第38話「獅子身中の虫」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年1月某日。東京・赤坂。
料亭の個室に六人が集まった。
高道早苗。佐藤貴子。望月邦彦。片貝かつき。大泉進太郎。橘慎一郎。
仲居が障子を閉めた。
高道が口を開いた。
「公明党の件だ。結論を出す」
佐藤貴子が前のめりになった。
「切るべきです」佐藤は断言した。「今がチャンスです。補正予算を通させた。米国圧力も使った。公明党はもう用済みです」
片貝が眉を上げた。
「用済みという言い方は——」
「事実です」佐藤は続けた。「公明党との連立は三十年続きました。その間、国交大臣は公明党が独占した。JR貨物の問題も、郵政の問題も、全部そこに根っこがある。切らない理由がありません」
望月が静かに言った。
「佐藤さんの言う通りだ」
全員が望月を見た。
「私は長年、公明党と付き合ってきた」望月は続けた。「だからこそ言える。あの党は連立の旨みを知りすぎている。このまま引きずると、高道政権の足を引っ張り続ける」
片貝が口を開いた。
「数の問題があります」片貝は資料を出した。「公明党を切って解散した場合、現有議席を維持できるかどうか——」
「維新がある」大泉が静かに言った。
全員が大泉を見た。
「最悪の場合、維新との協力関係を構築します。パイプは私が持っています」
片貝が大泉を見た。
「確実なパイプですか」
「確実ではありません」大泉は正直に言った。「でも可能性はあります」
片貝がため息をついた。
「可能性で解散はできません」
「片貝さん」橘が初めて口を開いた。
全員が橘を見た。
「数の話をする前に、タイミングの話をさせてください」
「どうぞ」
「今の支持率を見てください」橘は資料を出した。「高道内閣の支持率は79パーセント。発足以来、上がり続けています。これほどの数字が続くことは稀です」
片貝が資料を見た。
「79パーセント——」
「時間が経てば必ず下がります」橘は続けた。「支持率は生き物です。今が頂点なら、あとは下がるしかない。今やらなければ、この数字は二度と来ない」
「しかし解散の大義が——」
「経済安保の信を問う」橘は静かに言った。「高道政権の産業構造転換の方針を国民に問う選挙です。公明党を切ることで、より鮮明な自民党の姿勢を示せます」
望月が頷いた。
「それでいい」
片貝がしばらく黙っていた。
「支持率79パーセントで解散して負けたら——」
「負けません」橘は静かに言った。「維新のパイプを使えば、単独過半数でなくても政権を維持できます」
大泉が頷いた。
「そこは私が動きます」
片貝が深く息を吸った。
「——分かりました。数の確保は私が責任を持ちます」
高道が全員を見回した。
「では方針を確認します。公明党との連立を解消する。その後、経済安保を大義名分に解散総選挙を行う」
全員が頷いた。
「異存はありますか」
誰も言わなかった。
高道が続けた。
「もう一つある」
「西破派と石田派の処理だ」
望月が頷いた。
「選挙で一掃する」
橘が口を開いた。
「応援演説の配分を調整します。西破派・石田派の候補への支援を意図的に薄くする。旧安田派の在野組への支援を手厚くして国政復帰させます」
佐藤が頷いた。
「完璧ですね」
片貝が静かに言った。
「やり過ぎると党内がもたない」
「やり過ぎない程度にやります」橘は静かに言った。
高道が全員を見た。
「以上だ。動いてくれ」
翌週。公明党本部。
高道が田村幹事長と向かい合った。
「連立の解消をお願いしたい」
田村が止まった。
「——それは」
「経済安保を旗印に、単独で国民の信を問います」高道は静かに言った。「公明党の皆さんには、これまで大変お世話になりました」
田村が高道を見た。
「補正予算を通した直後に——」
「だからこそ今です」
田村は長い沈黙の後、静かに言った。
「分かりました」
翌日。国会。
高道が衆議院本会議場に入った。
解散詔書が読み上げられた。
「日本国憲法第七条により、衆議院を解散する」
議場がざわめいた。
野党が騒いだ。
抜き打ちだった。
議事堂の廊下で、橘は城島にメッセージを打った。
「解散した」
城島からすぐに返信が来た。
「選挙は何日後だ」
「三週間後」
「その間に何をする」
橘は少し間を置いた。
「西破派と石田派を静かに処理する」
城島から返信が来た。
「……お前は本当に怖いな」
橘は答えなかった。
議事堂の外に出ると、冬の空が広がっていた。
記者たちが駆け寄ってきた。
橘は足を速めた。
冷めたコーヒーが飲みたかった。




