第282話 ぷっぷぷぷっぷっぷー
View of リキュ=エンネア 魔王国 夢見の識者 最弱の超越者
これは凄い。
本当に凄い。
レベルが、レベルが違う。
これが本物……。
「そんな真剣な表情、会議中でも見ないよねー」
「……」
私の向かいに座るストラが何か言っているけど、私の耳には……いえ、頭には何も入ってこない。
今私に見えるものは……以前エインヘリアから貰ったレシピの完成版……バニラエッセンスを使った究極のプリン!
口に入れた時の風味が……全然違う!
「そういえばノーフェイスが言ってたけど、プリンも色んなバリエーションがあるらしいよ?」
「プリ……ん?」
今、何と?
プリンに……バリエーション?
「エインヘリアには色んなプリンがあるらしいよー」
「ちょっとエインヘリアに住んでくる」
「うん、エインヘリアに行くじゃなくて住むってのは予想を一回り越えて来たけど……ダメだよー」
私の願いを軽い口調で否定するストラ。
「な、なんで!?」
「いや、寧ろこっちがなんでだし……夢見の識者様がホイホイ他国には行けないっしょ?」
そんなことを言いながらプリンを一口食べるストラ。
「あ、おいし……」
「でしょう!?これは、本場の味を私は知るべきだと思うのよ!」
「うーん、住むって言うのはともかく……あたし的には行かせてあげたいところだけど、まだ無理くない?」
ストラは基本的に私の味方をしてくれるんだけど、この感じからして……今回は無理そうね。
陛下……いや、宰相に直談判するってのはどうかしら?
宰相はエインヘリア大好きだし、上手く丸め込めれば……。
「因みに、宰相はエインヘリアに行ってるからいないよ」
「ずるい!」
裏切られた!
「遊びに行ったわけじゃないよ?」
「でも絶対遊んでるわよね?」
「宰相は真面目だし、そんなことないっしょ。視察であちこちは行くだろうけど……」
「美味しいものもたくさん食べる筈……」
「それは……まぁ、そうだろうねー」
プリンだけじゃない。
エインヘリアには美味しいもの沢山があるとイルミットさんから聞いている。
プリンはその一角に過ぎないとか……恐ろしい国だわ。
気になる。
エインヘリアのご飯、超気になる。
今から合流とかできないかしら?
「今回の訪問は、災厄討伐のお礼がメインだからねー。勿論、色々と政治の話もしてるけど、大変だろうねー。あのエインヘリアが交渉相手だし」
「……うーん、そう聞くと確かに大変そうね。また禿げるんじゃ……」
「エインヘリアにいるんだから、また薬貰えるんじゃない?」
「……貰えなくても大量に買いそうよね」
今のところ、髪の毛が減る様子はないけど……宰相は絶対予備の薬を求めると思う。
「……あの薬はいらないけど、プリン買って来てくれるかなぁ」
「どうかなー。あ、でも陛下が色々頼んでいたかも」
「ずるい!」
私に内緒でそんなことを!?
おのれ……陛下の癖に……。
「まぁ、お土産って訳じゃないと思うけどねー。でも、農作物とか……保存が効くような食材とか、食べ物関係も頼んでたみたいだよ?」
「うーん、まぁ、それなら、ぎりぎり……」
お菓子は当然好きだけど、美味しいごはんも大事だからね……プリンの他のレシピとか貰ってこられないかしら?
「レシピはさすがに要求できないからね?」
「……ダメかな?」
「普通は無理だと思うよ?」
プリンのレシピとかくれたし、意外とこちらから頼めばいけるんじゃないかしら?
