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<1月書籍発売中!>純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~  作者: 天壱
第三章 聖女の知らない世界

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そして回収する。


「ッなにしにきやがったジジイ!!テメェまさか聖女の部屋に通ってやがんのか?!」

「?!なっなにを仰いますか!誤解ですアクセル王子殿下。今日は聖女に大事な手紙を渡しに来ただけでして……」


何故それを自分が言われなければならないのだと、教皇は心外に思いながら首を横に振り手紙を掲げてみせる。自分がアクセルに向けようとしていた疑いの眼差しを、まさかのアクセルに向けられることに顔を顰めた。


手紙ぃ?!と、教皇が掲げた手紙をアクセルは長い腕で掠め取る。

手紙の差出人を見れば、この国の皇族からだと人目で理解したアクセルだが、生憎現皇帝の名前は把握していない。聖女に「これ皇帝か?」と差出人を見せ、そのまま手渡した。中身は気になったが、聖女への手紙を勝手に読むわけにもいかない。

アクセルが教皇を殺しにかからないと判断した聖女も、胴回りに回した腕の力を抜いてその手紙を受け取った。


教皇からノックが鳴らされた途端に急いで盗聴防止を解こうとした自分と違い、魔眼を光らせて「アァ!?」と唸ったアクセルがてっきり発言通り殺しに走ると思った。まだ教皇には自分が逆行したことも、聖典の事実を知っていることも隠している。その上でアクセルに「欺してやがったな?!」の一言すら言われるわけにはいかなかった。

しかしアクセルからすれば、殺したい標的が自分から訪れたことよりも、聖女の部屋に気安く入っているという事実の方が怖じ気が走った。しかもノックの後に遠慮なく扉を開ける遠慮の無さも気味が悪い。恋仲でも夫婦でもない男が、しかも教皇が聖女相手にやって良い域を超えている。

長命のエルフにとって、少女の聖女も初老の教皇も見かけはさておき年齢の差は大したものではない。

教皇から積極的に否定されたことでようやく気は済んだアクセルだが、それでも聖女の部屋に教皇がいるだけで気分が悪く、顔ごと視界から消した。


「なんて書いてる?」

「ちょっちょっと待ってください緊張でうまく開けなくて……」

殺気が嘘のように薙ぎ、手紙へ背中を丸めてのぞき込むアクセルに、聖女もあわあわと指先を滑らせながら手紙の封を開く。皇帝からの手紙など聖女も受け取り慣れていない。そもそも自分宛の手紙自体受け取ったことは殆ど無い。

細い指で封を開き、中の書状を取り出せば今度は教皇も聖女に歩み寄る。そもそも聖女のもとにまで届けに来たのも手紙の内容が気になったことが大きい。皇帝から直接預かった聖女宛の手紙は「直接聖女に」と命じられた以上、教皇であっても勝手に封を開くことは許されない。だからこそ聖女に開かせて横から読もうと考えていた教皇だが、……それもアクセルに阻まれる。正面から歩み寄ってくる教皇の頭を、脂汗のついた額ごとわし掴んだアクセルは腕で突っ張るようにしてそれ以上教皇が聖女に近づけないように押しとどめた。

文句を言おうにも相手は長年大聖堂で監禁していた王子。教皇も文句を言えずに喉を詰まらせたまま口を結ぶしかできなくなった。聖女は皇帝からの手紙に集中して気付かず、モイも助けようとするどころか呑気にアクセルの腕を止まり木代わりに身を下ろすだけで、教皇に尻尾を向けるだけだ。


「ええと……ど、同行者のことと、あと町の件です。魔物討伐と決闘勝利の功績を称え、旅の同行者については正式に私へ一任してくださるそうです」

なっ?!と思わず教皇は声を上げ、眼球が溢れそうなほど目を見開いた。自分が手紙を受け取りに言った時も、町の魔物討伐の功績は称えられたが、まさかそこまで正式に決まったとは聞いていない。聖女の隣でアクセルが口笛を鳴らす中、教皇はわなわなと手を震わせながら聖女が読み上げる手紙の続きに耳を澄ます。

出発予定日は変わらない。城下を発つ時には国を上げて送り出す為のパレードと式典も行う。その代わり、同行者不在でも国からの援助金は予定通りの額を支払う。この手紙がその証明書代わりになる。そう、皇帝からの至れり尽くせりの内容の文面は、最後〝来たる脅威〟に立ち向かう為の大任を受けてくれた聖女への感謝の言葉で締め括られていた。

