50漆黒の森を抜けて
「………ん」
レーナは目を覚ます。
目が覚めて、見渡せば、そこは大きな部屋。
自分は大きなベッドに寝かされていた。
体を見ると、服が着せられ、包帯も巻かれていた。
どうやら治療を受け、ここに寝かされたようだ。
「ここは…あ、リックに、クロちゃん」
ベッドには、自分以外に、リックと黒竜のクロが寝息を立てて寝ていた。
「ふふ…」
チュ。
愛する金髪の少年リックの頬に、レーナはキスをする。
「…ん?」
「起こしてしまいましたか?」
「……っ?!レーナ!体は大丈夫?!」
「ええ、大丈夫です」
レーナに抱きつくリック。
レーナもリックの頭を優しく撫でる。
リックの側にいると、安心する。
「本当に、助けに来てくれて、嬉しかったです」
「当然だよ!レーナを助けに行かないなんて、あり得ない!」
「リック!」
「ん?!」
語彙を強めて言うリックに、レーナは感情的に、口付けをする。
暫く、キスしていたレーナとリック。
やっとのこと、唇を離す2人。
でも、互いの表情は蕩けきっている。
レーナは途端に、悪魔的な笑みを浮かべ、体を動かして、自分もよりも幾分か小さいリックの体に覆い被さる。
レーナの大きな胸が、リックの胸に押しつけられる。
「え?レーナ?」
「リック、"しませんか?"」
「へ?するって…」
「そのままの意味です」
リックは少し顔を赤らめる。
「そ、それは僕だってしたいけど、ほら…レーナ、怪我してるし。クロもそばで寝てるから」
「では、体の負担にならないように、クロちゃんを起こさないように、静かに穏やかにやりましょう」
「ほ、本当にす……ん」
言い終える前に、またレーナはリックの口を塞ぐ。
「ずっとリックに会いたかったんです。ここに転移されてからは、心細かったもので」
レーナのうっとりとした顔に、リックは頷く。
今度はリックの方がキスをする。
レーナは、それを喜んで受け入れる。
無意識のうちに、リックの手は、レーナの胸の方へ行く。
でも、包帯で体が巻かれているので、優しく触る。
「分かったよ。じゃあ、静かに…しよう」
「ふふ…」
リックとレーナは笑い合う。
その後、2人とも服を脱ぎ始める。
近くで寝ているクロを起こさないように、静かに、愛の営みをする2人。
次の日、リックたちは地上にいた。
リックたちの後ろには、大きな穴。
グランドドラゴンであるイッカクに、もう一度穴を掘らせた。
螺旋状に掘り進むことで、上に上がるための穴を使ったのだ。
レーナは空を仰ぐ。
久々の日の光。
『やっぱり外が良い!』
『オイラは地面の下の方が心地良いかな。でも、外も悪くない』
ドラゴン2匹であるクロとイッカクは、地上に出て、喜んでいる。
でも、それはドラゴンだけではない。
「地上…数百年ぶりです」
感動した様子で、空を見るのは、ヴァンパイアのグルコル。
グルコルの後ろには、多くのヴァンパイアたちがいた。
彼らは爵位なしのヴァンパイア。
「久々の地上…こりゃあ夢かい」
グルコルの後ろにいる中年の女性の姿をしたヴァンパイアが、涙を僅かに流していた。
この人は、レーナがベネジクトの研究所から出た後に、侵入した時の家の主の人。
レーナに地下都市の現状を、いろいろ説明してくれたヴァンパイアである。
地下都市にいるヴァンパイアたちは、かつて数百年前に起こった人間と魔人との戦いで、人間側が転移の魔導装置を使い、地下都市に閉じ込めたのだ。
それからは、爵位なしのヴァンパイアたちは、ヴァンパイア公爵ベネジクトが率いる爵位持ちのヴァンパイアたちから支配されていた。
彼らはベネジクトたちから解放されただけでなく、地下都市の幽閉からも解放されたのだ。
「これから皆さんは、どうやって生きていくのですか?」
レーナは新しいリーダーのグルコルに尋ねる。
彼女はベネジクトの妹で、今はヴァンパイアたちの新たなトップとなっている。
「そうですね。ここからは、地下都市と、ここの地上を拠点として、自給自足で生活することになりそうですね」
「ここで、ですか?」
「ええ…ここは漆黒の森。強い魔獣がたくさんいますが、仮にも我らはヴァンパイア。徒党を組めば、魔獣には負けません。魔獣の血を飲めば、暫く何も食べずに生きていけますし」
それを聞いて、リックは意外そうな顔をする。
「え?ヴァンパイアって、魔獣の血でも良いんだ?てっきり人の血だけかと」
