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5。

いつも読みに来て下さってありがとうございますですv

 


「リィズ、お前の結婚式が明日に決まったそうだよ」


 先ほどなにやらお客様がいらしたようだったから、私の処置が決まったのかなぁとは思っていたけれど、まさかの明日挙式という通達が届いて吃驚した。

「はい、お父様。…御迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします」

 我ながら、こういう時にどういえばいいのかなんてサッパリだわ。これが王妃となるには教養が足りないってことなのね。きっと幼い頃から王妃教育というものを受けていたら、目の前に立つお父様とお母様をこんなに悲しそうな顔にすることもなかったのだろうなと思うと、自分の不甲斐なさがつらく情けなかった。

「リィズ、本当にいいの? こんな結婚、…これを受け入れて、本当に後悔しないの?」

 お母様の榛色の瞳はすでに涙で盛り上がっている。いいなぁ。私もお母様の様な柔らかな瞳が良かったなぁ。お父様のことだって大好きだけれど、でもきっと私が意地っ張りで強情なところもあるのはお父様そっくりの性格だからなんだと思う。

 一度こう決めたら、変えられないの。だから…。

「いいの。王子様のお邪魔にはなりたくないの。もうお会いできないなら、これでいい」

 大体、国王陛下の取り纏めた結婚を覆すような力なんて、ちょっと大きな商会をやっているだけの男爵家にあろう筈もない。私が国王陛下と約束を交わした時点で異議を申し立てる術はないのだから。

「…リィズ。国王陛下は公正で賢王と名高いお方だ。お前を不幸にするような結婚をお決めになったりしないよ」

 さすがのお父様も、こんな時だけは娘に甘いのね。

 でも、さすがに自分の息子を誑かした悪女に対して甘い態度なんて取らないと思うわ。だから、期待しない方がいいと思うの。

「でも、お相手との顔合わせも、身上書すら…お名前すら教えて戴けないなんて」

 うっ、と遂にお母様が泣き崩れてしまった。あぁ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。

「おかあさま…」

 そっとハンカチを差し出す。そういえば、憧れの王子様とお話がしてみたくて、何度もハンカチを目の前で落としてみせたっけ。他の人に拾われたり、踏んづけられたりして、結局一度もリオ様に拾って貰えたことはなかったけれど。

 入学式で、生徒会長として挨拶をした王子様に一目惚れしたのが始まりだった。

 あの頃は私だけじゃなくて。多分きっと沢山の新入生が王子様に一目惚れをしたんだと思う。王子様の前でハンカチ落としたりしてたの、私だけじゃなかったし。


『王子様の笑顔は一つしかない』『人形だから心もないんだ』

 どんなに頑張っても誰も振り向いて貰えない八つ当たりもあったのだろうけれど、人形王子にんぎょうひめという二つ名の意味がまるで人形のように完璧な美しさを持つ王子様という賛美から嫌な感じのものへと変質していくにつれて、きゃいきゃい皆で騒いでた人数が一人減り二人減り、いつしか私くらいしか纏わりつくものはいなくなっていたと思う。 

 それでも私は。私だけはハンカチの他にも、躓いた振りをしてよろけて縋ろうと画策して…隣にいたパニエル様に支えられたり、完全に避けられて本気で転んでしまったり。散々馬鹿な真似をしたものだ。

 結局。最後の挑戦とばかりに窓からダンスシューズの入った袋を投げ落とそうか悩んでいたところに後ろから誰かにぶつかられて本気で窓の外にぶん投げてしまって…。樹の中ほどの枝へ、私の魔法では取れないほど絡まってしまって蒼くなっていたところを助けて貰ったのだ。

 完全な演技ではなかったからだろうか。鮮やかな魔法で靴袋を救出して差し出してくれた王子様の笑顔に、本当に心臓が止まるかと思った。

 なんて綺麗な笑顔なのだろう。

 綺麗でそして。なぜか見ていると切なくなるような、寂しくなるような。

 不思議な笑顔は、私の胸に突き刺さった。

 そこから挨拶をするようになって。

 図書室で算術の勉強をしている時に「ここ、間違えてる」と後ろから指摘されて吃驚して大声を出して二人で摘まみだされて。廊下で笑いあって。図書室で会えた時など偶に勉強を教えて貰えるようになった。

