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<1月書籍発売中!>純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第三章 聖女の知らない世界

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44.聖女にとっての寝室。


「……ニーロ」


ぽつんと、自分の唇が気付けば動いていた。

横向きに寝転がりながら朝日で照らされた視界の向こうで、白い小さなフワフワがこっちを見ていた。モイだと、そう理解しながら心臓の音に内側から耳を塞がれる。視界が暗闇だけでなく、酷く滲んで居ると気付く。頬を伝う濡れた感触に、枕元まで湿っていた。……嗚呼、また見てしまった。


回帰してからもう毎日だ。まさかラウナに続いて今度はニーロの夢まで見ちゃうことになるとは思わなかった。

昨日は色々あり過ぎて頭もまだまとまっていないのにここでニーロの夢なんて意地悪過ぎると、多分原因の聖典に思う。まるで夢にまで責められたような気分になる。

だけど、お陰で一つだけ納得もできた。


鼻を啜って、柔らかな毛布を被り直す。きっと今回の夢はアクセルの時と同じで、回帰する前でも、……この時間の過去にもあったことだ。

ニーロが、まさか自分から皇帝陛下に願ってくれたなんて想像もしなかった。

旅中のニーロはいつも剣闘士時代を懐かしんでいて、自分でも皇帝陛下に言われて仕方なくと何度も何度も溢していた。……だから、本当に嫌々だったと思ったのに。

夢で見たあのニーロの視点も気持ちも全部が嘘みたいで、今でも私の想像だけの夢じゃないかと思う。……けれど違う。あの感覚は全部、ニーロそのものの現実だった。

限界まで張り上げた喉の感覚も、床に打ち付けた額の痛みも、皇帝陛下に許可を貰えるまでの鼓動の速さも、それに……許可を貰えた時の安堵も全部ニーロのものだ。子ども時代のことまで思い出してくれていた記憶まで覚えている。まだ小さかった私が、あんなこと言ってたかなと思ったこともニーロは覚えていた。


子ども時代に、教皇様にお城に連れてきてもらってはニーロに面倒をみてもらっていたのは覚えているけれど、気が付いたらもうニーロと一緒にいるのが当たり前できっかけなんて考えたこともなかった。

ニーロも、やっぱり皇帝陛下に言われて仕方なくだったんだなと思うと、本当に小さい頃から私の面倒を見させてしまった申し訳ない気持ちになる。……どうせならニーロの視点での小さい頃の私なんかよりも、小さい頃のニーロが見たかった。

ニーロは昔からずっと優しくて、……そんなニーロがまさかとっくの昔に聖典の旅について知っていたなんて。


「……ごめんなさい……」

瞬きをすれば、途端にまた大粒が溢れた。……どうして私は、二回目の人生でも大事な人達をこんなに傷付けてるのだろう。

ニーロが、剣闘士を目指した理由も格好良いからとか、国一番強くなりたいからとかしか思わなかった。剣闘士の自由な生活が好きになって、だから王位継承も破棄したのだと思ってた。最初から私の旅に同行してまで守ってくれるつもりだったなんて。

私のこと妹みたいって思ってくれてた。すごいすごい嬉しいよ光栄だよ私にとってもお兄ちゃんみたいだよと言いたいくらい嬉しいし胸がいっぱいになる。

それなのに、何度も何度もあんなに断って、……ニーロが頑張ってくれたこの全部を無駄にしてしまった。こんな、旅を任命される時じゃもう遅かった。もっと、ずっとずっと昔からニーロの人生を私はおかしくしていた。剣闘士になって国一番になれたのは良いけれど、本当ならニーロは皇子様で、強くて優しいニーロなら、本当に皇帝にだってなれたかもしれないのに。

私のせいで、私の為に、私なんかに関わったせいで、私なんかが余計なことを言ったせいでニーロは、こんな。


『じゃあニーロは────』

「ニーロ……ニーロ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

毛布の下で両手でも顔を覆って泣きじゃくる。

子どもの頃なんて、自分に都合の良いニーロとの楽しい思い出ばかりだ。身体は十六に戻った私だけれど、子どもの頃はもっともっと昔でもある。

なんで無責任にあんなことを言っちゃったんだろう。しかもそのせいで結果的にニーロは皇子もやめてしまったなんて、もうニーロにどう償えば良いのかわから



「目覚めに男の名呼んでんじゃねぇ雑魚聖女」



「……………………あくせる?」

にゅっ、と。毛布を引っ張られたと思ったところで覗き込まれた。朝日の逆行で一瞬本当に誰かわからなかったアクセルが、不機嫌そうな眼差しを至近距離から向けている。

わああああっ?!と意味もわからず喚きながら起き上がる。バサンッと毛布を翻し、上半身を起こせばいつの間にかベッドにアクセルが乗り上げて座っていた。私の声に煩そうに訝しんだ顔のアクセルを前に、遅れて心臓がバクバクと鳴り出した。びっくりした!びっくりした!!びっっくりしたああ!!!

旅中にもアクセル達と一緒に寝たことは何度もあるけれど、今はモイと私だけの目覚めになれていた。まさかアクセルもいるなんて想像もしなかったし、どうしようぐずぐず泣いているのまで見られてた?!


