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83 残酷な世界で笑おう。いつの日かのために

これにて一応完結とさせていただきます!!長らくお付き合いいただきありがとうございました!!これ以上進めないのでこれにて筆を置きます!

あたしは目の前の立派な衣装を着た、王冠を頭にいただく人が、なりふり構わないという調子で、頭を下げている物だから、完全に考えていたいろんな言葉を出せなくなっていた。


「この国であなたに対して行った、あまりにも非道な事を心より謝罪させていただきたい。こんなことを言うのは大変に虫のいい話と思われるかもしれないが……」


どうか、この国を救って欲しい。あなたのその豊穣の神子の力で。


あまり多くの人が居ない場所だった。でもそこは公式の場だった。それくらいは王族貴族その他を知らないあたしでも分かる事で、そこでこれだけの身なりの人が、ボロボロの服を何度も繕い直して着ている様な育ちの、完全に世界の違う生き物であるあたしにそう言う事自体が、異常だって事も、同時に、それだけこの相手が進路を絶たれている状態だって事も、わかってしまったのだ。

あたしは……何も言えなかった。その場で当意即妙な感じで、あれだこれだとは言えなかった。

でも。



あたしがうん、と頷かなかったら、この国のたくさんの人が、あたしや、あたしの大事な人達が経験している、できる限り経験したくない、飢え、と言う物を経験してしまうのだ、とだけはすぐにわかったのだ。



そもそもあたしはこの国に対して、いい印象はない。それだけは事実だけれど、だからこの国の人を全て恨むかって言われたら、恨めないというのが正直な感想だ。

そりゃあ、ルー・ウルフを探し回る中で、酷い目にはあったし、なんなら火の鳥を探す間にも命からがらってのも体験した。

でも。

この国の人の大部分から、あたしが石を投げられて忌み嫌われたってわけではないのだ。

王女様が、気に入らないからあたしに対してあれこれしようとした。それは生きる世界が違いすぎるが故の傲慢さであって、そこをいちいち恨んでいたら、どこの国でも生活なんて出来ない次元の話でもある。王族の機嫌は、あたしのような身の上の人間からすれば天災とほぼ同じ意味を持つ問題だった。

そう考えて生きてきたからだろうか、あたしは王女様くそったれ、殺してやる、という感情は湧かないままだ。

意味不明な処刑をされそうになったのはとても腹立たしいけれども、……メンツという物が王族にも貴族にも、なんならあたし達にもあるってのは知っている。

あの場面で、身なりボロボロ浮浪者寸前、そんな人間が王女様の機嫌を損ねたのに無罪放免となったら、身分制度は崩壊してしまう。

だからあれ位の事はしなくてはならなかったというのも、……かーちゃんの態度から、いやおうなく察したのだ。

かーちゃんは王族はメンツが物を言うって言う。

メンツを侮辱されたら、それで戦争になるのが王族なんだって。メンツをぶち壊しにされてヘラヘラしていたら、誰も王族に膝をつかなくなるんだって。

それがこの世界で、どれだけの問題なのかをかーちゃんが淡々と語るものだから、あたしは理解してしまった。

そう、あたしは王女様達のあれこれの思考の一端を知ってしまう事になって、……なったから、もう、めらめらと燃えるような怒りを抱けなくなったのだ。

冷めたと言う事なのかもしれないけれども。

そんな状況で、かーちゃんと共に王様に呼び出されての……この頭を下げる行為である。


「……」


あたしみたいな身の上の人間に、そうする事が、どれだけ、どれだけ屈辱なのか、を、知ってしまった今、王様ののっぴきならなさってのを理解してしまった今、あたしは嫌だと即答はできない。

ぐるぐると思考回路が回る。そこで、この場にどうしてかいる、アスランが口を開いた。


「陛下、この国の作物が不作になったら北の国への輸出はどうなるんですかね」


「!!」


この麦豊かな国から、あたしの故郷に作物が輸出されているとか考えもしなかったけれども、王様が難しい顔で口を開いた。


「この国の民を飢えさせない事が最優先になるのだから……北の国に売れる物は減るだろう」


「そうですか。北の国はとても厳しい世界。この国から作物が入らなくなるとなったら……どれだけの人々が飢えるでしょうね」


……あたしは、あたしが持ってしまったというか、ねーちゃんが死んでしまったから背負ってしまったらしい豊饒の力とやらを、ここで使わなかったら、この国だけでなくて、大事な町の皆すら、飢えで苦しめる結果になるのだと、アスランの言葉から理解した。

