29魔咆哮
複数のヴァンパイアの苦戦を強いられるレーナ。
レーナの方が身体能力が、やや上。
だが、相手のヴァンパイアも剣の技術は高い。
さらに複数が開いて。
ジリ貧である。
下手をしたら、こちらがやられ兼ねない
「ふぅ…仕方ありませんね」
そこで、レーナは腹を括る。
あれを使うしかありませんね。
心の内で決断するレーナ。
本当は使いたくは無い。
でも、この状況では止む負えないだろう。
そうと決まれば。
タン!
一度決断したレーナは大きく飛び、大部屋の壁際まで自ら向かう。
後方が壁であり、これ以上後ろに下がることが出来ない。
「貴様、何をしている?」
ヴァンパイア達は不審に思う。
複数人を相手取っているレーナからしてみれば、自分から逃げ場所を制限した事と同じ。
これまでは、レーナのフットワークで複数のヴァンパイアの攻撃を掻い潜ってきたが、これでは、まともに避けられない。
「取り囲め」
始めに大部屋に入ってきた時に、数人の中央にいた男…恐らく、この男が数人に指示を出すリーダー的存在のヴァンパイアだろう。
そのヴァンパイアがレーナを取り囲むようにと指示を出す。
ジリジリと、ヴァンパイア達は剣を構えながら、レーナに近づく。
後方は壁。
このまま完全に、取り囲まれれば、レーナは袋叩きに逢う。
そうして、レーナとヴァンパイア達との距離が数メートルまでになった時、
「…………すぅ」
レーナは大きく息は吸う。
肺全開に空気をため込むほどに。
だが、それだけで無く、レーナは体中の魔力を漲らせる。
そして、集めた魔力を腹部に集中させる。
レーナの体の中では、大量の空気と魔力の2つが混ざり合っている状態だ。
ここまで来れば、準備万端である。
後は解放するだけ。
次の瞬間、ヴァンパイア達は一斉にレーナへ斬りつけを行う。
複数人での同時攻撃。
後ろは壁。
物理的に、攻撃を避けるのは、ほぼ無理だろう。
だから、迎撃する。
レーナは自ら、壁際に飛び込んだのは、こうしてヴァンパイア達を集めやすくするためだ。
レーナが肺に溜めた空気と腹に溜めた魔力を一気に、喉を通して、口から外へ押し出す。
「はああ!!!」
咆哮を放つ。
それは雄たけびと言う名を持った魔力の波動。
レーナの腹から出した大声量が、気合の声と共に、膨大な魔力をヴァンパイア達に叩きつけたのだ。
「「「ぐああ?!」」」
ヴァンパイア達は、まるで破城槌に打たれたような感触を味わっただろう。
凄まじい速度で、後ろへ飛ばされるヴァンパイア達。
彼らは皆、レーナがいた壁際とは反対の方向の壁際に激突する。
ヴァンパイアたちは身動きが取れなかった。
それほど、レーナの雄たけびと、壁へと激突は大ダメージだった。
形勢、逆転である。
これは「魔咆哮」と言う技である。
母から教わった『魔闘術』で、必殺技や奥義に位置づけられる技だ。
咆哮のように、雄たけびを上げ、魔力の波動を敵にぶつける。
これにより、広範囲の攻撃がなせる。
敵側には、避ける手立てがない。
まさに、奥の手なのだが、
「はぁ…はぁ…」
一方のレーナも、疲弊していた。
膝を突いて、額から少なくない汗を流している。
これだ。
これがあるから、あまり使いたくは無かったのだ。
この「魔咆哮」は、威力が高く、前方にいる敵を薙ぎ倒す強力な技だが、如何せん多くの魔力を消費し、疲弊も溜まる。
連発が出来ないのだ。
この技を使うと、必ず体の防御が薄くなる。
人も魔人も半魔人も、魔力によって肉体を強化できる。
特に、魔人は人よりも圧倒的に魔力を持っているため、筋力や骨格、皮膚の頑強さは人とは比べものにならない。
でも、「魔咆哮」を使用すると、一時的に、大量の魔力が体外に排出されるため、身体が脆くなるのだ。
だから、「魔咆哮」は奥の手であり、使う時は必ず敵に当て、無力化させないといけない。
今回は成功した。
レーナは数人のヴァンパイアが昏睡したのを確認すると、ヴァンパイアが現れた扉に向かう。
この部屋には、あの扉以外入り口が無い。
なら、あの扉を抜けて、出口を見つける必要がある。




