39恐怖と絶望
「さて…これから実験を開始する」
そうして、ベネジクトはレーナの体をじっくり見る。
台に拘束されているレーナは、ボロボロになった胸当てに、下腹部と腰回りを覆う鎧と、脛当てとしたブーツを身につけている。
「まずは、身に着けている邪魔な物を取り除くか。グルコル、剥ぎ取れ」
「はい」
ベネジクトからグルコルと呼ばれた使用人の女性であるヴァンパイアは頷く。
そばに棚から小型のナイフを取り出す。
そして、ナイフを持ちながら、レーナに近づく、
「な、何を?!」
そのナイフで何をするのか。
戸惑うレーナを無視して、使用人のヴァンパイア…グルコルは無表情で、ナイフをレーナの胸部に当てる。
ザク。
グルコルはナイフの先を、レーナが身に付けている軽鎧の隙間である繋ぎ目を切っていく。
外される胸当て。
下着越しから上へと押し上げるレーナの豊かな胸部が目立つ。
さらに、素早く器用に、グルコルは腰回りの鎧部分の繋ぎ目を切り、外していく。
ブーツも抜き取る。
そして、最後の下着すら、手を掛ける。
「や、止めっ!」
ビリ…。
懇願するレーナだが、下着は簡単に破り捨てられる。
何も纏っていない胸が晒される。
残ったのは、何も身に着けていない全裸の姿である。
「ふむ…体の形状を見るに、性別は見ての通り、女」
ベネジクトは裸体のレーナを舐めまわすように見てから、その大きな胸を無遠慮に触る。
「くっ?!さ、触らないでください!」
レーナはベネジクト睨みつけ、悔しさで歯を食いしばる。
自身の裸体を見て、触って良いのは、この世でリックだけである。
例え、それが同性の女性でもあっても許せない。
レーナは必死に抵抗するが、拘束が解ける気配がなどない。
台の上で体を動かして暴れるため、その大きな胸が、ただ揺れるだけだった。
「だが、傷が目立つな」
ベネジクトの言う通り、レーナの体には、至る所に小さな切り傷や痣が目立っていた。
血を飲んで強化したベネジクトに、あれほど殴られたのだから当然か。
「グルコル、コイツに口枷を」
「は」
言われた通り、グルコルは口枷を取り出す。
無理やり、レーナの口に嵌める。
口を閉じることが出来なくなり、自由に発声が出来なくなるレーナ。
一方のベネジクトはレーナの上の天井に設置されている数本の管の内の一本を引っ張る。
口枷で強制的に開かされているレーナの口内に、管の一本を突っ込む。
「んん!!」
異物を口内に入れられ、レーナは悶える。
管は口内を通り、そのまま胃の中へ行く。
すると、管の中を緑色の液体が流れる。
若干濁りのある緑色の液体。
良く見れば、近くの緑色の液体が入っている大きな水槽から、長い管を通して、レーナの頭上の天井にある管の束に繋がっている。
当然、流れる緑色の液体は、そのままレーナの口内を通り、胃の中に流し込まれる。
レーナは身構えたが、身体に異常は起こらない。
何らかの違和感を持ちつつも、緑色の液体はレーナの体内に定着する。
すると、不思議と体の痛みが引いていく。
目を動かして、自身の身体を見ると、ベネジクトから受けた傷が徐々にではあるが、回復しているのが見て取れる。
この緑の液体は、傷を治癒する効果があるのだ。
「よし、傷は治りつつあるな」
ベネジクトがレーナの状態を見る。
これは回復役?
しかし、何故これを私に?
内心、自分に回復薬が投与されたことに、首を傾げるレーナ。
そこで、ベネジクトは別の場所から、またしても管を取り出す。
先が広がった管の先端…それを、
「ん?!ん?!」
レーナの足と足の付け根にある股間に取り付ける。
一体、股間に管を取り付けて何をするつもりなのか。
「グルコル、目隠しを」
今度は、レーナに目隠しをするようにグルコルに指示を出すベネジクト。
そして、黒い布を被せられ、視覚を失うレーナ。
何も見えない。
何も見えないが、これから何か始まる。
分かるのは、音だけ。
レーナは少し恐怖する。
視界が取れないのは、思った以上に恐ろしい。
「治癒液の効果はある。これなら……」
ベネジクトが近くの棚を漁る音が聞こえる。
そして、何か取り出す音も聞こえてきた。
「穴を空けても大丈夫だな」
穴?穴を空ける?!
どういうこと?
どんどんと恐怖が増すレーナ。
「最初は…腹部だな」
ベネジクトがそう言った数瞬後、自身の腹部…腹筋の辺りに、少しだけ鈍い痛みが走る。
何か刃物を押し当てられた感覚。
その次に、ペキッ…という何かが折れた音。
「ほぉ…これは、これは。戦いのときでも、思ったが、其方の体は頑丈だな。ただの鉄では、歯が立たないか」
ベネジクトの感心の声が聞こえる。
どうやら、鉄の刃物が押し当てられていたようだ。
しかし、レーナの頑丈な身体で、壊れたみたいだ。
「ならば、これを使うか」
またしても、何かを漁る音と、何かを取り出す音が聞こえる。
半魔人のレーナは、人と比べて、ずっと頑丈だ。
とはいえ、それも何でも弾き返すほどの頑丈さではないが。
今度は、何を使うのでしょうか?
そう考えていた刹那。
ボオオオオ!!
聞こえてきたのは、燃える音?
次の瞬間、レーナの腹部に物凄い熱と激痛が走る。
「っっっっ????!!!!」
もし、口枷を嵌められていなかったら、溢れんばかりの絶叫を上げていただろう。
感覚で分かる。
何かで、自身の腹部を貫かれたことが。
「んんん!!!」
まともに声を出すことも許されず、その激しい痛みに、レーナは拘束されている体を何度も震わせる。
これまでも人生の中で、一番の痛み。
余りの痛みに、レーナは失禁してしまう。
トクン…トクン…。
下腹部の、さらに下の股間から………黄色味の混じった液体が、レーナの股間に取り付けられている管を通って、外に排出される。
ベネジクトは、レーナの排出液が流れている管を持ちながら、またしても感心した声を出す。
「暖かい。色からしても、人間が排出する尿液と同じものだろう。面白い。魔人は本来、人間のように排出物を出さん。しかし、半魔人は出すと言う事か?」
ベネジクトはメモを取りながら、レーナの体を分析する。
「排出液でも、貴重なサンプルだ。取れるだけ取って、保管するか」
レーナには、ベネジクトの言葉に耳を傾ける余裕は無かった。
腹を貫かれた痛みで、どうにかなりそうである。
「やはり、半魔人は興味深い。我も、もっと知りたい」
目隠しをされているれーなには、分からないが、十中八九、ベネジクトは獰猛な笑みを浮かべている。
「案ずるな。其方の体に流し込んでいる治癒液があれば、死ぬことは無い。思う存分、実験が出来る訳だ」
つまり、態々…治癒液を自身に流し込んだ理由は、実験体である自分を簡単に死なせないためである。
それは、レーナが人生で初めて、絶望を感じた瞬間かもしれなかった。
リック!リック!リック!
助けてください!
心の中で叫ぶは、愛する人の名前だった。




