第43話「回送」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
大変申し訳ありません。42話が抜けてました。以降順次スライドします。 7/27 19:23
2026年3月中旬。
橘のスマートフォンが震えた。
大泉進太郎からだった。
珍しかった。大泉から直接連絡が来ることは少なかった。
「橘さん、少し時間ありますか」
「あります」
「はやぶさ改の回航の件なんですが——」
橘は少し間を置いた。
「聞きましょう」
「航続距離が足りませんよね。50ノット超で走ったら、日本からジブチまで持たない」
「そうです」
「補給艦を二カ所に事前展開させます」大泉は静かに言った。「表向きはインド洋の海賊対処任務です。防衛省として申し出ます」
橘はしばらく沈黙した。
「大泉さん——」
「頼まれる前に言いたかっただけです」大泉は少し笑った。「城島さんと話はついています」
橘は窓の外を見た。
「助かります」
「それだけですか」
「それだけです」
大泉が笑った。
「橘さんに褒められた気がしません」
「褒めています」
電話が切れた。
防衛省。城島の執務室。
城島が地図を広げていた。
大泉の指示で、補給艦の展開ルートの検討が始まっていた。
野中誠一が地図を指した。
「第一給油点はフィリピン沖が適切です。南シナ海を抜けたところで一度補給できます」
「第二は」
「スリランカ沖。インド洋中部です。ここで補給すれば、アデン湾まで十分な燃料が確保できます」
城島が計算した。
「はやぶさ改の航続距離は」
「50ノット巡航で約800海里です。日本からフィリピン沖まで約1600海里。第一給油点までに一度減速する必要があります」
「どのくらいのペースで行けるか」
「35ノットに落とせば航続距離が伸びます。フィリピン沖まで約二日。そこで補給してスリランカ沖まで約三日。最終給油してジブチまで約二日。合計七日の行程です」
城島が頷いた。
「補給艦の名目は」
「海賊対処任務の支援として既存の派遣枠を使います。追加の国会承認は不要です」
「大泉さんの判断は早かったな」
野中が静かに言った。
「防衛大臣として、自分でできることを自分で考えた。それだけです」
城島は地図を見たままだった。
「橘に頼まれる前に動いた」
「そうです」
城島が少し笑った。
「大泉も変わってきたな」
その夜。橘は地図を広げていた。
回航ルートが確定した。
日本(呉・舞鶴・長崎)→第一給油点(フィリピン沖)→第二給油点(スリランカ沖)→ジブチ
所要期間:約七日。
6月中の回航は可能だ。
スマートフォンが震えた。
黒田からだった。
「補給艦の件、城島から聞いた。助かる」
「大泉さんの判断だ」
「防衛大臣が民間PMCの船に補給艦を出す。前例がないな」
「前例を作る方が先だ」橘は静かに言った。
「それがお前のやり方か」
「そうだ」
黒田がしばらく黙った。
「ジブチの準備は整っている。6月を待つ」
「頼む」
電話が切れた。
橘は地図を見たままだった。
呉から出るはやぶさ改が、フィリピン沖で補給して、スリランカ沖で補給して、ジブチに着く。
七日間の航路。
その先にアデン湾があった。
ペルシャ湾があった。
ディミトリがLM2500の音を待っていた。
ケイラが娘たちの未来を待っていた。
橘は地図を閉じた。
冷めたコーヒーに手を伸ばした。
飲んだ。
やはり冷めていた。
飲んだ。
やはり冷めていた。




