第781話「おいおい、誰だ?って、何だよ。顔も知らない奴の尾行を、オラースへ命じていたのか?」
尾行して来た他組織の男達に『とある仕掛け』を施し、解放したリオネル。
そして、アンセルムの宿へ帰還。
アンセルムが用意していた、腕によりをかけたソヴァール王国料理の夕食を、
全員で存分に楽しみ……
夕食後は、これまた全員でお茶を飲みながら歓談。
現在の状況とこれからの予定を共有する事に。
話の中心となるのは、やはりリオネル。
そもそも、アールヴ族の長、ソウェルたるヒルデガルドの伴侶として、
リオネルがイエーラの国策の考案、検討、決定、及び国家運営に関わるのは、
義務となり、半永久的な課題ともなっている。
自身の修行も継続中であり、相変わらず、とんでもない『多忙さ』ではあるが、
当のリオネルは、それを全く苦にはしていない。
実際、この王都バルドル来訪後、
アンセルムの宿屋のプロジェクトを立ち上げた後、
緊急案件であったナタリーの案件を解決しつつ、
商業ギルドに協力を仰ぎながら、話を進めている。
という事で、まずは、ナタリーの為に、『新たな家族と仲間』に関して話す。
また、その件に関しては、予備知識が殆ど無いアンセルムも同様である。
ティエラに了解を貰っているから、両名へ、ある程度話せるのは幸いだ。
中でも、一番の最重要事項、
リオネルの正妻となるのが人間ではなく、地の最上級精霊、
高貴なる地界王、アマイモンの愛娘ティエラである事。
それを、初めて聞いたナタリーは大いに驚いた。
人間族のリオネルが、人知を超えた精霊と結婚するなんて、と。
しかし、よくよく考えれば、ヒルデガルドだって、アールヴ族の長たるソウェル。
いわばティエラ同様に、人間族を、遥かに超越した存在。
でも実際に話したら、フレンドリーで気楽に過ごせる。
ここまで、正体を明かされていなかった『正妻さん』は、
気風が良い姉御肌で、話しやすいと、
ヒルデガルドとミリアンからは聞いていたし……
そう思い、ナタリーは、気が楽になった。
話を戻すと……
更には、もうひとり妻となるアクィラ王国フォルミーカ出身の女子、
ブレンダ・ビルトが居る事。
ナタリーを入れ、計5人の女子が妻になる事。
そのブレンダと共に、ヒルデガルドの祖父イェレミアスの親友
魔道具屋の主ボトヴィッド・エウレニウスが、
アクィラ王国との国境沿いに位置するイエーラの特別地区へ移住した事。
リオネル達が当面、そのイエーラの特別地区へ居住する事。
その後、ヒルデガルドと共に訪問したワレバッドで、
リオネルが以前世話になった冒険者ギルド職員エステル・アゼマを、
彼女の能力を見込み、スカウトした事。
ちなみにエステルには、リオネルは、恋愛感情無しとの事も。
そんな感じで、家族、仲間が構成され、イエーラの特別地区で、
新たな生活が開始される事を話した。
次に、アンセルムの宿屋プロジェクトだが、
3日後、商業ギルドにて3度目の打合せを持つ事を共有。
そして解決に向かっているナタリーの案件では、
行き掛かり上、愚連隊『蠅団』の更生にも、
ボスとして、大いに関わる事となった事を話す。
ひと通り話した後、ヒルデガルド達が気になったのは、
新たなボスとなったリオネルと、蠅団との関わり具合。
『ナタリーさんの案件で、昨夜、侯爵ローランド様へ申し入れ、ご相談しました。いずれは、その打合せを反映した動きがあり、近い内にローランド様が王都へいらっしゃると思います。
とりあえず、それを待ちます。
そして本日は、蠅団の本部へ赴き、元ボスのマチアスと打合せをしましたが、王国の司法から処罰があっても、素直に受け入れる事を蠅団は了承しました。
今後、新たな仕事をし、更生をしつつ、贖罪を行う事までの話をし、同じく了承しました』
魔法を使い、既にワレバッドのローランド、ブレーズとは話したと言えば、
皆が驚いたが、リオネルならばと、全員すぐに納得。
ナタリーとアンセルムは、リオネルの魔法使いとしての能力は、
凄いとリスペクトしているから、無条件に凄いと感じているし、
他の3人は夢魔法行使を知っているから、何故にという追及は無かった。
ただ、さすがと言うべきは、リオネルの大器っぷり。
