第284話 ご褒美・外務大臣
「ふむ。そんなものでいいのか?」
「……うん」
執務室でいつも通り仕事をしていたらウルルが報告にきたので、ついでに何か褒章的な意味合いで何か欲しいものはないかと聞いてみたらウルルは俺とお出かけたいと言い出した。
召喚されてレグリア王国に行った時だけじゃない。
今までウルルにはずっと陰からエインヘリアを支えて来て貰った。
だからこそ何らかの褒章を上げたいと常々思っていたのだけど、ウルルはとにかく忙しく、中々そういった話ができなかったのでこんなタイミングになってしまったのだ。
本当はプレアと同じタイミングでそういう話を切り出したかったのだけど、とにかくウルルはあちこちに飛び回っていて……本当に申し訳なく思ってしまう。
しかし今日の報告でようやく少し余裕ができてきたとのことで、やっとこの話ができたんだけど……お出かけねぇ。
「わかった。どこに行きたいとかはあるのか?」
「……ある」
「そうか。出かけるのはいつにする?」
俺は比較的時間を自由に使えるけど、いくら少し余裕ができたとはいってもウルルが忙しいことには変わりない。
俺がウルルに合わせる方が絶対に良い。
「……今から」
「ふむ、わかった。少しだけ待ってくれるか?」
「……了解」
今からというのであれば俺に否はないけど、さすがにやりかけの仕事を放り出すわけにはいかないからな。
俺は手早く書類のチェックを終わらせ、机の上を片付けてから立ち上がる。
ウルルはそんな俺をぼーっとした様子で眺めていたけど、ほんの少しだけ普段より表情が柔らかくなっているね。
喜んでくれているってことだろう……即断即決なのはさすがだけど、もしかして以前から考えていたのかな?
だとしたら随分待たせてしまったってことだよね……。
若干そのことに申し訳なさを覚えたけど、ご機嫌な様子のウルルに謝るのも違う気がするし……うん、全力でウルルの望みを叶えることが今俺の一番為すべきことだな。
足取りの軽いウルルの後について行きながら、俺はそんな風に考えた。
さて、ここは何処だろうか?
ウルルに連れられてやってきたのは……どこかの街の広場。
その広場にある噴水の縁の部分に並んで座っているんだけど……城からは転移でやってきたし、ウルルは何処に行くとも言ってなかったからな……。
「……」
「……」
ここに座って……ほとんど何も話すことなく早三十分程が経過した。
街はかなり賑やか……結構大きな街なのかな?
少なくとも、俺がちょっと前までいたレグリア地方の街とは比べ物にならないくらい活気があるし、石畳の工事もとっくに終わっているみたいだ。
ってことは、ここがエインヘリアの方の大陸なのは間違いないけど……いやぁ、これ以上はわからんね。
だって気付けばエインヘリアもめっちゃ広くなったし……とてもじゃないけど、パッと見ただけでここが何処かなんてわからないよ。
一つわかるのは、この腰を掛けている噴水がエインヘリア謹製の噴水であるということだけだ。
そんなことを考えながら、ちらりと横を見る。
俺の隣に座っているウルルは普段の服装とは違い、街に溶け込む様な……この辺りの人たちの一般的な服装だ。
「……」
それにしても……会話もせずにこうして座って街を眺めているだけだというのに、不思議と気まずさを感じないというか、穏やかな時間が流れているように感じる。
街は非常に賑やかな感じなのに、俺たちだけ切り離された様に穏やかというか……不思議な感じだな。
それに……ウルルは街の様子を見ながら随分と楽しそうだ。
まぁぱっと見、他の人にはわからないだろうけど……。
「おや、ムルルちゃん。今日はお休みかい?」
ぼーっと街を眺めている俺たち……いや、ウルルに声をかけてきたのは中々恰幅のいいおばちゃん。
ムルルって呼び名は……ウルルが良く使う偽名だな。
っていうか、ほとんど偽名になってない……。
まぁ、本名を知らなかったら別に問題はない……のか?
「……うん……お休み……」
「ムルルちゃんはいっつも働いてると思ってたけど、ちゃんと休んでたんだねぇ……ってあら?」
おばちゃんがウルルに話しながらこちらに近づいてきて、途中で俺に気付いたようでこちらを凝視してくる。
ぼーっと街を眺めていたから存在感が消えてたのかな?
「な、なんだい!?この超絶美形は!?」
「……」
おばちゃんが目をひん剥きながら俺の容姿を絶賛する。
それほどでもあるよ?