手紙を聖女は声にして読みながら抱きしめたくなる。やはり皇帝陛下は良い人だと改めて思う。流石はニーロのお父さん!と心の中で叫びながら、読み終えればきちんと皺通りにたたみ直した。

証明にもなる、の言葉通りこの書状さえあれば、今後自分が誰を置いていこうが、誰を連れて行こうが、誰と途中で離脱しようが問題ない。自分はもちろんのこと、仲間達も責められることはなくなる。


「聖女よ!!まさか本当にアクセル王子殿下と二人で行くつもりではあるまいな?!」

「行きます」

「皇帝から許可は出たんだろ。文句なら皇帝に言え」

聖女の即答と殆ど同時に、前のめる教皇をアクセルが掴んだ手のまま変わらず押し返す。

むしろもう出てけと言わんばかりに、そのままぐいぐいと扉の方向へと押し込んでいく。アクセルの腕力に勝てるわけもなく、いくら抵抗しようとも後方に無理矢理後ずさりさせられる教皇は、扉を潜らされそうなところで縁に手を掛け踏みとどまろうと抵抗する。「お待ちください!」と喉を張り上げ、アクセルに押し込まれるまま顔が変形し喉を突き出すように反らしながら口を動かす。


「そもそもアクセル王子殿下!貴方こそ何故聖女の部屋に?!お部屋ならば相応しいお部屋を用意いたしますのでどうかこちらに……!!」

「地下聖堂か?」

とんでもない!!と、どっと冷たい汗が教皇の背中を濡らす。本心を読まれたような錯覚に心臓まで危なげに鳴り出した。

アクセルを地下聖堂に封じたいのはやまやまだが、建前はあくまで浄化の為に長期保護していただけと貫かなければならない。王子であるアクセルの一言はハルティアを敵に回すことに繋がるのだから。もし戦争になどなれば、先代から主犯を引き継いだ自分も同罪は免れない。

アクセルの明らかに半魔のままにも関わらず「治った」とあからさまな嘘にも強く出られないほど、教皇にとってアクセルの存在は大きな弱味だった。

両手をぶんぶんと横に振り指定する教皇に、アクセルも目の色が金色に、そしく眼差しが鋭さの代わりに細く変わっていく。保身の固まりのこの男が、自分をどう見ているかも想像はつく。薄く息を吐きながら教皇から一度離した手と軽い動作で、今自分がいる部屋を示した。


「客室はいらねぇ、ここで寝る」

「ッなりません!!!このような部屋にアクセル王子殿下を泊めるわけにもなりませんし、何より聖女と同室など……!!」

「そもそも聖女がこんな部屋にいるのが問題だ。あんな無駄にご立派な特別室があって何故教会の誇る聖女が屋根裏部屋に押しやられている?」

むしろ、今朝自分達が通されたあの特別室こそが元は〝聖女〟と認定された女性の為の部屋だったのではないかと、アクセルは考える。部屋の配置も規模も、その方が納得できる。いくら教会を代表する大聖堂とはいえ、通常の客間さえあれば充分だ。無駄に豪華な特別室は必要ない。そんな金があるなら孤児や恵まれない者、他の設備に回すべきである。

自分の半魔の呪いを浄化する為に、国内の関連書籍も読み込んだアクセルは当然神聖魔法の代表格である〝聖女〟についても知っている。国で最大権力の両頭である皇帝と教皇。その教皇に次する権力を持つ聖女が、屋根裏部屋であって良いわけがない。


アクセルの言い分に額から首まで脂汗を滲ませる教皇に反し、エンヴィーは小首を傾けるだけだった。きょとんという言葉が似合うほど、アクセルがさっきから何を怒っているのかわからない。

教皇のせいでアクセルが殺人犯にならないならなんでも良いが、自分の部屋に勝手に教皇が入ってくることも、そして特別室が大聖堂にあることも、自分が屋根裏部屋にいることも当たり前のことだ。ついこの前まで、教皇は自分にとって親同然だったのだから。自分が不在時でも部屋にいても、勝手に入ってきても驚かない。