単に強い魔法使いの勇者ではなく、様々な分野で才能を発揮している。
イエーラの政治的な改革で結果を残しているだけではなく、
人心掌握術、交渉術にも長けていると、改めて判明したのだ。
そう言えば……
アクィラ王国でも国王、宰相を相手に、
『外交』でも手腕を発揮した事を、ヒルデガルドは思い出した。
一方、リオネルの話は更に続く。
『蠅団の新たな仕事は、彼らの特性から、まずは慣れた警備をメインに行います。
慣れたと言っても、彼らがこれまで行って来た脅迫、暴力沙汰と、警備は全く違います。
なのでしばらくは、真っ当な警備の仕事に慣れて貰う為、蠅団経営の店舗等において、研修を兼ねた警備を行います。
ある程度、警備に慣れたのなら、最初は客先において、無償のサービスで、お試し期間を設け、警備します。
結果、客先が納得し、改めて発注してくれるのならば、そこから有償とします。
加えて、清掃も同じように展開し、目途がついたら、更には、他の事業の可能性も探って行きます。
という事で、とりあえず、警備、清掃のふたつを有償のワークとしてビジネス化し、誠心誠意、励む事で贖罪にも代えます』
ここまで話すと、リオネルは軽く息を吐き、更に話を続ける。
『しかし、好事魔多しで、蠅団が俺に制圧され、おとなしくなった途端、競合する反社的他組織の奴らが、ちょっかいを出して来ました。
幸い、マチアスとのすり合わせにより、現時点でちょっかいを出している奴らが特定出来たので、急ぎ対処したいと思います。
俺絡みで、皆に、何か迷惑をかける前に手を打ちますので』
では、一体どうやって、他組織へアプローチするのか? どう処理をするのか?
ヒルデガルドから、質問が飛んだのだが……
「問題ありません」と返したのみで、
結局、リオネルは、はっきりと言明しなかった。
こうして、リオネルは笑顔で話を終えた。
まだまだ話す事は数多あるのだが、いきなりだとお腹一杯になり過ぎ、
受け入れ切れないと判断したからである。
とりあえず、明日からナタリーは冒険者ギルドへ出勤。
退職の意思を伝え、その後は成り行き。
リオネル達は、宿屋プロジェクトを進行させつつ、
ローランド到着を待つという事となった。
こうして、今夜はこれでお開きとなったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先ほどリオネルが、はっきり言明しなかった部分があったのは理由があった。
想い人、家族、仲間とは、
事情、状況を共有すべきという基本スタンスは、確かにある。
しかし、何でもかんでも、『全て』を共有すべきとは考えていない。
知る適度なタイミング、また知らなくて良い事も、数多ある。
例えば、リオネルが行って来た『汚れ仕事』がそうだ。
今回に関して言えば、マチアス以下蠅団の団員達、そしてガエルへ、
地獄の責め苦たる悪夢を見せて、情け容赦無くなぶり、
リアルな恐怖に囚われさせ、汚物の糞尿まみれにした事とか……
その事を、リオネルは「奴らに怖い夢魔法を徹底的に見せ、尋問した」
としか伝えていない。
えげつないその様子を、具体的には告げていないのだ。
と、言う事で……またもリオネルは『汚れ仕事』を行う事に。
その夜、リオネルは早速、自分を尾行した者達の夢を巡るを決めたのだ。
夢を巡る……これもティエラとの修行のたまもの。
リオネルの夢魔法のレベルは最高レベルへ達しており、
初対面でも、瞬時に捕捉した魔力で追跡し、
後で、相手の夢へコンタクトし、つながるようにしたのである。
そう、リオネルが施した『とある仕掛け』とは、まさに、それ。
夢の中で、相手を尋問し、一気にボスの夢にまで踏み込み、
一気に話をつける。
まずは警告を告げ、相手の反応、出方次第で、対応を変え、
それでも、悪意の嫌がらせをやめない、もしくは抵抗するようであれば、
「潰す」事にしたのだ。
「俺をつけたのは計3人で、それぞれ所属する組織が違う。よし、まずはこいつからか。愚連隊蜘蛛団のオラース。ボスの名は、イレネー」
リオネルは2度復唱すると、目を閉じ、夢魔法を発動。
すぐに浅い眠りへと入った。
すると!
