52.聖女にとっての知っておいて良かった話。
「ッそういう意味かよ!お前はいつも嫌味ったらしいんだよラウナ!聖女にもいつもいつもそういう言い方で虐めてよぉ!」
「ハァ?!私がいつ!虐めたって言うの?!アンタ達が何も気付かないから私が一番気にしてやってんじゃない!」
…………ニーロ……ラウナ?
暗い、森の中だ。ニーロとラウナが仲良く喧嘩してる。……嗚呼、この光景も好きだなぁ。ニーロもラウナも、たくさんいつの間にか羨ましいくらい遠慮無く言い合えるようになったよね。
懐かしい光景に、もっと見回したいのに視界が動かない。また夢なのか、誰かの視界なのか。似たような光景は何度も観た覚えがあるけれど、これは知らない光景だとわかる。…………わかるよ。だって二人が死んじゃってから何度も何度も思い出だけを支えにして生きて来たから。
声を漏らすラウナがどこかを見る。私の視界よりもずっと高いところに顎を上げて、今度はニーロが口を開いた。
「おい、アクセル。お前もさっさと食え。来ねぇなら肉投げんぞ」
アクセルの視界でも、ない。
じゃあ、これは誰のものだろう。…………やっぱりただの、夢かな。
どうして、またこんな夢をみているんだろう。直前の記憶が、思い出せない。
どうせ意識があるなら、私も皆と話したいのに声が出ない。木から下りてきたのだろうアクセルが、すとんと着地してこっちに振り返った。だけど、私とは目が合わなくてすぐに背中を向けてしまう。そのままニーロ達と楽しそうにわいわい食事をする姿を眺めながら、……やっぱり私がいない方が皆楽しそうだなと思う。
聖典の旅はずっと大変で、ずっと寂しくて、…………仲間が欠けるまではずっと幸せだった。
アクセルが仲間に加わってくれた頃が一番幸せだったなと思う。賑やかで、ニーロもラウナもお互いで話をしてくれるようになって、辛いことを乗り越えた二人はずっとずっと強かった。
そんな二人が大好きで、アクセルとも少しずつ打ち解けていくのを見るのも嬉しくて、毎日ほんの一歩一歩でも皆が仲良くなっていく姿を見るのが好きだった。いつか私も皆と同じくらい打ち解けて、足手まといにならないくらい役に立って、……世界を救った時にやったねと喜び合えるくらいになりたかった。
記憶にないこの光景に、もし私がいてもきっと何も変わらない。私はいつだって一人で小さくなって話を聞いているだけで精一杯だった。
だけど、今は思う。ニーロが、ラウナが生きていてくれているうちに、もっと勇気を出して自分から
「俺はさ、聖女には自由に生きて欲しいんだよ」
…………ニーロ。
やっぱり夢だ。これは。
記憶にない言葉にそう思いながら、胸が苦しい。こんなことを言って貰えたら忘れるわけがないのに、優しいニーロなら言ってくれそうな言葉だと思うから。……ううん。ニーロが優しいのはずっと知っていたけれど、こんなことを言ってくれるとわかったのは本当に最近だ。
ずっと、ずっとニーロにも私は迷惑なだけだと思ってた。足手まといで、役立たずで、ずっと険しい怖い顔ばっかりしていたニーロは、本当は剣闘士をやりたかったのにいやいや私の同行者を押しつけられたと思ってた。だけど、違ったんだよね本当は。
ニーロは、ニーロはずっと私が知るよりも昔から友達だと思ってくれていて…………私の、為に。
『聖典の旅に俺を同行者として御指名ください……!!』
優しいニーロが大好きだよ。責任感が強くて、真面目で、努力家のニーロは子どもの頃からずっと自慢の友達だよ。皇子様よりも剣闘士よりも英雄よりもずっと、友達になってくれたニーロが子どもの頃の私の一番の自慢で憧れだった。
