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届かなかった名前を、今、呼ぶ  作者: 朧月 華


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第73話 独占の視線:カフェテリアの境界線

キャンパスの空気は、春の陽光に満ちていた。昼休み、カフェテリアは学生たちの笑い声と、ランチトレイがぶつかる小さな音であふれている。その中で、私は静かに座っていた。隣には、今や恋人となった星野 翔。


私たちの関係が公になったのは、告白から数週間前のことだ。それ以来、Lineのやり取りは甘く、ほとんど毎晩「おやすみ」と「愛してる」で終わる。それでも、彼の存在感は昼間も消えることはなく、どこにいても私を追いかける視線がある。


今日も、彼は私の隣に座りながら、私のランチをちらりと覗き込み、微笑む。


「そのサラダ、新しいやつ? 美味しい?」

「うん、ちょっとドレッシング変えてみたんだ」

私はスマートに答えながら、ふと彼の目を見た。そこには、以前と同じ――いや、より強い独占欲と愛情が混ざった光があった。


私は心の中で微笑む。彼の支配欲は、私への愛の、最も正直なバロメーターだった。私は彼の鎖になるつもりはないけれど、彼の光を支える土台になると決めている。だからこそ、彼の視線に安心と微かな緊張を感じることができるのだ。


ランチの合間、Lineの通知が鳴る。星野 翔からだ。


> 「今日も授業頑張れよ。終わったら、一緒に図書館で勉強する?」


私はすぐに返す。


> 「うん、楽しみにしてる」


彼は返事を待たずに、私の手をそっと握る。その手の温もりは、言葉以上に安心感をくれる。彼の独占欲は、私を世界で一番、特別な存在にしてくれる。


午後の講義が終わり、私たちは図書館へ向かう途中、キャンパス内で新しい友人たちとすれ違った。特に男子学生の存在に、星野 翔の表情が一瞬曇るのを感じる。


「誰と話してた?」

彼の声は低く、けれど攻撃的ではない。微かな嫉妬が滲んでいるのがわかる。私はにっこり微笑む。


「ただ、クラスメイトよ。悠斗くんじゃないから安心して」


その名前を出すと、彼の眉がわずかに上がり、口元が緩む。私は心の中で小さく笑った。悠斗との関係は、もう公然と距離を置くことに決めていた。彼の不安を解消することも、私にとっての愛の一部だからだ。


図書館に入ると、星野 翔は私の隣に腰を下ろし、そっと私のノートを覗き込む。私は集中して講義の復習を始めるが、時折、彼の視線を感じる。それは支配欲ではなく、独占欲の現れだった。私が他の誰かに触れる前に、まず彼に確認されるような、そんな微妙な感覚。


午後の静かな時間、二人きりで過ごすだけで、世界は穏やかに回る。Lineや電話のやり取りも、昼の視線も、すべてが私たちの恋を形作っていた。夜のLineと、昼の彼の視線で構築された小さな幸せ。


時折、彼は私の手を握りながら、真剣な顔で言う。


「俺は、遥が他の誰かに取られるのは耐えられない」


私は微笑んで答える。


「私は、誰にも渡さない。でも、私の生活は私のもの」


彼は少し口元を歪めながらも、私の意思を尊重してくれる。彼の支配を完全に受け入れるつもりはない。けれど、彼の独占欲と焦燥を愛おしく感じる。それは、彼が私をどれだけ大切に思っているかの証明なのだから。


夕暮れ時、図書館を出てキャンパスを歩く。星野 翔は私の腕にそっと手を回し、歩幅を合わせる。小さな沈黙の中で、互いの呼吸を感じる。彼の独占欲は、かすかな嫉妬や焦燥として表れるけれど、それもまた、私への愛なのだと理解できる。


「遥」

彼がそっと呼ぶ声に、私は顔を上げる。彼の目には、昼間の陽光のような温かさと、私だけに向けられた強い光が宿っている。私は心の中で深く頷く。


「私も、あなたの光に応えたい」


私たちの恋は、七年越しの片想いから始まり、Lineの文字と昼間の視線で日々を紡いでいる。安定でも激情でもない、この微妙なバランスこそが、今の私たちの愛の形。星野 翔の焦燥と独占欲、私の自立と受容。そのすべてが混ざり合って、私たちだけの世界を作り上げていた。


キャンパスのざわめきの中で、彼の手は私の手をしっかりと握る。私の心は静かに震え、でも確かに満たされている。彼の支配はもう必要ない。今、私たちは互いに支え合い、互いの光を確認するだけでいい。


「遥、今日も一緒に帰ろう」

「うん、行こう」


夕陽に照らされたキャンパスを歩きながら、私は心の奥で静かに微笑む。彼の嫉妬や独占欲は、私を特別にしてくれる魔法のようなもの。そして私は、その愛を、静かに、確かに受け止めているのだった。

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