リオネルの夢は、すぐにオラースの夢に接続。
その時、オラースが見ていた夢は、王都の街中……
いつものように、蜘蛛団の縄張りを巡回していたオラースは、
やはり、いつものように店主の王都市民を脅し、時には軽度の暴力を振るい、
違法なショバ代を巻き上げていたのだ。
まあ、それがオラースのいつもの仕事だったのではあるが。
いからせた肩で風を切る、そんなオラースへ、リオネルは近付いて行く。
そして、「しれっ」と声を掛ける。
ちなみに、リオネル、オラースのふたりとも革鎧姿、冒険者風の出で立ちだ。
「おい! オラース!」
「はあ!? 何だ!? どこの誰だ? てめえは!! いきなり、馴れ馴れしいぞ!! 俺を呼び捨てにしやがって!!」
リオネルの呼び掛けに対し、居丈高に怒鳴るオラース。
「おいおい、どこの誰って、俺を、もう忘れたのか? お前が昼間、尾行していた男だよ」
面白そうに微笑んだリオネルが返すと、オラースはびっくり。
目を丸くして、叫ぶ。
「て、てめえ!! リオネル・ロートレックかあ!!」
「ああ、そうだ。俺がリオネルだよ」
「てめえ! けつの青いガキの癖に、蠅団を締めて、ボスになったってのは、ほんとか!」
「ああ、けつの青いガキとかは、全く関係無いと思うが、ボスになったのは確かだよ。今夜は、蜘蛛団のお前とボスのイレネーへ、警告に来たのさ」
「何ぃ! 警告だとお!」
「ああ、俺の指示で蠅団は、これまでの行い一切を反省し、更生して、真っ当なカタギになる。それを、お前達みたいな外道に、邪魔をして欲しくないもんでな」
「んだとお! ふざけるなよ!」
「いや、俺はふざけていないぞ、オラース。お前がウチの店に来て、料理が不味いとか、女のサービスが悪いとか、いちゃもんを付けたのは分かっている。それが、ボスのイレネーからの『嫌がらせをしろ』との指示だともな」
ここまで来ると、普通の夢ではないと気付きそうなものだが、
オラースは、これが夢である、
いわゆる明晰夢だとは、理解していないようだ。
「は! 何言ってる? いちゃもんだと? 知らね~よ、そんなのは! 証拠が、あるのか、証拠は!」
「あははは、開き直ったか」
「う、うるせ~! 開き直るとか、関係ね~!」
「ほう、あくまでも白を切るのか? でも俺は、お前の心を読んだんだ。しらばっくれても無駄だよ」
「心を読むだと? 本当にふざけるなよ!」
「さっきから言っているが、俺は、ふざけてなどいない。よし! 証拠を見せてやる、というか聞かせてやる。お前が、心の中に隠した、ボスのイレネーにも内緒にしている秘密を言ってやるよ」
「な!? ひ、ひ、秘密だと!?」
「ああ、お前……組織の金を、度々、ちょろまかして、自分の懐に入れているだろう? ざっと、金貨200枚と少しか。自宅にある渋いグレーの金庫の中へ、こっそりと仕舞ってあるな」
単刀直入に、ズバッと!
