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第6話 The Dance of Eternity─龍の領域、無垢なる円の崩壊─

 本戦トーナメント準決勝。

 会場の熱気はもはや物理的な圧力を持ち、上空に浮かぶ魔法のモニターが、緊張に満ちた九条みゆの表情を大きく映し出していた。

 対戦相手は、この世界において神に近いとされる種族――龍族。

 壇上に現れたのは、額に小ぶりな角を持ち、静謐な威圧感を放つ二人の男女、フェイロンとリサだった。彼らがまとう道着のような衣装が、微風に揺れる。


「九条みゆ、そしてサキュバスのダンサー達よ。汝らの舞は、確かに理に適っている。だが、我ら龍族が示すのは『理』そのもの。万物の流れ……その深淵を知るがいい」


 龍族のリーダー、フェイロンが静かに構えを取る。その瞬間、音楽すら鳴っていないはずのステージに、低く、重厚な「鳴動」が響き渡った。

 支配領域『ドラゴン・サークル』

 試合開始の合図と共に、龍族の二人が動き出した。

 その動きは、みゆが知る「太極拳」や「中国武術」の演武を彷彿とさせたが、決定的な違いがあった。彼らの手足が描く弧の軌道が、空中に残像を残し「青い光の筋」として残っていくのだ。

 それが彼等の必殺技だ。

 彼らが円を描くたびに、ステージ上の空間そのものが龍族の支配下へと塗り替えられていく。

 みゆが一歩踏み出そうとすると、本来そこにあるはずの地面の感覚が歪み、まるで粘度の高い液体の中を歩いているような錯覚に陥った。


「な、何これ……体が、勝手に流される……っ!」


 ティナが悲鳴に近い声を上げる。彼女がポールを支えに回転しようとしても、空間そのものが円形に渦巻いているため、軸がブレてまともに回ることすらできない。

 龍族の舞は、まさに完璧な「円」だった。

 どこにも継ぎ目がなく、淀みがない。彼らの描く円環の中に、みゆとティナのリズムは飲み込まれ、龍族の巨大な流れの一部として強制的に同調シンクロさせられていく。このままでは、自分たちの意志で踊ることすら叶わず、龍族の美しさを引き立てる「背景」として敗北する。


 隠し必殺技『フリースタイル』の胎動


「……完璧すぎるのよ、あなたの円は」


 重圧に膝をつきかけながら、みゆは低く呟いた。

 龍族の『ドラゴン・サークル』は、完全無欠の調和によって成り立っている。ならば、その調和を壊すものは何か。

 みゆはスマホの操作を放棄した。

 音楽。ビート。そんな「外側からのガイド」すら今の彼女には不要だった。

 彼女は自身の内側にある「鼓動」だけを道標に、隠し必殺技を解禁する。


「ティナ、私を信じて。……音を聴くんじゃなくて、私の『呼吸』に合わせて!」


 みゆの体が、突如として龍族の円環を無視した動きを見せた。


 それは特定のジャンルに縛られず、クラシックの優雅さからブレイクダンス、ヒップホップのアグレッシブな身体の動き、果てにはゲーセンで叩き込んだ『ダンレボ』の超高速ステップから歌舞伎の見得を切る動きで相手のダンスを受け流しつつ、静と動の緩急をリズミカルに組み替えて放つ「RHYTHM&BEATS」。

 みゆが野試合で身に付けたみゆ当時のフリースタイル。

 そして──

 領域の崩壊、逆転

 フェイロンの目が驚愕に見開かれる。


「馬鹿な……我らの円を、あえて『不協和音』で汚すというのか!?」

「汚すんじゃないわ。……これが、私の『自由』よ!」


みゆは龍族が作った滑らかな円の流れに対し、あえて垂直に、あるいはジグザグにリズムを叩き込む。


 龍族が「静」の円を描けば、みゆは「爆発」するようなヒップホップのポップ(筋肉のはじけ)をぶつける。龍族が「柔」の流れを作れば、みゆは「剛」の能の足拍子で空間を震わせる。

 完璧な円の中に、あえて異ジャンルの不規則なリズム――「ノイズ」を叩き込み続ける。

 すると、どうだろうか。龍族が支配していた完璧な空間に、ひび割れが生じ始めた。


「今よ、ティナ! 円の継ぎ目をこじ開けて!」

「まっかせなさぁい!!」


みゆが作った「リズムの亀裂」に、ティナがエロテロリストの発動ポたによって現れたポールを掴み一瞬でタイタニックを決めた。


みゆの半径五メートルを包む黄金のオーラが、龍族の青い光を内側から食い破り、心地よい安心感と共に会場全体へと広がっていった。

完璧な支配よりも、お互いの個性をぶつけ合って出来た『自由』の方が、観客の心を激しく揺さぶる。

その生命の躍動を前に、龍族の円環は音を立てて崩壊した。

『決まったぁぁ!! 龍の領域を、九条みゆの「フリースタイル」が粉砕! 誰も見たことのない、ジャンルの壁を壊すステップが、神の種族を跪かせたぁぁ!!』


 膝をついたフェイロンは、自身の描いた円の残骸を見つめ、やがて静かに立ち上がった。


「……見事だ。汝の舞には、我らが数千年の修練で見落としていた『今、この瞬間の煌めき』があった。敗北を認めよう」


 みゆは差し出された龍の王の手を握り、深く一礼した。

 全身を襲う疲労感。だが、達成感はそれを上回っていた。


「……次は、いよいよ決勝だね、ティナ」

「ええ。でもその前に……」


 ティナの視線が、ステージ袖の暗がりに向けられた。


「さっきからチョロチョロしてる『不純物』を、掃除しなきゃいけないみたいね」


 準決勝の熱狂の裏で、ついに「刺客」たちが牙を剥き、二人の行く手を阻もうとしていた。


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