アリアードナ・ガレリア・フリンツ①
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よろしくお願いします。
闇のように暗い夜空を、小さくも力強い光を放つ星々が夜空を埋め尽くし、その綺羅びやかな夜空は、星の海の様にも見える。
その星の海の光に照らされながら、一人の妖精と見紛う程の美しさの線の細い少女が、一糸まとわぬ肢体を水で濡らす。
パシャリ、と、少女は湖に移る星を掬い、身体にかける。
何度かそれを続けると、少女は湖の中へと足を踏み入れて行く。
「………」
ぷかぷかと、湖に浮かぶ少女は、紫の髪を湖に広げ、星の海を見上げる。
しばらくすると、少女は湖から上がり、整地された石畳みを歩く。
少し歩いたところで、4人の白い衣服を纏った女性達が、少女の身体を拭き、衣服を着せていく。
最後に、金で作られた三日月と星を象った物を世界樹の枝に着けられた杖を手に取ると、迷い無く、星明かりで照らされた道に歩を進める。
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「やっってくれたな、ウィザードめ!」
光を発する照明具で照らされた室内に、ドンッと机を叩く音が響く。
「だが、聖人の称号だけは決して譲らんぞっ……!」
奥歯を力一杯噛みしめる男の耳は人族のものより、長く、尖っている。
これは、エルフ族の特徴であり、この男がエルフ族である事を証明する。
男の名前は、イリーフィオス・ガレリア・ヒューストン。
エルフ族が住む『グレリア大陸』のほぼ中央にある、ガレリア大森林に住む、アステール教の枢機卿の一人であり、アステール教の中でも、深い信仰を持つ者であり、時に行き過ぎた行為をしてしまう事がある男だ。
男の中では、アステール教以外の宗教は、全ては異端であり、存在してはならないと考えている。
それと同時に、エルフはどの種族よりも優れた存在であると信じ切っている。
その自信は、エルフ族は、他種族よりも優れた魔法が使える事からきている。
魔法とは、世界の神秘であり、魔法に長けたエルフ族は、最も神に近い存在だと信じているのだ。
実際に、エルフ族は、どの種族よりも魔法に長けていた。
そして、魔王との戦いが終わり、各種族が今のような関係になった数百年前に、獣人族の王の発言から始まった、世界一の存在を決める戦いに勝利したエルフに、世界一の魔法使いとしての名誉として、『ウィザード』の称号を与えられた。
それから10数年前まで、『ウィザード』の称号を独占していたエルフ族であったが、突如現れた、災害級のドラゴンを退治した人族の魔法使いにこそ、ウィザードの称号が相応しいのでは?と、話が出始め、その結果、ウィザードの称号を掛けての戦いが行われた。
そして、勝負の結果は、人族の魔法使い、アルフレッドの勝利に終わり、『ウィザード』の称号は、人族に渡ってしまった。
その結果に、エルフ族達は、多くの者は、嘆き、力ある者は、『ウィザード』の称号を取り返さんと、アルフレッドに、勝負を挑む。
しかし、悉く挑んだエルフ達は敗北し、エルフ達が敗北する度に、アルフレッドの名声は上がっていった。
そして、誰一人敵うことの無かった、アルフレッドに、一人の人族が勝利し、またしても人族に『ウィザード』の称号が渡ってしまった。
そして、今度のウィザードは、アルフレッドよりもさらに強く、先の戦いを見ていたエルフ達は、あまりの次元の違いから、『ウィザード』の称号を取り返す事よりも、素直に賛辞を述べる者が増え始めてきたのだ。
イリーフィオスも、先の戦いを見、歯がゆいが、あれ程の力の差を見せつけられてなお、『ウィザード』の称号を取り返さんと、躍起になる事は無くなった。
だが、その代わりに、『聖人』の称号だけは、決して譲らないと、予定を数十年早めて、一人の『聖人』の資格を持つ少女を、正式に『聖人』認定し、『聖女』として、世界に公表することにしたのだ。
もちろん、エルフとしては、まだ赤子と言える程の年齢の少女を、『聖人』認定する等、早いとの声は幾つもあったが、己が持つ権力と『聖人』という希望を世界に与えるという名目で、なんとかゴリ押しして通したのだ。
イリーフィオスが、憎々しげに、過去を振り返っていると、扉をノックする音が響く。
「イリーフィオス様、儀式の準備が完了しました。既に王達も集まっております」
扉の向こうから、自分担当の世話役の信者が、そう伝えると、イリーフィオスは、グラスに注がれた葡萄酒を一息で飲み干すと、席を立つ。