 御礼と称して手作りのお菓子を持っていって。「毒味が必要です」と声を掛けられて、パニエル様やジェフリー様ともお話しするようになった。勿論、毒味は私自身が引き受けた。その後、パニエル様とジェフリー様も一緒に食べてくれて、最後にようやくリオ様が口にしてくれた。「なんで僕が貰ったお礼の品なのに、僕が一番最後に口にするんだ」と盛大に文句をいうリオ様が可愛くてつい笑ってしまったら、いつの間にかそこにいる皆で笑い出していた。

 そうして。私は遠い存在でしかなかった王子様の隣で、王子様の笑顔を見つめることができるようになった。

 蕩けるような綺麗な笑顔。

 最初の頃の少し寂し気な笑顔も綺麗だったけれど、最近の笑顔はちょっとというかかなり違うと思う。本当に楽しそうに笑ってくれるので、嬉しい。

「リィズベリ嬢と一緒にいるようになってリオ様は変わった」とパニエル様にも言って貰えた。最初はずっと苦い顔をしていたクレイヴン様も、いつしか優しいお顔を見せてくれるようにもなった。

 王子様の笑顔から寂しさを消したのが本当に私なら、とても嬉しい。


 だから。誰に何を言われても気にしなかった。

『王太子に宰相嫡男に騎士団長の嫡男。たかが男爵令嬢が上位貴族を侍らせて』『悪女』『きっと身体を使って墜としたのよ』『毒婦』『王太子殿下にはフリーディア様という素晴らしい婚約者がいるのに』

 そう。婚約者のフリーディア・リスター公爵令嬢はとても美しく、才媛として名高い素晴らしい御方だ。

 私の様な男爵令嬢とは言葉通り格が違う。同じ貴族令嬢でしょ、なんて口が裂けても言えない。

 でも。貴族学院に通っている間だけのことだから。お傍で笑顔を見ていられるのもリオ様が卒業されるまでの4か月ほどのことだ。だから。

 その間だけでも、ううん、リオ様の気が変わるまでの間だけでもいいから、この夢のような時間を過ごさせて欲しい。

 その後は、この幸せな記憶おもいでだけを胸に生きていくから。

 そう思っていたのに。


『絶対に、リィズを僕のお嫁さんにする。約束だ』


 思い出すだけで、心がきゅっと掴まれる気がする。

 王子様の、あの笑顔。

 きっと一生。死ぬまで。

 ううん。間違いなく、死んでも私はその笑顔に囚われたままだ。

 だから。明日、そんな王子様を心の真ん中に住まわせたままの私を娶らなければならないまだ見ぬ夫に心からの謝罪を。

 ──ごめんなさい。

 心を捧げる以外なら、なんでも。出来る限りのことは、するから。


 大好きな王子様を誰かと分け合うことになる愛妾という地位を拒否した自分が二心を持つ立場を望む。そのあまりの自分の身勝手さに、今更ながら身が竦む。

 それでも。分け合うどころか王子様の愛情を、ほんの少しだけ端っこを掠め取るような生活なんて気が狂ってしまう。そんな自分であることだけは判るから。

 だから。王子様の未来を邪魔する存在にならないように。

 禿げてても、太っていても、痩せすぎだろうが、うんとうんと年上だろうが構わない。

 普通の令嬢と違って家事も一通りできるから貴族とは思えない生活だって大丈夫。

 どんな瑕疵のある相手だって、ちゃんと尽くす。

 ただ、心に王子様を住まわせることだけは許して欲しい。そう思う。願う。

 