因みにウルルは……無言でおばちゃんにピースをしている。
「え?ムルルちゃん……まさか……」
「……デート中……」
戦慄したような表情のおばちゃんに、ウルルが誇らしげに言う。
「こりゃたまげたね……。いや、ムルルちゃんも相当可愛いからおかしくないのかもしれないけど……はぁー、道理でうちの若い連中に声をかけられても一切反応しない訳だよ。こりゃ相手にならんわ」
……こういう時、俺はどういう対応をすればいいのだろうか?
どう反応したらいいのかさっぱりわからん……こういうおばちゃんって、なんか謎の圧があるよな……。
「っと、邪魔しちゃ悪いやね。ムルルちゃん、またなんか面白いものがあったら見せに来とくれよ」
「……うん……また今度……行くよ……」
困惑する俺を他所に、一方的にまくしたてたおばちゃんは去っていく……助かった……。
立ち去る直前まで凄い俺の容姿を褒めてたけど、勢いに圧倒されて「どうも」くらいしか言えなかったな。
「今の女性は?」
「……この街の……木工工房の……奥さん」
木工工房のおかみさんってことか。
職人を相手にする肝っ玉母ちゃんって感じだね……。
「木材や……工具を卸した……顔が広くて……情報沢山……」
「なるほど……」
おばちゃんたちの顔役って感じかな?
そういう人のところには情報がたくさん集まるからね……。
卸したってことは商人として接触したってことだろうし、今後も付き合いがあるのだろう……俺もちゃんと挨拶しておいた方がよかったのだろうか?
「あ!ムルルのねーちゃん!デート?」
「……ん」
今度は子供がウルルに群がってくる……ウルル超人気者だな。
そして子供に向けて普段通りの顔でウルルはピース……テンション低そうなのにテンション高いな。
「うはぁ、兄さん連中が見たら発狂するな……って彼氏すんげぇかっこいいな!?」
ガキ大将っぽい子供が俺を見て目をひん剥きながら叫ぶ……さっきのおばちゃんと言いこの子たちといい、テンションたっかいな。
そしてウルルは更にピースが増えてダブルピースに……ちょっと可愛い。
っていうか、さっきのおばちゃんもうちの若い連中がーみたいなこと言ってたけど、ウルルさんモテすぎじゃね?
いや、ウルルも超絶美少女だからわからなくはないけどさ……。
「ちゅーするの!?ちゅーするの!?」
アホガキがアホなこと言ってるけど……何故かウルルはそのガキに向かってサムズアップ。
いや、せんよ?
俺は内心そうツッコんだけど、周りにいる女の子たちがきゃーきゃーとはしゃいでいるし、口には出さない。
実に楽しそうだね……ウルルもガキんちょ連中も。
おばちゃんと違って遠慮することなく、ウルルを囲んで元気に騒いでいる子供たちの胸元には全員小さなバッジが付いている。
あれは……。
「じゃなー、ムルルのねーちゃん!」
「また今度遊びに来てねー!」
「で、デートの話も聞きたいな!」
俺が子供たちの胸元に注目していると、満足したのか子供たちは大きく手を振って去っていく。
よく台風みたいだったって表現をするけど、まさにそんな感じだったな。
何か周囲が一気に静かになった気がする……いや、街は相変わらずがやがやと賑やかな感じなんだけど、俺たちの周りだけぽっかりと穴が開いたような感じだね。
「今の子供たちは孤児院の?」
俺の質問にウルルはコクリと頷く。
先程の子供たちが付けていたバッジはどの街でも共通のシンボル……国営孤児院のバッジだ。
「……うん……お菓子とか……玩具とか……教材とか……持っていってる……」
「それであんなに懐いているという訳か」
まぁ、それだけじゃないだろうけど。
なんか、子供を相手にするウルルは、普段よりもテンションが高めというかノリがいいというか……結構遊んであげてるんだなって感じがする。
「元々……貧民街の浮浪児……あの子たちも……情報通……」
「そうか……」
ストリートチルドレンって感じだったんだろうな。
情報を武器に逞しく生きてきた……凄い連中だ。
「今……孤児院の子たちは……引く手数多の……優良物件。商人たちが……こぞって雇おうと……必死」
「ほう?」
一昔前であれば、孤児たちの就職最有力候補は、犯罪組織や娼館やそれに類するものって感じだったみたいだけど、今はそんなことはない。
孤児院では、就職先の世話も年頃の子たちにしているけど……外部からも求められているのか。
「読み書き……計算……礼儀作法……人を見る目……情報への嗅覚……貪欲さ……およそ商人に必要な要素を……兼ね備えている……」
「生きていく上で身につけたものと、孤児院での教育で得たものか。確かに彼らは商人から……いや、商人以外から見ても素晴らしい人材だろうな」
今はあっちこっち好景気で人手がいくらあってもたりないからね。
国営の機関も人手を欲しているけど、最初から高水準の能力を持っている孤児院の子たちは即戦力として期待されているらしい。
公的機関もそんな状態だし、民間も急速に景気が良くなったからね。
どんな場所でも有能な人材確保は急務だろう……ふむ、変に強引な手で勧誘しないように規制した方がいいかもしれない。
エインヘリアは全体的に景気が良くなったし、教育レベルも引き上げられている。
しかし、モラル的な部分ではまだ十分には程遠い。
治安は良くなっているんだけど、それは治安維持部隊が頑張って取り締まっているし、情報部が裏から色々手を回しているからであって、それらの目が行き届かない部分が生まれれば、あっという間に治安は悪化するだろう。
そういうのって、何をどうやったら根付くもんかねぇ……正直道徳の授業なんて役に立つとは思えないし……いや、模範解答を知るって意味ではありなのか?