「今物凄く厚かましいこと考えてるよね?」
「そ、そんなことは……」
「レシピは料理人の研鑽の賜物だからね。普通はおいそれと人には教えられるものじゃないと思うなー」
「うぅ……」
確かにそれはそうよね……プリンのレシピなんて、普通に料理人からすれば一生それだけで食べて行けるくらいの代物だと思うし。
「プリンのレシピは、友好関係を築くためにってことで出させた代物だと思うしねー。あんまり期待しない方がいいんじゃないかな?」
「そうよね……」
それに……エインヘリア相手に何かを要求するというのは、いくら宰相でも厳しいだろう。
寧ろ、こちらが色々と要求を呑む立場だし……。
「エインヘリアから学ぶところは多そうだけど、こちらからエインヘリアにってものはあまりなさそうだからねー。あたしたちからすれば、同盟相手として頼もしい限りだけど、向こうからすれば、同盟を結ぶメリットがないよねー」
確かに同盟相手としては不足だらけよね。
百年以上の長きにわたって討伐はおろか、調査すらまともに出来ないような相手をエインヘリアはあっさりと倒してしまっている。
つまり、軍事というか……戦力という意味で、魔王国がエインヘリアを援けることはほぼ不可能といえるだろう。
一応魔法技術というか、災厄に関する共同研究等は行っているみたいだけど、あんな凄まじい技術を持つエインヘリアよりもうちの技術者が成果を出せるものだろうか?
あとは……エインヘリアの利になるもの……なんだろう?
「貿易相手として……ってのはあるかもしれないけど、それも微妙だよね。エインヘリアから買いたいものは沢山ありそうだけど、こちらから売れるものって……何があるのかな?って感じだしー」
「陛下は凄い悩んでいるんでしょうねぇ……」
最近会ってないから知らないけど。
「……そういえば、最近陛下が元気ないんだけど……何か知らない?」
「そうなの?」
何かこちらを探る様な雰囲気でストラが聞いて来るけど……心当たりは全くない。
「……もしかして、最近陛下と会ってない?」
「予知夢も見てないし……会ってないわね」
基本的に、予知夢が関係している会議以外は出ても出なくてもいいらしいしね。
「陛下ってここに偶に来たりは……?」
「最近は来ても追い返してるかな」
「なんで?」
「……さぁ?」
デリカシーがなさ過ぎてイライラさせられるからかな。
「またなんか余計なこと言ったのね……」
ストラが小声でブツブツ言ってるけど、はっきりは聞こえてこない。
「まぁ、アレのことはいいじゃない。どうでも」
「……めっちゃ怒ってるし。えっと、宰相が帰ってくるの楽しみだねー」
「そうね。多分面白いものを持ち帰ってくると思うわ」
「それって予知夢?」
「そういう予知夢は見ないわよ」
そう言ってストラと二人で軽く笑う。
まぁ、楽しい予知夢って言うのも見てみたいわよね……災害とか災厄とか国の大事とか、そういうのじゃなくって。
朝、私はベッドから飛び起きるように身を起こす。
久しぶりに……予知夢を見たからだ。
でも……いつも見ていた予知夢のように、暗く冷えたような感覚……嫌なものは感じない。
ただ何か妙な感覚が残っている……これは何だろう……困惑?
わからない……今の状況そのものに困惑しているのか、それとも夢の中で感じた感情なのか……いえ、何にしても予知夢を見たのであれば、陛下に報告しなくてはならないだろう。
緊急性はなさそうだけど……それにしてもアレは……。
……いや、アレが何なのかはわかる。
しかし、何故あんなものを予知夢として見たのかがわからない……一体何が起ころうとしているのか……。
とりあえず身支度をしたら登城しよう。
私はベッドから降りて傍らに置いているベルを鳴らす。
私がこのベルを鳴らすのは予知夢を見た時くらいだ……それ以外の日は誰かが起こしに来るまでベッドでゴロゴロしているからね。
だからこれが鳴った時は、屋敷の皆に緊張感が走る。
案の定というか、堅い表情のメイドがすぐに部屋に入って来て身支度を整えてくれた。
さて、もう私が予知夢を見たことは陛下に伝わっている頃だろう……まぁ、急いでいく必要はなさそうではあるけどね。
それにしても変な夢……予知夢だった。
「大量の……羊」
それが何を意味するのか、私は近い未来に知ることになる。




