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第281話 フェルズとフィリア



 帝国式コース料理……中々味わい深いコースだった。


 魚料理がなかったのは、帝都が内陸部にあるからってところかな?


 川魚は採れると思うけど、帝都近くの川はあまり漁業には向いてないというか、流通や移動の為の川って感じだよね。


 川魚は水が澄んでないと泥臭さの方が勝るというか……食用に向いてない奴が多いというか……そんなイメージだ。


 うちの生簀は淡水魚だろうが海水魚だろうが関係なくとれるけど……漁業とかは帝国には持ち込んでないからね。


 ……そっちも導入するか聞いてみるか?


 となると、バンガゴンガにまた指導員を頼む必要がある……問題は生簀を設置する場所だけど……農業やってる領地に設置出来るかな?


 ため池とかでも生簀は作れるけど、さすがに広さ的に収穫量が微妙か?


 領内だけの消費ならともかく、帝都でも消費するとなったら……厳しいよね。


 収穫まで三十日もかかるし、海みたいに毎日生簀をローテーションできる程広くはできないだろうし……。


 それはそうと、この食後酒……ワインみたいだけど、酒精がきついな。


 その割に甘め……調子に乗ってたくさん飲むと悪酔いするかもしれないね。


 フィリアは……食事中もそうだったけど、ちょっとお酒のペースが速い気がする。


 って、そういえばフィリアと酒を飲むのは初めてかもしれん。


 結構酒豪なのだろうか……?


「帝国の伝統料理……素晴らしい味わいだった」


 食後の一息ついたタイミングで俺はそう口にすると、フィリアは穏やかな表情でグラスを手に取る。


「口に合ったようで安心したわ」


 皇帝としてのフィリアではなく、私人としてのフィリアの口調でそう言って口元を綻ばせた。


 食事中の会話のお陰か、それともアルコールのお陰か、食事前に感じた緊張感は消えたようだね。


 今、室内には俺とフィリアの二人しかいない……給仕をしてくれていたメイドさんも部屋の外……テーブルの上に置かれているベルを鳴らさない限りこの部屋には入ってこない。


 ……意識すると緊張がぶり返してくるけど、今はもう少しだけ雑談をしようと思う。


「我々の料理とはまた違った味わいだったな。一つ一つの食材が非常に丁寧な処理と複雑な工程を経て作られているのだろう」


 うちの料理はカレーとかからあげとかの俺の記憶の世界における一般的な料理から、ファンタジー料理まで様々なものがある。


 まぁ、ファンタジー料理の多くはモンスタードロップの食材が多く使われていて、この世界では入手不可能だから滅多に食べることはないけど、アレもかなり美味しいんだよね。


 みんなエインヘリアの料理は最高だっていってるけど、帝国の料理だって十分過ぎる程美味しいし、手間暇がかかっており、繊細で美しい料理だと思う。


「帝国式の料理は極端に別れるのよ。一つは今食べたみたいに手間暇をかけてじっくり丁寧に作る貴族料理。もう一つは鉄鍋一つでぱっと作る戦場料理と呼ばれているもの」


「ほう?」


「戦場料理とは呼ばれているけど、戦場で作るのはまず不可能な凝った料理も少なくなくてね。でも比較的簡単に素早く作れる料理って言われているわ。まぁ、私は作ったことはないけれど」


 スラージアン帝国の皇帝陛下が料理をしている姿は……中々想像できないね。


「料理か……極簡単なものならしたことはあるが……」


「そうなの?食べてみたいわね」


 ウィンナー焼くとか、目玉焼き作るとか……あ、みそ汁なら作れるな。


 しかし、朝ごはんのメニューだな、これは。


「機会があればな」


 ……機会、あるだろうか?


 俺とフィリアが朝食を共にすることはあっても、その朝食を俺が作る……シチュエーションが思いつかないな。


 少なくともうちの城では難しい……いや、こっちの城でも難しいな。


 ってか、俺が厨房に入るのが難しい……日帰りキャンプならワンチャン……いや、この世界でキャンプってレジャーって感じじゃないよな。


 ……日帰りキャンプで朝食を作るのが、そもそも難し過ぎる気もするし。


 でもまぁ……機会なんてものは作ればいいだけの話だしな。


「ふふっ……それはすごく楽しみね。いつか、叶うといいのだけど……」


「今後、俺たちは今までよりも深い間柄となるのだからな。その機会はいくらでもあるだろう」


「……え?」


 俺の言葉にグラスを持ったまま、フィリアが硬直する。


「フィリア。随分と長く待たせてしまったが……今日はあの時の答えを伝えに来た」


「……」


 フィリアが表情を硬くしながらテーブルの上にグラスを置く。


 中のワインはさざ波一つ立っていない……俺だったらちゃっぷちゃっぷと大波を立たせていたかもな。


 ……うん。そんなことを考えるくらいには俺も余裕があるらしい。


「俺はエインヘリアの王として、スラージアン帝国皇帝の要請に応えるつもりだ」


「……」


 表情が一瞬曇ったように見えたが、すぐに皇帝としての表情でフィリアが頷く。


「そして次は……俺個人としての言葉だ。フィリア……俺はフィリアのことを好ましく思っている」


「っ……」


「俺たちは互いに立場がある。故に、少々ややこしい関係ではあるが……必ず大事にする」


「ふぇ、フェルズ……」


 いつものものとは完全に違う……少し泣きそうな表情をフィリアが見せる。


 そんなフィリアに俺は苦笑を見せながら言葉を続ける。


「俺はかなり不器用な上に気が利かないのでな、不満を感じることも多々あると思う。だが、フィリアのことを蔑ろにするつもりはない。不満があったら言って欲しい……というのは自儘なことだと理解はしているのだが、それでも言ってくれれば改善するつもり……いや、必ず改善するから言ってくれると嬉しい」


 正直……心苦しい部分はある。


 フィオのこと、罪悪感、煮え切れぬ思い……色々と思うところがある。


 だが、今それを持ち出すのは卑怯というものだし、何よりフィリアには関係ない。


 今までのことと同じだ。


 誰にどう言われたからは関係ない。


 俺自身が決めて進んだ結果だ。


 ここでヘタレることは許されない。


 っていうか、ここでヘタレてしまえば、フィリアだけでなくフィオにも捨てられるだろう。


 何より俺が自分を許せない。


「俺と共に生きてくれ、フィリア」


「ありがとう……フェルズ……受け入れてくれて……ありがとう」


 フィリアが柔らかく微笑みながら、一筋の涙を見せる。


 俺は立ちあがり、用意していた小箱を懐から取り出しながらフィリアへと近づく。


「エインヘリアの風習でな。婚約の際に相手に指輪を送り、それを左手の薬指に嵌める。結婚式の時はまた別の指輪を送るのだが……」


 そう言いながら小箱の蓋を開けて指輪を見せる。


 中に入っているのはこの世界では見たことがない、ゲーム時代の宝石と金属で作った一品物の指輪だ。


「……綺麗」


 ほぅと熱の籠ったため息をつくフィリアの手を取り、俺はその指輪をフィリアの左手の薬指に嵌める。


 指に嵌った指輪を見たフィリアが再び涙をこぼし……俺はそっとフィリアを抱き寄せた。



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フェルズがヒヨってない……まるで漢みたいだ……
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