こういうのは良いことだ、こういうのは悪いことだ……そういった考えを浸透させるという意味で大事なことなのかもしれない。
少なくとも考える切っ掛けにはなるかもしれないし……しかし、そういった授業をできる人っているのだろうか?
わからん……キリクたちに相談……国民総洗脳とか言い出さないよね?
一瞬そんな物騒な考えが頭を過ったけど、懐に余裕が出てきたからこそ、心も豊かになって欲しいってのは……傲慢な考えなのかな?
「……フェルズ様が……望んで……育てた子たち……」
ぽつりと呟かれた言葉に、俺は思考を切り替える。
「俺が育てた訳じゃないぞ?」
俺は否定するが、ウルルはゆっくりと首を振る。
「フェルズ様が……そうあれと望み……あの子たちが……それに応えた……」
だから俺が育てたのだとウルルは言うけど……いや、俺は環境を整えるように指示を出しただけで、実際に制度を整えたのはイルミットたちだし、評価されるようになったのは彼らががんばった結果だ。
そこに俺の功績は一欠けらもない。
……とは思うけど、多分ウルルたちにとっては俺がそれを望むことこそが一番大事なことだということだろう。
「私は……こうしているのが……好き……」
「……」
相変わらず外見からは見えにくい感情だけど、確かにウルルは楽しそうな笑みを見せながら言う。
「フェルズ様が……望み……みんなで作った……国……エインヘリア。私は……それをこうして……確認するのが……好き」
「……そうだな。これは皆で作った光景だ。嬉しくもあり誇らしくもある……素晴らしい光景だ」
待ちゆく人たちの顔は明るく、活気に満ち溢れている。
通りは清潔で、嫌な臭いは一切ない。
治安が良く、子供や女性が一人で歩いてもほぼ危険はない。
これから日が暮れてくれば街灯がつき、夜闇を退ける。
エインヘリアというあらゆる意味でぶっとんだ力を使い、作り上げた世界。
キリクたちが、ウルルたちが、俺のふわっとしたアホな願いを基に必死に作り上げた国。
「……頑張ったかいのある……光景……」
誇らしげに言ったウルルがコテンと横になり……俺の膝を枕にする。
……俺が膝枕をする側になるとは思わなかったな。
気持ち良さげに俺の太ももに顔をこすりつけるウルル……なんか猫っぽいな。
なんとなくそう感じた俺は、ルミナにするようにウルルの頭を撫でる。
「……んふふ」
小さく笑うウルルを撫でながら、俺たちはそのまま暫くのんびりと過ごした。
これにて第二部終了とさせて頂きます!
第一部から通算900話以上……ここまでお付き合いくださったこと感謝申し上げます。
第三部に関しましては、色々悩ましい部分がありまだ色々と定まってはいませんが、続ける予定ではあります!
第三部開始までまた少しお休みを戴こうと思っておりますが……来月中には再開予定です!
偶数日更新で!
最後にもう一度、ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。
皆様の応援のお陰で今日まで物語を書き進めることができました。
今後も、楽しい物語をお届けできるように精進していきたいと思います!
あと誤字を減らしたいと思います!




