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<1月書籍発売中!>純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第三章 聖女の知らない世界

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45.聖女にとっては藁のような。


「まったく…………!聖女ともあろうものがアクセル王子のベッドに入り込むなど」


ぶつぶつと文句を溢し続ける教皇様の後ろを歩きながら、視線を逸らす。

自分なんてアクセルを地下に幽閉し続けていたくせにと思いながら、今は教皇様のことなんかよりもアクセルのことばかりを考える。今もどっかに付いてきてくれているのかな。


朝からアクセルの部屋に訪れた教皇様は、どうやら私を探していたらしい。

昨日何度も私に会いにきたのに部屋が閉められたままで今朝には私がいなかったから、事情を知っていそうなアクセルのともに訪れたと。そういえば、昨日も大聖堂の自室に入ってからずっと泣いていたけれど、何度か扉の音が聞こえたかもしれない。

ずっと私は泣くのに忙しかったし、そこまで意識が向かなかった。多分アクセルが扉も閉じてくれてたのかなと思う。教皇様に泣いているところなんてもう一生見られたくないから助かった。


発見されてからずっと喚き続けていた教皇様だけど、最終的には私一人を引っ張って部屋を出た。一緒に付いて来ようとしてくれて教皇様に断られたアクセルだけど、…………多分またこの辺にいるのかなぁと思う。アクセルの自然魔法は私もちょっと離れているだけで全然感知できない。

今もどこにいるか感知できないけれど、…………アクセルは、教皇様に言われたぐらいで大人しくお留守番する人じゃない。


「聖女よ。私はわかっているぞ。そうやって振る舞えば聖女の使命から逃れられるとでも思ったのだろう?」

「はぁ」

「お前が不安になる気持ちもわかるが、聖典の旅がどれほどの……」

なにか話してる教皇様に先導され、兵士の守っていた扉の先を進む。階段を降りながら、そういえば今日だなと思う。今朝はアクセルのベッドを占領したことに慌てて忘れていたけれど今日が情報公開の日、つまりは聖典の旅出発の日だ。

もうそろそろ皇帝陛下が広場に国民を集めている頃かもしれない。聖女の私は逆行前も、聖典と来たる脅威が公表される時にはその場にいなかった。確か、旅支度が終わらなくて部屋にいた気がする。……でも、代わりに教皇様が皇帝陛下と一緒に民の前に出た筈だけど。

人前に立つのがお得意な教皇様がまだ私と一緒にいるということは、まだ公表の時間ではないのかな。

タン、タン、タンと階段を降りきった先の扉を前に、教皇様は鍵を取り出した。神聖魔法の施錠を解いてから、鍵で扉を開く。開かれた先は、…………真っ白に輝く見通しの良い場所だった。ランプ一ついらないその空間に、魔法陣一つだけが広がっている。


アクセルの幽閉されていた地下聖堂。


「……このようなところに、何のご用でしょうか」

アクセルが生活していた痕跡は全部片付けられている。私物はどうしたのかなって思ったけれど、殆どが本やペンだったしアクセルが要らないと断ったのかもしれない。旅の間もアクセルは殆ど、本当に最初はびっくりしたほどに私物は必要分しか持ち歩いていなかった。

アクセルの居住範囲も綺麗に消えた地下聖堂は、もともとの広さが余計に際立って感じた。教皇様は私に背中を向けたまま床に彫り込まれた魔法陣の中央にまで進む。

小脇に抱えていた本を手に持ち直し、そこでくるりと私に向き直った。手招きをする教皇様に、私も気持ち悪いとは思いつつ歩み寄る。にっこり笑って手招きする教皇様が、昔は好きだったのになと懐かしさも少し過ったけれど、今はやっぱりただ気持ち悪い。


「聖女よ。この結界を張り直してみなさい」

「…………はい?」

「アクセル王子にここで一度お会いした時に見ただろう?大丈夫、一度は展開された魔法陣を再利用するだけだ」

難しいことはない、と。私の両肩に触れながら猫撫で声で話す教皇様に、怖じ気が走る。振り払いながらも「自信ありませんので」と断った。

一瞬、結界を解いたのがバレたのかと思ったけれど、まさかまた張り直したいだけだ。確かに、この魔法陣も床に残っているなら後は魔力さえ注ぎ込めば再会できる。でも、もともとアクセルを幽閉する為の封印をまた張り直したくない。今日で大聖堂を去るのにわざわざそんな親切を教皇様にしたくもない。


「お願いだ。やってみておくれ。この結界はとても神聖なもので、魔物を全て浄化する絶対的な力がある。もし大聖堂に魔物が押し入った時、ここが最後の砦ともなる避難地なのだ」

いっそそのまま魔物にむしゃむしゃ食べられてください。

そう心の中で呟きながら、本当の口はぴったり閉じる。地下聖堂は確かに広いけど、国民全員が収納できるような広さじゃないし威力は最高位でもこの結界の範囲は高位結界と同等程度だ。こんなところに安全な場所を作っても、助かるのは一握り、もっと言えばこの場所の存在を知っている教皇様と大聖堂関係者だけだ。

それに、もしここに避難しても、アクセルみたいに魔が入っていない普通の人間には無害であると同時に、何も作用もしない。こんな何もないところに避難したところでたかが知れている。神聖魔法の最高峰であるこの国の大聖堂が追い詰められる状況で、こんなところに避難しても時間稼ぎにしかならない。

嫌です、できません、戻りますと、教皇様の猫撫で声を無視して背中を向けた途端、また肩を掴まれた。今度は指がめり込むほどに強い力で掴まれ僅かに仰け反った。「そう言わずに」と優しい声に反して強い力に、もういっそ転移魔法で逃げようかと


