切り取られた時間の中で ~それぞれの再生~
時間が、戻った。今はいつなのだろう。カレンダーを見ると、どうやら流歌と外食をした翌日らしい。私が殺される、およそ3週間前。 「3週間、か・・・。思ったより効力はないね。もっと戻れると思ったんだけど。」 せめて、始まりの日までは戻りたかった。あのおかしな者達に、囲まれた日まで。 「あそこまで戻れば、あいつらから聞きだせるのに。まあ、いいか。」 時間は3週間もある。その間に、調べておきたいことがある。 「葛葉、妖夜。あれがどうして私を恨むのか。死ぬ直前に言われた気もするけど、記憶にノイズが入っているから、思い出そうとしてもダメ。」 3週間か。調べ上げる時間はあるだろうが、妖夜を返り討ちにする方法を考える時間は、とてもない。「だとすると、調べてしっかり記憶に残しておくのが一番いいかな。」 輪廻のまじないは、1度しか使えない。さらに、死ぬ回数を重ねていくごとに、戻せる時間も減っていく。最悪、戻ったら死ぬ直前だった、というのもあるのだ。 「書庫に行こう。あそこなら、家計図も術の心得もあるはず。」 切り取られた3週間の時間の中、私は動き出した。 「・・・あれ?私、死んだはず・・・。」 それなのに、今、目が開かれている。身体も透けたりしていない。となると、あれは夢だったのだろうか。 「ううん、夢なんかじゃない。あれは実際起こった。あんな痛みのある夢、聞いたことがない。」 しかし、何故生きているのだろう。死んだ人間は生き返らないはずだ。 「あ、カレンダーが、まだ12月だ。時間が戻ったのかな?」 でも、どうして時間が戻ったのだろう。 「・・・誰かに聞こう。あそこにいたのは、確か・・・。」 日下遙。菅原慎玖朗。川崎刹那。日下流歌。上条雪花。上条雪斗。 「あと・・・誰だっけ。思い出せない。」 とりあえず、まずはその6人の中で、知っている人に話をしてみることにした。 「あ・・・僕、生きてる。そっか、あの時遙が時間を戻したから・・・。」 自分の口から、何げなく出た、その言葉。 それに対する違和感に気づくのに、10秒ほど時間がかかった。 「あれ?何で、遙だって・・・そもそも、何で知ってるんだ? 時間が戻ったなんて・・・。」 ここに、カレンダーはない。そして僕は、ベッドに横たわっている。 菅原慎玖朗が壊れ始めたのは、この時からだ。 「お目覚めですか、桜夜様。」 「麗・・・?私は、死んだんじゃ・・・?」 麗は侍女の名前だ。10年ほど前から働いている。 「夢でも見られたのですか?」 「いえ、何でもないわ。水を持ってきて。」 「かしこまりました。では失礼いたします。」 私は1度死んだ。それは確かだ。あの時、誰かに後ろから刺されたのだ。誰かは分からなかった。時間が戻ったようだ。しかし、死ぬ直前より前の記憶がない。 桜夜にはこの時から、さまざまな者に対する疑惑が、心の中に芽生え始めていた。