「はい、大丈夫です。おそらく数百年前の人間と魔人との戦いで、人間の方は勘違いしているのでしょうが、ヴァンパイアは別に人ではなくでも、魔獣の血でも摂取可能です」
知らなかった。
セイクリッド王国で知られているヴァンパイアの常識は、人の血を喰らう恐ろしい魔人。
見つけたら、すぐ殺すが鉄則。
レーナが血を操る魔人であったように、自分はまだ魔人について知らないことが多すぎる。
そう感じるリックであった。
「では、私たちは、ここで」
「それじゃあ」
リックとレーナは漆黒の森を進む。
元々、祖国のセイクリッド王国では、リックは『ドラゴンテイマー』、レーナは『呪導師』という不遇職から、漆黒の森への追放を言い渡された身。
何処に行く当てもなく、進み続けていた降りに、黒竜に出会い、魔導装置からヴァンパイアのいる地下都市に関わることになった。
「皆さん、お気をつけて」
グルコルが頭を下げる。
感謝しているのは、グルコルだけではない。
「ありがとな!!」
「まさか、人間に救われるとは」
「あんたら、気をつけていくんだよ!」
グルコルと同じくヴァンパイアたちが口々にお礼を述べる。
こっちもヴァンパイアたちに感謝される日が来るとは。
人生何が起こるか分からない。
「イッカクちゃんは便利ですね」
レーナは風を感じながら、イッカクの便利さに感嘆する。
今、リックとレーナ、クロはイッカクの大きな背中に乗って、移動している。
そうした方が、移動時間を短縮できる。
進む際に現れる魔獣は、ドラゴンであるイッカクを見ると、大体逃げる。
ドラゴン様々だ。
「……あら?これは…」
「どうしたの、レーナ?」
「塩の香りがします」
「塩の香り?」
「前方から塩の匂いが、かなりします」
鼻をスンスンさせて、塩の匂いが入ってくると説明するレーナ。
半魔人であるレーナは、身体能力が高く、嗅覚も高い。
遠くの物の匂いも分かる。
「塩の香り…まさか!」
リックは前方をよく見る。
前方には、森しか見えない。
でも、塩の香りと言うことは、”アレ”があるのだろうか。
その時、視界が開く。
森が無くなったのだ。
「これは…」
リックは見えたものに、口を紡ぐ。
余りにも、驚いて言葉が出てこなかったからだ。
『わああ!!何これ!』
クロが目を輝かせて、はしゃぐ。
クロにとって、この光景は初めてだろう。
かく言う、リックとレーナも初めてである。
目の前には、大きな青。
広く続く青。
「海ですね」
レーナは青の正体を言う。
そう海なのだ。
レーナがさっき嗅いだ塩の香りは、海の香りだったのだ。
追放され、漆黒の森を、ただ我武者羅に進んで行った先には、海が存在した。
本でしか知らなかった海の光景。
それが目の前に。
リックとレーナはイッカクから降りて、海へ進む。
『わああ!冷たい!』
クロはこちらに来る波に、大喜び。
『イッカクは、こっちに来ないの?』
『オイラは良い。水は嫌いだ』
ドラゴン2匹がいる傍ら、リックとレーナも、海から来る波に触る。
「これが海。知識では知っていましたが、何て綺麗なのでしょう」
白い砂の上で、面白そうに足踏みするレーナ。
ミッドナイトブルーの髪が、海風に煽られて、横に流れている。
そんな彼女をリックは見つめ、
「ねぇ…レーナ」
「はい?どうしました、リック?」
レーナは金色の目をリックに向ける。
「これから何があっても、僕はレーナと一緒に居たい」
「え?」
目を点にするレーナ。
そして、可笑しそうに笑う。
「急に、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと言いたくなっただけ」
レーナは、そっとリックの手を握る。
その手をリックも握り返す。
「レーナ、愛してる」
「はい、私も愛してます。リック」
リックとレーナには、これから、また困難が訪れるだろう。
でも、2人の絆は、そう脆くない。
きっと、愛し合いながら、進んで行く。
取り敢えず、完結。
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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜
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