「これで、エルフ族の威信を絶対に取り戻してやる……っ!」
イリーフォスが部屋を出ると、自動的に、照明の魔道具が光を消し、窓から夜空の光が部屋を差し込む。
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ガレリア王国、ガレリア大森林の中央に存在し、世界樹を護る為に存在すると共に、アステール神がかつてこの地で過ごしたと伝えられている土地である。
その王城内にて、先日『聖人』認定された紫の髪の少女が、謁見の間にて、王からこれから自身が成すべき責務を託される。
「それでは、アリアードナ・ガレリア・フリンツよ。此度『聖人』認定をされたお主は、各大陸に周り、『聖人』たる証を示すことにより、正式に、世界が認める『聖人』となることを命ずる」
煌めく金髪に、まだ30代前半と言える容姿の、エルフの王が、己にひざまずく、紫髪のエルフの少女に、エルフ族の矜持を掛けた責務を与える。
「たしかに、その責務、請け合いました」
少女の表情と声色は硬いが、確かな意思を感じる声で、王に言葉を返す。
「それでは、まずは人族の大陸。アメリア大陸に向かい、王都にて、『聖人』たる証を示して来い。話は既に済ましてある。飛空艇と護衛の準備も既に済んでいる。これから、飛空場に向かい、旅立つがよい」
「畏まりました。アステール神と精霊の導きあらんことを」
「アステール神と精霊の導きあらんことを」
少女は立ち上がり、両手を重ねて、祈るように目を閉じると、王もそれに続く。
そして、少女が目を開いた所に、扉が大きな音を立てて開かれる。
「ちょっと待ってお父様!私もアリアと一緒に行きます!」
突如現れた闖入者に、謁見の間にいる全て者は驚き、闖入者に、視線を向ける。
「エリザヴェート!?」
「エリザ!?」
エリザヴェートと呼ばれた少女は、動きやすいようにと、砂金のように美しい金色の髪を、左右に二箇所づつ結わえ、全くと言っていい程の起伏の内肢体に、力強いつり目がちな赤い瞳をしていた。
「エリザ、一体どうして……」
「そんなの、アリアが心配だからに決まってるからじゃない!」
対して、アリアと呼ばれた少女は、長い紫の髪を後頭部の高い位置で結び、所謂ポニーテールにしており、エリザに比べ、背丈はさほど変わらないが、多少の起伏のある肢体をしており、タレ目がちで、見るものを安心させるようなアメジスト色の瞳をしている。
「エリザヴェート、これは遊びではないのだ。生まれて間もないお前には、まだこの国から出すことはできん」
「それだったらアリアも一緒じゃない!確かに私はまだ17年しか生きてないし、成人には、あと83年もあるけど、それでも、この17年間で多くの事ができるようになったわ!第一、私とアリア程、精霊達に愛されている者はいないわ!魔法だって、騎士団とも遜色は無いし、弓矢剣術だって!」
ズカズカと王に向かって歩きながら、エリザは捲し立てながら王の前へと詰め寄る。
「エリザヴェート、確かにお前達二人は、誰よりも精霊達に愛されていることは認めるが、魔法や剣術等は、騎士団の中でも下級兵程度のものだろう。第一、お前はこの国の王女であり、この先、この国を治めるかもしれぬ王女なのだぞ、そのような勝手を許すわけにはいかん」
詰め寄る王女に、王は一歩も引かず、王としての威厳を持って、娘に接する。
「そんなの、お兄様やお姉様達に任せればいいじゃない!どうせ私は18番目の子で、私が女王になる可能性なんて無いに等しいじゃない!それにアリアだって、私といたほうがいいに決まってるわ!でしょ、アリア!」
突如話を振られたアリアは、困惑し、辺りをキョロキョロとしながら、最終的に、エリザと王を交互に見比べた後に、エリザの言葉を肯定する。
「う、うん。私もできれば、エリザと一緒のほうが安心する……かな」
アリアの言葉を聞き、うんうんとエリザは頷くと、王に向かって、言葉を投げる。
「ほら、アリアもこう言ってるじゃない!見ず知らずの者達の護衛よりも親友の私が居たほうが絶対にいいわ!」
見ず知らずの護衛と言っても、エルフ族の中でも選りすぐりの精鋭達なのだが……、王はもう諦めたかのように、大きく溜息をつく。
「……はぁ、もう分かった。エリザヴェート、お前の同行を認める」
「本当!?やったー!アリア、これで一緒に行けるわね!」
「えっ、きゃっ!エリザ、痛いよ!」
同行が認められると同時に、エリザは嬉しさの余り、アリアに力いっぱい抱きつく。