まずこの大聖堂が教皇のもので自分は〝住まわせてもらっている〟という意識は変わらない。

特別室についても、自分が拾われた頃から当然のようにあった。屋根裏部屋だって小柄な自分は不便も感じなければ、むしろ他の修道女と違って個室を与えられていることに贅沢とさえ思う。


「聖女は!まだ修行の身でして……!客人にはできる限りの歓迎を、我々は質素に生きることを方針としております」

必死にアクセルにそれらしい弁明をする教皇の言葉にも、そんなことを言う本人の部屋が一番広くて豪華なのを知っているが、別段ここで言及しようとは思わない。そんなことは最初から別に気にしなかった。問題はただ一つ、この教皇が自分の仲間を捨て石に利用したことだけだ。

聖典の嘘さえなければ、教皇がどんなに贅沢でも自分がどれだけ粗末な生活でもエンヴィーはなんとも思わなかった。


「ですから、どうか。アクセル王子殿下も未婚の女性と同室などどういう噂や誤解や噂を招くかわかりません。今後アクセル王子殿下がハルティアに帰られるにしても教会で送迎をご用意することもできます。聖女と友好を交わしてくださるのはありがたいことですが彼女の意思を尊重し、どうか弁えて頂ければ幸いです」

「?アクセルと同室でも私は構いませんが」

「ッとにかく!!!どうか!!どうか!!客間として特別室にご案内致しますので!!」

聖女からの当然のような言葉を打ち消すように、教皇は声を荒げる。アクセルの手を必死に引き、共に退室させようとする。

今の聖女の発言が何の意味も含ませないと理解しながら、だからこそアクセルを引き離すべく務めた。聖女に邪な考えも知識も与えずに教育したのは自分だ。

聖女のとんでもない発言をしっかり聞き取っていたアクセルは、教皇の引く手に微動だにもせず暫く立ち止まる。黄金の瞳は振り返ったまま、真っ直ぐに聖女に向かっていた。一体どういう教育をされてきたんだと、部屋に留まると言い出した自分の方が聖女に思う。こうして自分と目があっても、惑いの一つもない無垢な空色の眼差しだ。

ハァァァ……と肩を丸めるように溜息を吐き、背中を丸めたままゆっくりとアクセルも足を動かした。半ば引っ張られるように強引に手を取られるまま教皇の案内に従い歩く。


「あっアクセル!あのっさっきの話はどうか……」

「わぁってる。聖女、お前は部屋に鍵かけろ」


殺さないでくださいね。回帰や聖典についても言わないでください。と、その言葉を込めようとする聖女に、アクセルも溜息交じりの声で返した。教皇からもあとでもう一度話そうと言われたが、その言葉は殆ど聖女の耳に通らなかった。

パタンと扉が閉じられ、再びモイと二人きりになった聖女は扉を見つめたままふらふらとベッドに腰を下ろす。そのまま横に倒れるように寝転がれば、モイに小さな嘴で頬を突かれた。アクセルや教皇の訪問に、頭が追いつこうと働いているのを自覚する。アクセルが教皇を殺さないかが不安だが、今は信じることしかできない。


「……アクセルと久々に寝たかった……」

ぽそりと、一人になったと気が抜けた途端、口からも本音が溢れた。

旅中はアクセルともニーロともラウナと同じように並んで野宿もしたのだから、今更一緒の部屋程度はなんとも思わない。テントを張ることも多かったが、同じ陣営で寝ることもあれば宿が一部屋しか取れなかったこともある。自分の狭い部屋とベッドでは、自分が床に寝て、アクセルにはベッドをまるまる譲っても狭い思いをさせてしまうと思えば、教皇が用意した特別室の方が良いとは思う。しかし、逆行のことも信じてくれたアクセルともう少し話していたかった。まだ、相談したいことも山のようにあったのだから。

ふぅ……と、溜息を吐けばそこで瞼が重くなった。まだ昼前にもかかわらず、うつらうつらとしてしまえばモイの羽や嘴が頬に当たる感触すら心地良く感じる。聖女の瞼がそのまま重くそして閉じられたところで、モイも聖女から飛び離れ定位置のランプの上に腰掛けた。聖女の寝息を聞きながらピィピィと小さく鳴き、そして


ぐるりと首を回転させた。


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【1月25日書籍発売!!】

書籍化決定


《コミカライズも決定!!》

皆さんのお陰です本当にありがとうございます!!

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