「聖典の使命。……今からでも撤回して頂くよう、私から話をつけよう」


「……………………それは、どういうことですか」

ぴたりと、気付ば足が止まった。

首までは振り返りたくなくて、目は真っ直ぐに入ってきた扉を睨み付けたまま、耳は教皇様へと集中する。モイだけが一音鳴きながら私の肩に降りて、教皇様に振り返る。

まさか、まさかと、一つの可能性が胸に浮かびながら、気付けば声も小さくなった。ここに教皇様が、私一人だけを呼んだ理由もそれなら納得できる。前に出そうとしていた足を揃え、掴まれた腕のまま立ち止まれば教皇様からも掴む力は弱まった。

「詳しくは言えないが」と前置きをしながら、教皇様もまた静かな声だった。振り返らなくても、またきっとあの薄ら笑いできっと良い人の振りをして私を見てるとわかる。

逆行する前の擦れた記憶にも、あの時の何を訴えても伝わらなかった教皇様の笑顔が今も焼き付いて離れない。


「〝来たる脅威〟を、聖典に頼らずとも撥ね除けることができるかもしれん。その為にはまず、この結界が必要不可欠なのだ」

「…………。……聖典捜索の使命には、誰も任命されないということですか?」

私だけでなく。そう続けて念押し尋ねれば、あっさりと肯定が返ってきた。

来たる脅威を撥ね除けられるなら、伝説の代物である聖典に頼る必要もない。お前もここで今まで通り過ごせるようになる。……そう、抑揚を付けながら話す教皇様の話を聞きながら、そうなればニーロもラウナもあんなに気に追うこともなくなると思う。


どちらにせよ私が旅に出ることは変わらない。二人を置いていかなければならないことも変わらないけれど、でも私が危険な旅に出たなんて思われない。使命じゃなくて、もっと別の理由で旅に出ると言えば、私のことを守ろうとしてくれるラウナも、ニーロもあんなに気負うことはなくなるかもしれない。

いっそ旅行とか、移住とか!そういうもっと安全で平和な理由にしよう。そうすれば、もしかすると二人も笑顔で見送ってくれるかもしれない。……うん!そうだよいっそハルティアに遊びに行くとかにしよう!経由するのは変わらないし、嘘にはならないし今の私には転移魔法もある!二人が喜ぶお土産とか持ってたまに帰ってくれば、この先もずっと二人とも仲良く……


「どうだ?聖女よ。悪い話では」

「やります」

指を組み、魔力を注ぐ。音もなく私達の立つ魔法陣が発動し、光の反射に包まれながら結界を展開させた。

元通りの結界に、教皇様が口を開いたまま瞬きもせずに固まるのを置いて、目で周囲を確認する。魔法陣がしっかりと機能してることと、……アクセルがうっかりに入ってないことを確認する。半魔のアクセルは結界の中じゃ魔法も使えないから。

何に問題ないことを確認してから私は改めて教皇様に向き直る。まだ薄ら笑いの口のまま固まる教皇様へ一歩前に出た。これで良い、これで今度こそラウナもニーロも気に負うことはなくなる。


「これで宜しいですね教皇様。約束は守ってください」

「……エンジェラよ。やはり、お前は魔力を隠し持っていたのだな。まさか、本当に一人でこの魔法陣を展開できるほどの魔力とは」

まるで聞いていない。開けっぱなしの口を閉じたと思えば、さっきの声高と反した静かな声だった。

顎を上げ、遠い目で結界を見上げる教皇様は私を見ていない。まるで独り言のようだった。「その名前はやめて下さい」と言い返してもそこに訂正はない。


「ニーロ皇子達との決闘でも、もしやとは思ったのだよ。一体いつからこの私に隠していた?闘技場でもアクセル王子の大召喚を防いだのはお前だろう。本当に、可愛かったお前がこんなことになるとは」

えっ。闘技場にいたの?

まさか付いてきてたのかなと、そう思ったら急に身震いする。教会関係者は闘技場を忌避してるのに、わざわざ入り込んでまで。ニーロは良いけど教皇様が闘技場に追って来てたなんて気持ち悪い。気付けばまた半歩足が下がった。

距離を空ける私をよそに、魔法陣の中央に佇んだまま教皇様は本を開くと、今度は独り言みたいにぶつぶつと呟き出した。もう今日で最後だと思ったから我慢できたけど、子どもの頃から何年もこの人と暮らしていたのが信じられない。

もう帰りたいけど、このまま教皇様にのんびりされても困る。もういつ皇帝陛下が公表するかとわからない。


「あのっ約束は守ってください!伝説の聖典は必要ないんですよね?!ならば、はやっ早く公表する前に皇帝陛下にそれをお伝えください!」

裾を握り締め、胃の中が逆流しそうになりながら震える声を張る。それでもぶつぶつ呟く教皇様は私どころか結界も見ないでのんびり棒立ちだった。

皇帝陛下に迷惑をかけたくない。訂正されるなら公表する前の方が絶対良い。

声を上げても、見向きもしない。大声で「教皇様!!」と叫んでも、ピクリとすら反応してくれない。せっかく空けた距離を、私は小走りで駆け寄り詰める。「教皇様!」とその耳が壊れても良いくらい声を上げその裾を掴




「ッッ離れろ聖女!!!!」




アクセルの、声。

扉の方から聞こえたそれに、反射的に飛び退くのと教皇様が何かを唱え終えるのは同時で。


「〝継承魔法〟」

拙い回避では足りず、次の瞬間には教皇様の()()()()()()が私を襲った。

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【1月25日書籍発売!!】

書籍化決定


《コミカライズも決定!!》

皆さんのお陰です本当にありがとうございます!!

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