墜。
「ドローン全滅!」
「高速ミサイル艇、距離3000メートル!」
「速力そのまま!突っ込め!」
革命防衛隊の高速ミサイル艇が方向を変えようとした。遅かった。
はやぶさ改が50ノット超で一気に距離を詰めた。
「距離1000メートル!」
「35mm、射撃開始!」
35mm4連装が第一艇に集中した。艇体が炎上した。
「第一艇、撃沈!」
「第二艇、逃走!追え!」
はやぶさ改が追いかけた。50ノット超で逃げる高速ミサイル艇を追いつめた。
「距離500メートル!」
「撃て!」
第二艇が炎上した。
「第二艇、撃沈!」
「第三艇、逃走方向を変えました!」
「逃がすな!追え!」
次々と追いつめた。6隻が全て炎上した。
「革命防衛隊ミサイル艇、全6隻撃沈。ドローン全機撃墜。タンカーへの被害なし」
指揮官が無線を取った。「地下司令部、交戦終了。テロリスト全滅を確認」
ホルムズ海峡の遠方。
米海軍のイージス艦が静かに浮かんでいた。
艦橋で艦長が報告を受けた。「——FEPAが全部やりました。我々は何もしていません」
艦長がしばらく黙った後に言った。「——記録しておけ」
「内容は?」
「FEPAの交戦時間——12分。損害なし。革命防衛隊全滅」
「——12分ですか」
「そうだ」艦長がスクリーンを見た。「我々なら30分はかかったし、タンカーは損傷を受けただろう」
地下司令部。
黒田がスクリーンを見ていた。
空自OBの副官が報告した。「交戦終了。はやぶさ改第二部隊、全艦損害なし。タンカーへの被害なし。革命防衛隊高速ミサイル艇6隻撃沈、ドローン15機撃墜」
「そうか」
「掃海部隊の啓開は継続中です」
「——よし」
欧州海軍OBの副官が続けた。「米海軍から問い合わせが来ています。交戦記録を共有してほしいと」
黒田がしばらく間を置いた。「——国連軍司令部を通じて共有しろ」
「直接ではなく?」
「FEPAは国連軍の委託を受けている。手順を守れ」
「——了解しました」
東京・内閣官房。
城島が橘に報告した。「ホルムズ海峡でFEPAが革命防衛隊と交戦した。12分で全滅させた。損害なし」
「そうか」
「米軍は傍観していた」
「——予想通りだ」
「片桐のテヘランでの交渉はどうだった?」
「アフシャールが持ち帰ると言ったそうだ」
橘が頷いた。「革命防衛隊がホルムズ海峡で全滅した直後に——イラン政府はどう判断するか」
城島がしばらく考えた。「——革命防衛隊の立場が弱くなるな」
「そうだ」
「片桐の交渉とFEPAの交戦が連動している——」
「民間PMCの商業活動だ」と橘が静かに言った。「日本は何もしていない」
城島がため息をついた。「——最初からここまで計算していたのか」
橘は冷めたコーヒーを一口飲んだ。「さあな」
「——怖いな、お前は」
橘は答えなかった。窓の外に霞が関の秋の夜が広がっていた。
ホルムズ海峡でFEPAが革命防衛隊を全滅させた。テヘランで片桐が交渉していた。掃海部隊が啓開を続けていた。米軍が記録を取っていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが——もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