「だが、エリザヴェートよ。お前は護衛としてではなく、護衛対象としての同行だ。お前達の行動には常に護衛が付くことを忘れるな」
「そんなの、アリアと一緒ならどうだって良いわ!さぁ、アリア!早く行きましょう!」
「う、うん。それでは、王様、行ってまいります」
エリザに引きずられるような形で手を引かれながれも、なんとか王に、別れの挨拶をする。
王は軽い頭痛を覚えながら、離れていく二人を見送ると、玉座に深く腰をかける。
「……はぁ。どうしてあんなにお転婆になってしまったのだろうか……」
その小さな呟きに答える者は誰もいなかった。
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あれから飛空艇で、アメリア大陸に向かってから2週間。ついに見えてきた王都に、エリザとアリアは興奮を隠せずにいる。
「見て、アリア!王都が見えてきたわ!凄い広さ!うちの国の倍はありそうね!」
「本当!人も沢山いるし、とても賑やかで楽しそう!」
飛空艇のデッキから、王都を指差しながらはしゃぐエリザに、アリアも一緒になってはしゃぐ。
「王女様達!そろそろ着陸しますので、危険ですので室内に戻って下さい!」
近くに控えていた護衛の言葉を受けて、二人は今の光景を名残惜しそうにしながらも、室内へと戻る。
そして、そのまま飛空艇は、王都の飛空場に着陸する。
しばしの、乗組員や護衛達の、飛空場の人間とのやりとりが終わった後、二人はアメリア飛空場へと、降り立ち、鑑定スキルを持つ職員の審査を受けてから、外へと歩を進める。
「これがアメリア王国なのね……」
「うん、本当に凄く人が多いね……」
エルフ族は長命であるが、子を多く成す事は少なく、人口は他種族の中で一番少ない為、一番人口の多いガレリア王国でも、この王都の3分の1ほどの人口しかいない。
「でも、精霊達の姿がとても少ないわ」
「そうだね……」
エルフは、精霊と共に生きている為、王都の精霊の少なさに、二人は寂しさを感じてしまう。
そんな中、辺りを見回していたアリアは、一柱の精霊を見つけ、思わずそちらに足を進めてしまう。
(あ、精霊様……)
だが、一人での行動はいけないと思い、立ち止まろうとした所、飛空場に行き交う多くの人達の中に、手を引かれ、そのまま飛空場を行き交う人達の流れに巻き込まえれ、あっという間にエリザ達と離れ離れになってしまう。
「そ、そんな……、も、戻らなきゃ!」
随分と人の波に流された後、飛空場の外へと出てしまったアリアは、慌ててエリザ達の元へと戻ろうとするが、突如背後から無機質な声を掛けられる。
「動くな、下手に動けば殺す」
「……っ!」
背後から掛けれられた声から、かろうじて声の主は男であるということだけが分かった。
そして、その男が自身の背中にナイフを突き立てているという事も、チクリと少しだけ刺された事によって察する。
「声も出すな。こちらを振り向かず、そのまま真っ直ぐ歩け。少しでも変な動きをしたら殺す」
行き成りの事で、アリアの頭の中は真っ白になり、心は恐怖で支配され、手足が震えてしまい、声を出す事も足を踏み出す事もできないでいると、男がナイフをもう一度背中に軽く刺す。
「ッ!」
「さっさと歩け」
先程のナイフで刺される事によって、恐怖を増大させながらも、言うことを聞かなければどうなるかを考えると、なんとか足を動かす事ができた。
そして、そのまま男の言うとおり、アリアは道を進んでいくと、近くの路地へ入る様に言われる。
路地に入ると、深くフードをかぶった人物が二人いた。
「そのまま進むんだ」
嫌です。行きたくない。
心の中で絶叫しながらも、目尻に涙を浮かべながら、私は二人の元へと足を進める。
二人の近くまでよると、即座に手足を縛られ、頭に布を被せられると、体を持ち上げられる。
このままでは、自分は絶対に良くない事にあう。
それが分かっていながら、恐怖で声を出すことも出来ず、ただ、心の中で、親友への助けを求める事しかできずにいる。
(エリザ、助けて!)
ついに堪えきれず、涙が流れ初めた頃、一人の男の声が聞こえた。
「全く、あいつがあれだけ頑張ってるってのに、未だにこういう事は無くならねーよな」
突如の闖入者に、自分を拉致しようとしていた男達の驚きの声を上げる。
「だ、誰だ貴様は!」
それに対して、男は軽い感じで答える。
「俺?俺は、ただの通行人だよ」
その答えに、男の一人が、短く仲間の一人に声をかける。
「……始末するぞ」
その言葉を聞いて、私は声にならい声を上げる。
(だ、駄目!逃げて!)