「あああああアクセル!どどうしてここに?!あのっ、その!ここ私の…………」

「私の、じゃねぇだろ雑魚。ここは俺の部屋だ」

寝ぼけてんじゃねぇと、舌打ちをならしながら言うアクセルの言葉に、一音がひっくり返りながら溢れる。

あれ??え??と、寝る前の記憶も思い出せないまま最初に気付いた違和感は部屋だった。さっきまではモイと毛布の中ばっかりだったけれど、よく見ると私の部屋と全然違う。

呼吸が深くなるほどに広々とした空間に、家具から調度品までずらりと並んで輝いている。朝日が入ってきた窓はくぐることができそうなほど大きいし、カーテンも分厚い高そうな生地で、別の壁にはステンドグラスもはめ込まれていた。まるで貴族の暮らしみたいな部屋に、口が暫く開いたままになる。

私が寝ていたベッドも、見ればいつものベッドじゃない。フカフカで、なによりアクセルが一緒に乗り上げてもまだ余裕があるくらい広い。見渡した先には大きなソファーもあって、あれだけでも私の普段のベッドよりも大きい。そこまで確認してから、…………ようやく昨夜の記憶を思い出す。


「あ…………」

「寝付く前も泣いて、起きても泣いて。俺が使う前にベッド汚しやがって雑魚が」

ハッ!!と、慌てて枕を見れば完全に私の涙で染みができていた。

しかも自分の格好を見れば、寝衣姿でもない昨日と同じ聖衣姿のままだ。服の土汚れもちょっとベッドに移っちゃっていて、枕元にはモイが今も寛いでいて小さな白い羽まで散らばっている。

じわわわわっ!!と顔が急激に熱くなるのを感じながらも今更になって昨日の記憶が鮮明に蘇る。


昨日、魔族を倒してからアクセルの自然魔法で闘技場を出たまでは良いけれど、大聖堂に戻ったところでまたニーロのことを思い出してびえびえ一人で泣いてしまった。

アクセルもまだ色々話したいことがあった筈なのに、私が話せる状態じゃないせいでずっと自室で夜になるまで待ち続けて、…………教皇様がアクセルに用意した特別室の客間にそのまま私も回収された。ずっと泣いてニーロとのことを思い出してはまた泣いての繰り返しで、瞼も腫れていた上に昨夜は照明も二個くらいしかついてなくて薄暗かった。

まだ私に聖典についてとか何も聞けてないからアクセルに連れてこられたんだと思いながらも涙がまだ止まらなくて、……そのまま気付いたら寝てしまっていた。……まさに、あのソファーの上で。


「あ……あああぁぁぁ……あのアクセル……す、すみません……私、ベッド…………」

「よくもまぁハルティアの第一王子をソファーに押しやってくれたな??」

つまりはここまでベッドに運んでくれたのもアクセルなのかなと思えば、すごくすごく申し訳なくなって一気に血が引いた。しかもアクセル、ソファーで寝てる!!

ごめんなさい!!!と謝りながら大慌てでベッドから転がり降りてももう遅い。朝だし、アクセルは寝起きで髪もちょっとぐしゃついていた。宵闇色の黒がかった青い髪が、朝日に照らされて今は本来の深い青が際立っている。やっぱり、アクセルの髪はいつ見ても綺麗だなと思いながら、……こんなにぐしゃついているのもソファーで寝たからだよねと思う。

毛布とかあったのかな、どうしよう私なんかのせいで風邪とか引いちゃったら。


「あ、ああああアクセル……ベッド、アクセルも使えば良かったですのに……むしろ、私がソファーで」

「この俺が、女ソファーに転がして寝れるか??これでも王族だぞこれでも」

アクセルのそういう王族気質なところ大好きだよ。

そう思いながらも、まだ顔は強ばったままになってしまう。アクセルは野宿には抵抗ないし初めての食べ物とかも抵抗はないのに、ところどころに羨ましいくらい育ちの良さが見えるのも好きだった。「これでも」とか混血と知ったからか言うけれど、アクセルはやっぱり根からの王子様だと思う。さらに、旅での記憶を思い出せば。


「確かにアクセル、一緒に寝る時も同じベッドは絶対嫌がってましたね……野営とか寝袋は気にしないのに」

「ベッドっていうか同衾な??」

アクセルはニーロとも同じテントとか部屋で寝たこともあるし、私と二人になってからも隣同士で寝てくれることはあったけど、確かに宿では床か別々のベッドだった。つまり今回も私がこの部屋で泣き寝した時点でもうアクセルはベッドで寝れなくなったんだなと再認識する。広い客間だけど、大きなベッドひとつしかないから。

今は私の隣で足を崩して座るアクセルは、じっとりとした目で私を睨んだ。黄金色の目は本気で怒ってるわけじゃないとわかるけど、それでも不機嫌なんだなぁとわかる。


「すみませんすみません……アクセル寝れませんでしたよね……」

「合ってるが絶対それ意味違うだろお前」 

「私に用事あった筈なのに先に寝ちゃってすみません……」

すみませんすみませんとひたすら謝りながらアクセルに頭を下げる。

途中でアクセルが「用事??」と小首を捻ったけれど、上目にちらっとしかその可愛い動作も見えなかった。まずはとにかく今度こそアクセルの要件に答えようと、姿勢を伸ばしてその場に座り直す。聖典については言えないけれど、他にもまだ答えてないことは色々


コンコンコンコン


突然のノックの直後。「失礼致します」と扉を開けてきた教皇様が、ベッドの上で向き直ったところの私とアクセルに目を剥いて叫び散らかすのは間も無くのことだった。


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【1月25日書籍発売!!】

書籍化決定


《コミカライズも決定!!》

皆さんのお陰です本当にありがとうございます!!

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