あたしの手の中に、あたしひとりでは抱えきれないほどのたくさんの人の、命が、左右される運命が、乗っている。

ぞっとした。そんなたくさんの物は、重たい物は、手の中に乗せられない。

でも。


……あたしが、やれば、これ以上皆を、お腹がすいたと苦しめる事にならなくて済むのだろうか。

王様は頭を下げたまま動かない。かーちゃんはあたしがあたしの道を選ぶ様にと沈黙を保っている。

アスランは……あたしを説得するという方向の言動はとらない。それがアスランの、ねーちゃんを死なせてしまったという奇跡使いの誠意だ。


言葉を探して唇を舐める。……言いたい事を言っても良いだろうか、今のあたしにはそれが許されている。


「あたしは。この国の危機とか、そんなの、はっきりいってどうだっていい」


「やはり、あんな事をした私達を許すという事にはならないか……」


王様が落胆した声で言うのを無視して、あたしは言葉を続けた。


「あたしは、死にそうなほどの寒さの中で、かろうじて食べられる、塩味すらほぼ無いキャベツのスープが、どれだけ心を救うのかを知っている」


「……?」


あたしが何を言い出すんだろうという空気の中、言葉を続ける。


「真冬の極寒の中で、薪も満足に手に入れられないような閉じ込められる雪の世界で、少しだけでもお腹を膨らませられる事が、どれだけ明日への力になるのかも知っている」


あたしの生きてきた世界はそれだけ冬の厳しい寒さなのだ。

そして。


「その冬が終わって、世界が緑になって、やっと食べられる春のごちそうが、どれだけ、どれだけ泣けるほどうれしいのかも知っている」


だから。


「だからあたしは、国を救うっていう事はしない。あたしがやるのは、国じゃなくて、人を救う事がいい。だからあたしは、王様、国のために大地を浄化するんじゃなくて、これ以上お腹をすかして苦しい思いをする人を増やさないために、大地を浄化する役割を受ける」


王様が弾かれたように顔を上げた。あたしをじっと見る王様は、泣き出しそうにも見えるけれども、それがどれだけの本心かは分からなかった。


「あたしは」


あたしは大きく深呼吸して、こう告げた。


「話のなかのルウィみたいな、豊穣の神子にはなれないと思う。えらそうにする方法知らないし。でも、手を伸ばせば届くような、そんな人達の手助けになるために、……あたしがやれるのだというそれを受ける事にする」


「おお……やってくださるのか……」


王様が、これ以上無いという安堵の息を漏らした。


「……あたしは豊饒の力とやらの使い方なんて知らない。でも、ルウィのまねごとは形ばかりは出来るだろう。だから、やってみて、それが成功したら、それを続けていくだけ。……それでいい、王様」


「もちろんだとも、ああ、ありがとう、ありがとう、ありがとう……!!」


王様は顔を覆った。……それだけ、大地が弱っている事は重圧だったんじゃないかな、とさすがのあたしでも分かった。



「あなたには、その役割のために便利な称号と肩書きを作らせていただきます。……ああ、これで百年は、この国の民を飢えさせなくて済むようになる」


それは百年、この国が延命される事を意味していた。






「ルー・ウルフ、あなたは北の国に戻るんでしょ」


「そうなる。……離ればなれになるのは、とてもさみしいけれども、お互いに、お互いの出来る精一杯を、足のついた場所でやっていこう」


「かーちゃんあれこれすごいけど、人脈何なのあれ」


「ヴィザンチウスさんは、この国でも学んでいたというから、その時に培った物だろう。とてもすごいとしか言いようが無い」


「王女様にめっちゃ睨まれてるけど、大丈夫かなあたし」


「君を害したら、王女様の方が王籍を外されて一巻の終わりだと、さすがに分かっているだろうし、それが分からないならば、もうどこかに嫁がされるだけだろうな」


「……さみしくなるね」


あたしはルー・ウルフの手を握った。こうやって手を握るのももう終わりかもしれないけれども。


「ヴィ。君には何度、助けてもらったか、もう数え切れないと思っているんだ。……これから私達は離ればなれで、地面に足を付けて歩いて行く。でも、だから、その……大地はどこかでは必ずつながっているから、本当の意味での離ればなれじゃないんだ」


「うわ、どこでそんな口説き文句じみた事覚えたの」


あたしはけたけたと笑った。笑いながら涙が出てきて、それをルー・ウルフが不器用そうに拭いてくる。手つきがあぶなっかしい。


「運命が交差すれば、私と君は、また会える。……ヴラドレン兄上が私にそれを許せば、会いに来る事ももしかしたら出来るかもしれない。だから、……永遠のさようならじゃないから」


そう言って、何と、ルー・ウルフはあたしを抱きしめた。


「君に私の願える最大の幸福を願わせて欲しい。……奇跡使いみたいな、本当の奇跡は操れないし、ちょっと炎が使えるだけの、妙な生き物だけれど。幸せを願う事くらいは自由だろう」


ルー・ウルフの腕の中は、冬でも夏でもほこほこと暖かい。火の鳥の血筋だという温かさなのかもしれない。

その温かさは、あたしの体の中に力を貸してくれるようだった。


「……じゃあ、次に会った時には、ねーちゃんの冥福を祈ることにしよう。……まだねーちゃんが死んだって信じられないけれど、ねーちゃんがもう、自分の体質で苦しまないって事だけは、よかったねって、きっと言わなくちゃいけない事だ」


「死んで欲しいと思った事は一度も無い人だけれど……そうだな、冥福を二人で祈ろう」


「じゃあ、また会おう、ルー・ウルフ」


「ああ、また会いましょう、ヴィ」


抱擁が解かれる。あたし達はお互いの顔をじっと見て、ぐっと拳を突き出してぶつけ合わせて、背を向けた。

あたしにやる事があるように、ルー・ウルフの方にも、北の国でたくさんやるべき事があるだろう。




あたしは地面に足を付けてどこまでも歩いて生きていく。


ルー・ウルフもまた、たとえ飛べてもこの世界で生きていく。



残酷な世界を笑おう。明日を笑うように。



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