自身のせいで、見ず知らずの人が死ぬ。
それは、自分が死ぬよりも恐ろしい事だ。
だが、その心配は結局は、無駄な事であった。
「グギャ!」
「うぐっ!」
ドサッ!ドサッ!とほぼ同時に聞こえた二人の男の苦痛の声と倒れる音を聞き、布をかぶらされているアリアは、状況を把握する事ができず、混乱してしまう。
「っな……くそっ!」
だが、自分を担ぐ男の反応からして、仲間の二人が、突如現れた男によって倒された事は、なんとなく察する事ができた。
だが、それと同時に、自分を担いでいる男が、自分を担いだまま走り出し初める。
「なるほど、仲間より、任務を遂行する方を選ぶのか、中々仕込まれたやつらみたいだな」
そんな声を聞くと同時に、自分を担いでいる男の足が、ふいに止まる。
「なっ!あ、足が!足が!」
男は必死に足を動かそうとするが、両足を地面と一緒に氷漬けにされた足は、一歩たりとも動く事を許されない。
「はいはい、もうお前もおねんねしましょうね」
「うぐっ!」
いつの間にか近づいていた男が、自分を担ぐ男を攻撃したらしく、私は一瞬空中に浮かぶのを感じるとすぐに落下し始めると同時に、軽い衝撃と共に、男に受け止められるのを感じる。
そして、男は私の頭に被されていた布を取ると、
「もう安心だ。悪い奴らならやっつけてやったよ」
男は、黒い髪に黒い瞳をしており、私を安心させるためか、笑顔で声をかける。
何もかもが突然の事で、未だに頭の中は真っ白だけれど、これだけは言わないといけないと思い、言葉を紡ぐ。
「あ、あの……。助けてくれて、ありがとうございました」
それを聞いた男は、
「どういたしまして」
と、笑顔で答えた。
それから、男は、私の手足を縛っているロープをナイフで切ると、私の体に怪我は無いかと聞いてくる。
「だ、大丈夫です」
「そう?それじゃあ、ちょっとあいつら縛ってくるから待ってて」
本当は、手足を縛られていた所が少しヒリヒリするが、この程度の事を言うのが恥ずかしく感じ、言葉にできずにいると、男は、どこからか出したロープで、私を拉致しようとした3人を見たことの無い不思議な模様の巻き方をしていく。そして、その後に、紙に何かを描くと、3人のうちの一人に貼り付ける。
「ふぅ、これで完了っと」
「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!わ、私は、アリアードナ・ガレリア・フリンツと申します!この度は助けて頂き本当に有難うございます!なんとお礼を言ったらいいか……」
私が詰め寄る様に近づき、男に礼を言うと、男は少し驚いた顔をする。
そして、自分がどれほど男と近づいてしまっているのかと気づくと、急に恥ずかしくなって、数歩後ろに距離を取る。
「す、すみません……私、その、少し混乱してしまって……」
顔を赤くしながら、私は、男に頭を下げる。
「いいよ、別に気にしてないから。俺の名前は、ナナシ。気軽にナナシって呼んでくれていいよ」
息がかかるほどの距離まで近づいてしまったと言うのに、ナナシと名乗る男は、特に気にした素振りも無く答えるので、自分だけが意識しすぎだと思って、さらに顔を赤くしてしまう。
「えっと、ナナシ……さん。それなら、私の事はアリアと呼んでください。親しい友人は、そう呼ぶので……」
「そっか、それじゃあ、アリア。君はどうしてこんな事に?」
「………」
ナナシが、自分の事を、アリアと呼んだ瞬間、何故か胸が激しく鳴ったのを感じた。
「アリア?」
「……っは!だ、大丈夫です!少しぼーっとしてしまっただけで!」
「?まぁ、こんな事があったばっかりだし、混乱してるんだろう。とりあえず、場所を変えて、一旦落ちつこうか」
「あっ、は、はい」
まただ、また、アリアと言われた瞬間、私の胸は高鳴った。
そして、「こっちだよ」と、言って、先に進む彼の背を追いかけながら、先程から鳴り止まない胸の鼓動に、私はただただ混乱するばかりだ。
彼は、私の歩幅に合わせるようにゆっくりと歩いており、私は彼の少し後ろを歩いているのだが、時たま、彼がこちらを確認するように振り返り、彼の顔を見ると、心臓が一瞬止まってしまう。
一体私はどうしてしまったんだろう。
更新遅くなりました。
理由は、働き出したからです。