「ごめんなさいね。明日はあなたの人生の門出なのに。こんな風に泣いてしまうなんて…」

 ひとしきり泣いた後、気丈に笑ってみせる母親の姿に父とリィズベリも笑顔で応える。

 肩を抱き合い寄り添い、頷き合う。

 明日という日が、少しでも希望あるものとなることを祈る。


「そうだ。花嫁衣装はどうしようか。今夜中に新しく作らせることはできないけれど商会の全店舗からドレスを集めて、そこから一番リィズに似合うものを選ぼうか」

 国内のみならず隣国にも店舗のあるエネス商会の全店舗からドレスを集めたらこの家に入りきるかも判らない。身体に当てて悩むだけで夜が明けてしまいそうだと笑い合う。

「私、お母様が着たドレスを着てお嫁にいきたいです」

 真っ白なアンティークレースが首元まで包み込む伝統的なウエディングドレス。

 小花が散ったようなベールもクローゼットの奥深くに大切に仕舞われているのを子供の頃に見つけて「欲しい! ちょうだい!」と騒いだ。

「『いつかお嫁に行く時にね』って、お母様に言って貰って嬉しかったの。ずっと楽しみにしていたのよ」

 その言葉に一番喜んだのは父親であるエネス男爵だった。

「あのドレスを着たマリアはとても綺麗で女神様みたいだった。いや、私にとっては今でも女神様だけどね。そうだな、あのドレスにありったけの真珠を縫い付けよう。状態を確認して痛んでいるような場所には新しいレースを取り付けよう」

 さぁ今夜は忙しくなるぞという父の声に、家族そろって笑顔で頷いた。





「時間だよ、リィズ」

 控室まで迎えに来てくれた父がそっと小さなブーケを差し出してくれた。

「お前の、花婿さんからだそうだ」

 小さな白いオレンジの花で出来たそのブーケの爽やかな香りが辺りに漂う。

「…可愛いブーケ」

 純潔を表わすその花を身に着けた花嫁は幸せになれるという。

 これからの人生を共に送ることになるパートナーからの初めての贈り物を手に、リィズベリは父の手を取った。

「善い人そうで安心したよ。幸せにおなり」

 本当は、父と母に謝りたかった。

 このような不本意な婚姻しか結べなかったことも。

 貴族学院も中退することになるだろう。そんな不名誉な娘として、父のこれからの仕事にも影響がでるかもしれないことも。

 自慢の娘になれなかったと謝ったら却って悲しませてしまいそうで口に出来なかったけれど。

 父の手を取り歩くのも、これが最後になるかもしれない。

 だから。笑顔でバージンロードを歩いていった。



 そうして。町のちいさな教会で、歩いていった先で待っていた人は──


「リィズ、綺麗だ。とっても」

「…りお、さま?」

 わたしの、王子様。

「リィズをお嫁さんにするっていう約束は守れたよ。

 でも、それだけしか守れなかったけど」

 リオ様は、恥ずかしそうにそう言った。


「王太子じゃなくなっちゃったんだけど…、僕が、平民でも…。

 それでも、リィズは僕のお嫁さんになってくれるかな?」


 そんなの当たり前すぎる。

 でも、言葉なんかでなくて。

 ただひたすら。何度も何度も頷いて。


 私は、私の王子様の胸に飛び込んだ。




****



 その姿に、拍手が一斉に沸く。

「リオざま、やりまじだでぇぇぇ!!!」

「リオノール様、おめでとうございます」

 きらきらと光り輝きながら天井から沢山のはなびらが降ってくる。

 それは神からの祝福のように二人に降り注いだ。

 涙声の濁声で鼻水までずるずるさせながら祝福したのはベン・パニエル、そんなベンに呆れながらハンカチを差し出しつつお祝いを言ってくれたのは勿論ジェフリー・クレイヴンだ。