リオネルは笑顔で、オラースの『秘密』を告げた。
対して、真っ青になるオラース。
何故!?という、驚きの表情だ。
「ふっ、驚いているようだな、オラース。だが俺は知っているぞ」
「う、ううう………」
「お前が、蜘蛛団所有の金を横領している以外にも、ボスに言えない秘密が、たくさんあるな」
「う、ううう……」
「丁度良い。ここにボスのイレネーもすぐに呼ぼう。奴とも、話をつけなきゃいけないからな。まずは、秘密の内、お前の横領を教えてやるのも一興だ」
ボスをこの場へ、王都の街中へ、すぐに呼ぶ!?
ありえない展開だが、やはり、オラースは夢だとは気付けない。
まあ、夢を見る際は大体がそうなのではあるが。
「や、やめてくれ~!!! そ、そんな事をし、したら!!! ボ、ボスに殺されるうう!!!」
頭を抱え絶叫するオラース。
しかし、リオネルは華麗にスルー。
ピン!と指を鳴らすと、ボスのイレネーが、いきなり登場。
イレネーは、50歳前後の、でっぷり太った中年男。
何と! 寝間着姿である。
オラース経由で、イレネーの心の波動を追跡し、
彼の見ている夢と接続したのだ。
「え!? えええ!!?? ほ、本当にき、来たあ!!」
いきなりの展開に、驚愕という表情のイレネー。
一方のリオネル、ニヤリと笑う。
「あんたとは、初めましてだな、蜘蛛団のボス、イレネーさんよ」
「な!? ガキ! てめえは誰だ!?」
「おいおい、誰だ?って、何だよ。顔も知らない奴の尾行を、オラースへ命じていたのか?」
「う、うお! て、てめえは!? ま、まさか!? リ、リオネル・ロートレック!!??」
「大当たりだ。今オラースを尋問していたところさ。こいつは、いろいろ吐いてくれた。お前の指示で、蠅団に嫌がらせしていた事をな」
「な!?」
「お前は、嫌がらせをして、蠅団へダメージを与え、縄張りを奪おうとしていたな」
「し、知らねえ! 全然、身に覚えがねえ!」
「そうか、お前もしらばっくれ、とぼけるのか?」
「うるせ~! 知らねえって、言っているだろ!」
「よし! ではイレネー、お前の心を読んでやろう……ふむ、成る程。お前は恐妻家なのだな。本妻のデボラには全く頭が上がらず、その反動からか、愛人を5人も囲っているのか? そのうち、エロイーズとキトリーには、あいびき用の家まで買ってやったと」
「はあ!!?? な、な、何故!!??」
「分かるのかって? 言っているだろう? お前の心を読んだのさ。それに、もっとヤバい秘密も、たくさんあるな」
「う、うおおおお!!!」
「おい、イレネー、オラース。これで分かっただろう、俺はお前達の、致命的な秘密を握っている。もしこのまま嫌がらせを続ければ、しかるべき所へ知らせてやろう」
リオネルの警告に対し、ふたりは黙り込んでしまう。
「………………………………」
「………………………………」
「ほう! 今度は黙秘と来たか。それは俺への反抗ともみなす」
「………………………………」
「………………………………」
「俺は充分に警告したぞ。これ以上は、もう容赦しない。警告の次は、今回の嫌がらせの、『落とし前』をつけて貰うぞ」
相変わらず笑顔のリオネルが、ぴん!と再び指を鳴らすと、
王都の街中だった情景が、瞬時に、荒涼とした原野、地獄へと変わったのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
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マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が購読可能です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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