仲が良くなかった皇帝陛下に頭まで下げてくれたの今でも信じられないし、聖女としか呼んでくれなかったのも怖い顔でずっと私達を率いてくれていたのも、真剣に皇帝陛下との約束守って私なんかを立てて、旅の間も私達を守ろうと一生懸命だったからなんだよね。
誤解していて本当にごめんね。ニーロはずっと私のことも私達のことも考えてくれていたんだよね。ニーロが死んじゃう時に一度も私を責めなかったのもニーロが優しかったからだけじゃなくて、ニーロが本当に悔いがないくらい旅を頑張ったからなんだよね。
私にはできないくらい、羨ましいくらいニーロはずっと真面目で真っ直ぐな男の子だった。
「聖女と一緒に過ごすとか、…………悪くはないと思うけど」
夢みたいな言葉も、きっと夢じゃない。
呟いたラウナがほんの一瞬、こっちを見た気がした。私を見たのかな?でも目が合った気はしなくて、ただただ視界が九十度傾く。
うわーうわーと頭の中が忙しい。すごい嬉しい。ラウナがそんなこと思っててくれたなんて。
私もラウナと一緒に過ごしたいよ?!ずっとずっとラウナ達と一緒に過ごせたら一番幸せだよ!!洗濯だって掃除だって頑張るし、料理も焦がさないように頑張るよ!!私はラウナの家族の代わりにはなれないけどそれでも
『優しくできなくてごめんなさい』
同じくらい、大好きになる自信はあるよ。もう大大大好きだから。
ラウナが命なんか張らなくても、自分の身ぐらい守り切れるくらいになるよ。今度こそラウナに失った苦しみなんて味わわせないよ。……私も、ラウナを絶対失いたくないから。
家族を失うのが辛いの、もう私も知ってるし死ぬほどわかるよ!!今ならもっとラウナの気持ちを聞いて、わかることもできるよ!あんなに辛い目に遭ったのに聖典の旅なんかを選んで、一人で立ち直ったラウナはすごい人だって何度だって永遠に言えるよ!!ラウナみたいな強い女性に渡しもずっとずっとなりたかった!
優しくなれなくたって良いんだよ。ラウナが本当は優しいことも頼れることも強いところも、ラウナの良いところは全部知っているから。ラウナの良いところなら永遠に言っていられる。……今度は、私もラウナの気持ちを間違わないようにがんばるよ。
「聖女か聖典ならお前らどっち選ぶんだ」
「そりゃあ聖女だろ」
「聖女に決まってるでしょ」
大好き。
大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大好き。
私なんかにこんなこと言ってくれる人、きっと他にいない。
ごめんね、本当にごめんね、今までニーロもラウナも、……アクセルも。世界のことじゃない、こんなに私のことを想ってくれていたのに気付けなかった。
胸が温かくて、空でも飛んでしまえそうなほど浮き立ってたまらない。私の気持ちなのか、この視界の持ち主の気持ちなのかわからない。でも、私も間違いなく死ぬほど嬉しい。
今ならわかる。ちゃんと、わかる。本当にこの夢みたいにニーロもラウナも想ってくれていた。
こんな優しい人達が私や世界の為に犠牲になる必要なんて絶対ない。
『俺らが望んだのはお前の為の人生だ』
だから、今度こそ──
……
…
「起きたか聖女」
「……。……おはようございますアクセル……」
ぼんやりと開けた視界の先で、金色の目が私を見下ろした。モイがピィピィとその傍を飛んでいる。
広くて綺麗な天井、寝心地の良いベッドと眩しい朝日。それよりも今は、眩しすぎる夢の方が頭の中で瞬いて、暫くそのままぼんやりと二人を見上げ続けてしまう。
「また起きるの早いですね」と言いながら、結局昨夜もアクセルのベッドを占領してしまったことを改めて謝った。
本日!1月25日書籍発売致しました!
「純粋培養すぎる聖女の逆行 Ⅰ. 闇堕ち聖女×伝説の聖典」
よろしくお願い致します!