 更に、後ろから国王と王妃、クレイヴン宰相、パニエル騎士団長達だけでなくお城のお仕着せを来た侍女侍従たちまでもが涙を流しながら揃って拍手と声援を贈っていた。

 それは、幼い頃からリオノールの傍で仕えていた者達であった。いつからかたった一つ以外の表情を取ることの無くなった主人をそれでも慕い支えてきた人達。

 街のちいさな教会の、どこに隠れていたのかと思うほど人々の笑顔と祝福で溢れていた。


「父上に御義母上に宰相たちまで。王太子を下ろされた僕などの結婚式に参列しては駄目ですよ?」

 にやりと笑ったリオノールが愛しそうに花嫁を抱き寄せる。

 その笑顔はリィズベリの知っているどのリオノールの笑顔とも違っていたけれど、思わず一緒になって笑顔になってしまうほどの輝きに満ちていた。


「リィズベリ嬢。そなたの申し出にあった()()()()()()が平民で良かったのか?」

 人々の先頭に立つ国王陛下が、じいっと目を合わせて問い掛ける。

 それに、屈託のない笑顔を浮かべた花嫁は

「はい。一番欲しかったのは、リオ様ですから」

 リオ様の妻になれるなら他はどうでもいいのですと笑う姿に、国王は素直に『負けた』と思った。

 退けられて構わない要求を混ぜ込むことで、一番通したい要求だけは呑ませる。

 基本ともいえるその交渉術に、すっかり騙され相手の要求を簡単に呑んでしまったようだ。

 苦笑いを浮かべる国王の横で笑う王妃が花嫁に声を掛けた。

「明日からの王妃教育、楽しみにしていてよ?」

「──え?」

 元々大きな瞳をこれでもかと見開いて、花嫁はフリーズしていた。

「あの…、リオ様は平民になられたのでは? あの、王太子ではなくなったと、先ほど…」

 驚愕という言葉がこれほど似あう顔はないなとか花嫁の表情じゃないなと思いながら、リオノールはくすくすと笑いながら花嫁の耳元で囁いた。

「僕は王太子じゃなくなったとは言ったけど、『平民でもいいかな』とは聞いてみただけで、平民になったとは言ってないよ?」

 ついでに王太子ではなくなったけれど、義兄上が立太子した訳じゃないしね、と笑って言われて、リィズベリは混乱の極致に陥った。


「リィズベリ・エネス男爵令嬢。これから行われる王妃教育にて結果を出し、自らの手で()()()()()()()()を手に入れよ」

 国王陛下の言葉に、その場にいた全ての人が畏まり頭を下げた。

 それはつまり。

 リィズベリが未来の王妃として認められることができれば、リオノールが王太子として返り咲けるという宣言。


「リィズベリ嬢、頑張ってくれよな! 俺はリオ様以外に仕えるつもりはないんだ」

「リィズベリ嬢、期待してますよ。リオノール様を我らが王に」

「リィズベリ嬢。よろしく頼むぞ」

「頑張ってください」「応援してます」「殿下のことを頼みます」

 人々の祝福の声が、応援する声が、ふたりへ降り注ぐ。

 次々に掛けられる声にリィズベリはなんでこんなことになったのだろうと頭を抱える。

 しかし。

「リィズ、大丈夫? 無理しないでいいからね」

 笑顔の王子様が名前を呼んで手を差し伸べてくれるなら、リィズベリはなんでもできるのだ。頑張れる。


「リオ様、あいしてます」

 愛しい人と歩む未来を手に入れた少女は、「頑張ります」と、抱き着いた。




リオ君が、強くて頭良くなり過ぎて…(白目

こんなの僕の阿呆王子サリオじゃないやいっ ><。


という訳で、リオノール君とリィズベリ嬢になりましたw

でも他のキャラも使ってるから100年後の並行世界ということかしら(謎設定

あ。魔法が使えるようになってるのはその方が書いてて楽しかったからです。


ダブルミーニングがテーマだった『悪女で毒婦の恋心。』における

1つのルートだと思って頂ければ。

全然書いてないこのラストをあの作品から読み取って欲しいと

願うのはあまりにも図々しいなぁと自分で思ったので書いてみたけど

読み返してみると、正直蛇足だなぁとw

こっちを先に読んでしまうと、

『恋心。』から平民エンドルートが消えちゃうやん ><


予約投稿で連載ってやってみたかったので成功して嬉しいデス(笑

お付き合いありがとうございましたv


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