第272話 とある演習の前哨戦:大
俺の予想以上に勝敗がもつれたけど、遂に大将戦か。
対戦カードはシュヴァルツ対サリア。
弓聖と槍聖の戦いは……正直、シュヴァルツの勝利は厳しいと思う。
なんかね……矢をね……あっさり打ち払われるんだよね。
ジョウセンもサリアもレンゲも……シュヴァルツと稽古をしている姿を見ることはそれなりにあるんだけど、危なげなくというかめっちゃ軽い様子で矢を防ぐんだよね。
シュヴァルツの方はかなり本気で攻撃しているのに、ジョウセンたちは鼻歌交じりレベルって感じなのがまた……。
いや、矢とは思えないくらいすさまじい勢いで飛んでくるんだけどね?
光ったり、曲がったり、爆発したり、分裂したり、ホーミングしたり……とても矢とは思えない挙動と速度と威力なんだけどね?
ぺしって感じで払われるのよね……。
ただでさえ凄まじく目がいいのに、自分の体を完璧に操ることができるジョウセンたちにとって、どれだけ速く数が多かろうと遠くから飛んでくる矢を打ち払うくらい造作もないってことだろう。
しかしシュヴァルツたち弓兵は火力もかなり高いから、当てることができれば勝てる可能性は十分ある。
やはりカギとなるのは『邪眼』かな。
『邪眼』は、一定時間相手を行動不能にする麻痺の効果を与えることができる。
ゲームの頃は一戦闘につき一回しか発動できなかったけど、今はそういった制限はなかった筈。
ディオーネの『魔眼』と同じくらい射程があるのであれば、長距離から相手を麻痺させることができるはず。
遠距離から不意を突いて麻痺にさせて強力な一撃を叩きこむ……うん、結構シュヴァルツにも勝ち目がある気がするな。
いや、待てよ?
『邪眼』って耐性とか貫通できたっけ……?
「大将戦を始める!代表者前へ!」
リーンフェリアの呼びかけに従い、シュヴァルツとサリアが颯爽と訓練所中央に進み出る。
サリアはともかく、シュヴァルツは相性最悪な相手に対しても堂々としているね。さすがだと思う。
サリアはいつも通りきびきびとした様子だけど……シュヴァルツは既にリバーシブルコートを裏返しており、準備万端といった様子だ。
油断はしていないというか、最初から全力で行くという意思表示だろう。
普段であれば戦闘が始まってから余裕を見せつつコートを翻すのだけど……まぁ、サリア相手にそんなムーブをかましている余裕はないってことだろうね。
特に風は吹いていないのに赤いコートはためかせるシュヴァルツと真剣な様子のサリア。
向き合う二人の姿を見て、サリアも決して余裕があると言った感じではないことに気付く。
サリアは真面目だから……というだけではない。
彼女にとってシュヴァルツと戦うのは、けして楽なことではないということだろう。
試合がどう転ぶか……全然読めないかもしれない。
今回の試合、大事なのはフィールドと開始位置だな。
まぁ、ディオーネたちの試合でも同じことを考えたけど……フィールドと開始位置次第でシュヴァルツの逆転劇が起こり得る……と思う。
シュヴァルツが距離を取り、先制をとれるかどうか……試合開始前から見せ場ではあるな。
そんな事を考えていたのだが……フィールドが変わらないな?
先程までと同じであれば、もうフィールドが変わっていてもおかしくない頃合いなんだけど……。
「始め!」
はえ?
内心俺が首をかしげていると、リーンフェリアの掛け声が聞こえてくる。
「ふっ……我が邪ばふっ!?」
なんかシュヴァルツが言っていたけど、最後まで言葉を紡ぐことすら出来ず顔面にサリアの槍を叩きこまれる。
寸止めじゃないのか……。
まぁ、柄の部分で横殴りに叩きつけたって感じだけど……って、もう終わり?
「そこまで!」
鼻血を飛ばしながら倒れていくシュヴァルツには視線も向けず、リーンフェリアの終了宣言が響き……大将戦は未だかつてない程激早で決着がついてしまった。
いや、まぁ……今のは仕方ないと思う。
フィールドが変化しなかったのは……選ばれたのがフィールドが訓練所だったのだろう。
そして開始位置だけど、なんと超近距離。
サリアの槍どころか、一歩も動かず拳すら届く位置での試合開始となったのだ。
シュヴァルツは果敢にも邪眼を発動させようと自身の顔に手を伸ばし……一瞬でサリアに槍でぶっ叩かれた。
うん、これは無理。
『邪眼』の発動よりサリアの方が早かったというか、あんな超至近距離でのスタートって状況が鬼畜過ぎる。
そんな逆境にもめげず、果敢にも『邪眼』を発動させようとしたシュヴァルツの諦めない心はさすがといえるだろう。
まぁ、結果は……御覧の有様だけど。
やっぱなんか……女の子たちがシュヴァルツに厳しい気がするよね。
あの溌剌とさわやかなサリアですら、シュヴァルツの鼻面に槍を叩き込んだし……いや、試合なんだから攻撃を叩きこむのは当然なんだろうけど……でもなんか……ねぇ?
我が幼心の具現がこんな目に遭っていると、正直心が痛すぎる。
誰かシュヴァルツに優しくしてあげて……。
まぁ、シュヴァルツのことはさて置き、これで全五試合が終わったわけだけど、戦績は互いに二勝二敗一分……見事に引き分けとなったわけだ。
俺としては非常に見ごたえのある試合で勉強になったし、新たに課題も見つけることができた訳で非常に満足した。
どちらもよく頑張った!感動した!
そう言っていいと思う。
しかし、この試合はそもそもうちの子たちによる白組争奪戦。
どちらのチームが白組として魔王国の使節団に軍事力を見せびらかす演習戦に出るかという大事な御役目を決める試合。
双方勝者である、そんなゆとった感じの結末はお呼びではないのだ。
そこんところ、うちの参謀様はどうお考えなのでしょうか?
「キリク。この後はどうするのだ?」
「はっ。最終的に引き分けになった場合は、大将同士によるじゃんけんで決めます」
「ほう」
……それだったら最初からじゃんけんで良かったんじゃね?
一瞬そんな言葉が頭を過ったけど、この試合はけして無駄ではなかったわけだし、野暮なことは言うまい。
「……大将同士ということは、アランドールとサリアか」
「いえ、この試合の大将を務めた二人です」
「そういうことか」
つまり、シュヴァルツ対サリアというわけだね。
……ホントにじゃんけんで決着つけて大丈夫?
「彼らも程よくガス抜きができたでしょう。最初にじゃんけんを提案していたら納得しなかった筈です」
心読まれた?
キリクの言葉に一瞬ドキっとしたけど、俺は皮肉気に口元を歪ませて見せる。
「くくっ……さすがはキリクだな」
俺の称賛にキリクが少し照れたような笑みを見せる。
なるほど……ここで激しくやり合ったからこそ、じゃんけんを受け入れるってことね。
確かにあの会議室でのやりとりからみて、あそこでじゃんけんで決めなさいっていっても中々納得しなかったと思う。
ここまで読み切ったキリク……さすキリやで。
鼻面を思いっきりぶっ叩かれたシュヴァルツが復活して、リーンフェリアの前でじゃんけんが行われる。
勝者は……サリアみたいだ。
これで紅組はアランドールチーム、白組はサリアチームに決まったね。
……なんかシュヴァルツがアランドールチームのみんなから責められている気がするけど、ほんと優しくしてあげてね?
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