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第2話 朝食に重いとか感じない



「生簀か……アプルソン子爵領にある川はそんなに大きなものじゃないからな……」


 朝食の焼きサバ定食を食べながら、バンガゴンガが難しい顔をする。


 以前、帝国にもエインヘリア式の生簀を導入してみてはどうだろうかと思ったことがあり、フィリアに聞いてみたところ可能であれば是非と言われたので今度はバンガゴンガに確認をしてみたのだが……あまり芳しくはなさそうだな。


「ふむ。ならばため池を作るか?」


「ため池といってもな……実験的に生簀を作る訳ではなく、本格的に収穫するための生簀だろう?ため池でやるには規模がデカすぎるんじゃないか?」


「ため池を作る事自体は、土地さえあれば可能だが……維持がきついか?」


「ため池はゴミも溜まり易そうだし、海でやるよりも管理は大変かもしれんな」


「なるほど」


 確かにアプルソン子爵領は森の中だし、落ち葉とかガンガンため池に入りそうだ。


 葉っぱや木が腐ることもあるだろうし……清掃はかなり大事だろう。


 手間もかかるし、水質もけして良いとは言い難い……魚自体は普通に採れるだろうけど、汚い場所で採れたものを帝都に送るってのは……アプルソン子爵は真面目な人みたいだし、許容しないだろうな。


 ってことは、清掃等のごみ対策や水質管理が結構大変になるわけで……ただでさえ農場がどんどん拡大している現状、この上更に手間のかかる漁業を始めるのは負担が大きすぎるか。


「やはり湖か海を領土に持つところでやった方が良さそうだな」


「自領で消費するだけならため池でもいいだろうがな……」


 バンガゴンガがそういうのであれば、アプルソン子爵領を使うのは無理ってことだろう……しかし、帝国はうちと違って海を使って大々的にうちの生簀を使うってのは、現状では難しいしな。


 アプルソン子爵領が帝国におけるエインヘリア式農業の導入地なのは、秘境とも呼べるような立地故だ。


 険しい山と深い森に囲まれた陸の孤島……防諜面でかなり恵まれた土地で、領内に辿り着くことだけでも難しい。


 故に人の出入りがなく、異物が入ってくれば即座にわかる。


 何かを秘密裏にやりたいときは非常に便利な土地だよね……でもまぁ、さすがに湖までは完備していないし、川も大河ではない。


 ……まぁ、暮らしやすい土地だったらもっと発展してるか。


 大河なんかあったら流通が加速するからね。


「漁業に関してはフィリアともう少し打ち合わせをした方が良さそうだな。バンガゴンガの意見も交えて話せば、向こうで何らかの方法を考えるだろう」


「それがいいだろうな」


 焼きサバ定食を食べ終えたバンガゴンガが緑茶を啜る。


 因みに今日の俺は牛丼と豚汁の肉肉セットだ。


「そういえば、バンガゴンガ。魔王国の宰相の視察を案内していただろう?どんな様子だった?」


 魔王国は妖精族や魔族主体の国だからね。


 本来は外交官の仕事なんだけど、今回はバンガゴンガにも同行してもらったのだ。


「基本的にノーフェイス殿が案内していたからな。俺が案内したのは国営農場や鉱山、漁業村……後はハーピーの村とバゼル地方のジウロターク殿のところだが、何処も興味深げに回っていたぞ」


 バゼル地方のジウロタークといえば、エルフたちの自治区があるところだな。


 バゼル王国がエインヘリアに編入されることになった時、エルフたちの自治区はそのまま残したんだよね。


 勿論魔力収集装置は設置してるけど……。


「こちらの大陸での妖精族や魔族の扱いに関してかなり気にしていたな。エインヘリアでは分け隔てなく扱われているとは伝えたが、やはり少数民族であることは確かだ。だから、大陸全体で見ればけして楽とは言い難いという話はした」


「そうだな。エインヘリア国内でもまだまだゴブリンに対して偏見の目はある。バンガゴンガたちと出会ってからもう五年も経ったが、まだ五年しか経っていない……学校での教育を通じて子供たちは偏見を持たせないように教えているが、まだまだ時間がかかるだろうな」


 俺の言葉にバンガゴンガが目を大きく見開く。


「学校か……そんなことも教えているんだな」


「未来は子供たちにかかっているからな……幅広い知識と共に偏見をなくすような教育は必要だ」


 道徳の授業って必要?とか考えたけど、やっぱ必要だね。


 あとは……お金の使い方とか……将来の為にも学んでおいた方がいいことは結構沢山ある。


 詰め込みになり過ぎないように注意は必要だけど……あれもこれも学んでおいて欲しくはあるよなぁ。


 教育って難しいよね……まぁ、大勢の将来に関わることなんだから当然だけどね。


 といっても、カリキュラムを俺が考える訳じゃない。


 そういうのは専門家に任せるのが当然だ。


「子供の将来か、俺も他人ごとではないからな……」


「ん?」


 バンガゴンガのその呟きに、妙に実感が込められているような感じがして俺は首を傾げる。


 そのままバンガゴンガを見ていると、普段から凶悪な顔をしているバンガゴンガの表情がより凶悪なものに変わり……さすがの俺もピンときた。


「バンガゴンガ……そうなのか?」


「あ、あぁ。昨日リュカの調子が悪いってことで治療院に行ったらな……その、子供ができていたんだ」


「そうか……バンガゴンガ、おめでとう。目出度いな!」


 俺がにこやかに言うと、バンガゴンガの表情がくしゃりと歪む。


 バンガゴンガにはあれこれと仕事を振りまくってたからな……忙しくてそれどころではなかったのだろうけど、最近少し余裕ができたようだ。


 っていうかバンガゴンガに仕事を振り過ぎとは思ってたけど、さすがにリュカーラサにも申し訳なさすぎる……。


 いや、バンガゴンガの仕事を減らせるようにとは考えているんだけど……妖精族関係と農場関係はどうしてもバンガゴンガに頼ってしまっている。


 というか、ゴブリンたちが非常に忠誠心が高いというか……使い勝手がいいというか……表に出しにくいこととか、実験的なこととかをゴブリンたちにお願いしちゃうことが多いんだよね。


