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第7話 STREET DANCE─闇を裂くステップ、拡散される鼓動─

 準決勝の興奮が冷めやらぬ中、みゆとティナは決勝の舞台を待つ控え室へと向かっていた。しかし、煌びやかな表舞台とは対照的な石造りの薄暗い廊下に、異様な冷気が立ち込める。


「……誰?」


 みゆが足を止めると、天井の影から漆黒の法衣を纏った一団が音もなく降り立った。彼らの手には、鈍い銀色に光る魔道具――音を吸い込み、肉体の動きを硬直させる「静寂の呪鐘」が握られている。


「我らは沈黙の教団。……感情を昂ぶらせ、秩序を乱す『ダンス』などという野蛮な行為、この世界には不要だ。九条みゆ、貴様のステップと共に、その心臓を止めてやろう」

「はぁ? 折角いい気分だったのに、野暮な連中ね」


 ティナが苛立ちを露わにし、ポールを構えようとする。だが、教団の放った「静寂の呪縛」が、空間から音を奪い、重いプレッシャーとなって二人の四肢にのしかかった。

 戦場という名のステージ


「ティナ、構えないで。……彼らの攻撃は、一定のリズムを刻んでる」


 みゆの耳には、音が消された空間でも、刺客たちが踏み出す足音や武器を振るう際の衣擦れが、一つの「ビート」として聴こえていた。

 刺客の一人が短剣を突き出す。みゆはそれを、首を一回転させるアイソレーションで紙一重で回避。流れるように床を滑り、別の刺客の足元でブレイクダンスの「ウィンドミル」を繰り出した。


「なっ……!? 攻撃が、当たらない……?」

「無駄よ。私の体は、あなたたちの『殺気のリズム』をもう読み取ってるから」


 みゆにとって、これは戦闘ではない。未知のジャンルとの「ダンスバトル」だ。

 敵が短剣を振り下ろせば、それを拍子カウントとして捉え、華麗なターンで背後に回る。

 敵が魔道具を起動させようとすれば、その予備動作に合わせてタップダンスのような鋭いキックを浴びせ、起動を阻止する。

 拡散される「非公式」の伝説

 その時、廊下の角で物音を聞きつけ、隠れて様子を伺っていた大会運営のスタッフや、一部の「魔鏡(SNS)」配信者たちが、思わず水晶端末を向けた。


『おい見ろ! 九条みゆだ! ステージ裏で刺客に襲われてるぞ!』

『嘘だろ……あの動き……戦ってるんじゃない、踊ってるんだ!』


 水晶を通して世界中にリアルタイムで配信される映像。

 そこには、無機質な廊下を華麗な舞台に変え、暗殺者たちの波波たる攻撃をコンテンポラリーダンスのように美しく受け流し、翻弄するみゆの姿があった。

 ティナもまた、ポールの端で敵の武器を弾き飛ばし、挑発的なウィンクを投げかける。


『カッコよすぎる……!』

『ステージの上だけじゃない、彼女は生きることそのものがダンスなんだ!』


 沈黙を切り裂く喝采

 焦った教団のリーダーが、最大出力で呪鐘を打ち鳴らす。


「黙れ! 踊るな! 世界に静寂を――!」

「――残念。音楽は、止まらないよ」


 みゆは、あえて「無音」の中で自分自身の胸を叩き、ビートを刻み始めた。


 ドクン、ドクン。


 心臓の鼓動が、黄金のオーラとなって廊下全体に溢れ出す。それは沈黙の呪いを焼き払い、刺客たちを「ダンスの悦び」という名の光で圧倒した。

 戦意を喪失し、膝をつく教団員たち。彼らの耳には、今まで否定し続けてきたはずの「生きているリズム」が鳴り響いていた。


「……さて。掃除も終わったし、決勝に行こうか。ティナ」

「ええ。世界中が、あんたのアンコールを待ってるわよ」


 二人が現場を去った後、配信映像の「いいね(魔力評価)」は過去最高値を更新し、九条みゆの人気は不動のものとなった。

 もはや、彼女を止める者は誰もいない。

 いよいよ迎える決勝戦。

 相手は魔族と魔女の連合軍。そしてその先には、みゆ自身も予期せぬ「最後のカーテンコール」が待ち受けていた。


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