 ドワーフは技術系にしか興味を示さないし、エルフは基本自治区にいるし、ハーピーはちょっと手先が羽だから汎用性がないし、スプリガンはあまり交流がないし、魔族は纏まった数がいない。


 人族は……信用出来る人材は代官や治安維持部隊とかで使っちゃってるからな……信頼できてかつ人手が必要なことを任せるのは中々難しい。


 機密が多いからね……監視に人手が取られるようでは元も子もない。


 となると、信用度が高いゴブリンたちに仕事を頼むことになり、その責任者であるバンガゴンガの仕事が増える……いや、ゴブリンの中にもバンガゴンガ以外で管理職になれる者が増えればいいんだけど、バンガゴンガの頼りがいがあり過ぎて下の連中もバンガゴンガに頼っちゃってるみたいなんだよね。


 一応、バンガゴンガが意図的に育てようと仕事を振ってるゴブリンもいるみたいで、いくつかの仕事は引き継げたみたいだけど……気付いたらバンガゴンガの役職が両手で数えられないくらいに増えてたからな……。


「子供ができたとなると、少しバンガゴンガの仕事を減らさないとな」


「いや、それは……」


「大事なことだ。俺たち男は子を宿すキツさは想像することはできても、その一端も理解することはできないからな。だからこそ寄り添い、積極的に妻と子供の為に動かなければならない。国家の重鎮として重責を担っているバンガゴンガには難しい話かもしれんが、俺たちもサポートする……まぁ、俺が一番バンガゴンガに仕事を振っているからな。その辺は反省すべき点だ」


 俺が苦笑してみせるけど、バンガゴンガは困惑したような雰囲気だ。


「公的機関では男女問わずそういった休暇を勧めている。上役であるバンガゴンガも積極的に休暇を取って欲しい、上がそういった制度を利用する姿を見せなければ、下は中々取りにくく感じるだろうしな」


「む……むぅ」


「これを機に、バンガゴンガの役職をせめて半分くらいには減らしたいところだな」


 うちの子たちと同じくらい、バンガゴンガはワーカーホリック気味だからな。


 まぁ、それに甘えた俺も悪いんだけど……。


「それに……リュカーラサは安静にしておかないといけない時期だろう?」


 昨日判明したってことは、体調が悪くなるまで自覚症状がなかったってことだろうし、まだ安定期とかでもない筈だ。


 詳しくはわからないけど、妊娠初期に激しい運動とかストレスとかはもっての外だった筈。


「む……」


「リュカーラサはかなり体を動かすのが好きだからな。しっかり監視しておいた方がいいんじゃないか?」


「それは……」


 バンガゴンガが渋い表情になる……間違いなくバンガゴンガもその辺を心配している筈だ。


 同胞の危機に一人で突っ込んで行っちゃうくらいパワフルな娘だからね、リュカーラサは。


 エインヘリアにきてからも、偶に訓練所で稽古をしているらしいし……バンガゴンガの手伝いであちこち飛び回りながら治安維持部隊にも参加してるっぽいんだよね。


 まぁ、本人がやりたいって言っているし、バンガゴンガも渋い顔をしながらもそれを認めていたから拒否はできない。


 勿論、治安維持部隊はボランティアみたいに気が向いた時だけ参加みたいなことはできないので、しっかり小隊に所属……というか小隊を率いて活動しているんだけどね。


 とはいえ、さすがに妊婦にそんな仕事させるわけにはいかないので、そっちは引継ぎをして貰う必要があるね。


 まぁ、それは大した問題じゃない。


 治安維持部隊は、地元有力者との癒着をさせないように定期的に配置換えが行われるから、いつ何時赴任場所が変わってもいいように引継ぎと情報共有用の資料の用意が義務付けられている。


 だから、突然小隊長が抜けたとしても、問題なく部隊は活動できるようになっているんだよね。


 こういう時の事まで想定して組織づくりをしたわけじゃないけど、想定以上の効果を得られた気がする。


 まぁ、失敗ではなく想定以上の成果なのだから素直に喜んでおこう。


「……しかし、子供か。楽しみだな?」


「あぁ。不安も多いが……楽しみだな」


 不安……バンガゴンガは真面目で責任感があるからな。


 嬉しさもあるし、不安もある……親になるってことはそういうことなのだろうな……。


 可能な限り助けてやりたいとは思うけど、俺ができるのは制度や医療関係の保証……後は友人として相談に乗るくらいだな。


 さすがに家庭の中まで入り込んでお節介を焼いたりはできないしね。


「名前とかは……さすがにまだか」


「ふっ……さすがに気が早すぎるな。昨日の今日だぞ?」


 俺の言葉にバンガゴンガが凶悪な顔で苦笑する。


 まぁ、それはそうだよね……しかし、バンガゴンガの子供か。


 ゴブリンかエルフか……ハーピーって可能性もあるのかな?


 何にしても楽しみであることは間違いない。


 俺とバンガゴンガは暫く食堂で子供のことや奥さんのことについて語り合った。


 ……魔王国の宰相の話は完全に忘れ去っていたな。



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ハーピィって胎生なのかな……?
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