白は戦える? 戦えない?
僕らが再び歩き出してから数時間が経った。立派な朝の景色がやや暑い。しかし、そんな僕らの様子は蛇と遭遇する前と大差がなかった。
パリト君が出したあの唾は、驚くことに強力な毒らしく、助かったには助かったけどお肉は全滅。毒がどこまで回っているか分からないから迂闊に手が出せなかったのだ。だから下手にそのお肉を口にするよりも、適当な鱗を採取して放置しようということになった。
魔物の素材はどんなものでも多少のお金になる。だって全く同じ魔物が現れる確率はかなり低いのだ。だから単なる魔物の個体でも、希少価値は絶滅寸前の動物のような扱いになる。ただ、魔物の素材って一般人には利用価値のないものだから、商品としては珍しい物という部類で、魔物のコレクターが趣味で集めるために買ったり、その手の研究機関が買ったりする。
で、そういった人達にパイプを持っていない僕らは、魔物の素材を取り扱う専門店で売るわけだ。勿論、専門店の方が儲かるような値段で取引となるから、理屈としては僕らが魔物の素材で大金持ちになったとき、専門店はその上を行っていることになる。まぁ仕方ない話だね。
そういったことが嫌な人は新聞なんかに載せてもらって大々的に宣伝し、オークションのようなことをするらしい。だけどそれらの準備には莫大な資金が必要だから、まず僕らには無理だ。良からぬ輩が新聞を見て盗みに来るなんて話も聞くし、オークション開催まで守るのにも苦労が連続。それでいて大した金額で落札されなければ大赤字。
うん、基本は専門店での売却。それが一番楽な方法だ。
それで、僕は持ってきたナイフで蛇の鱗を持てそうな分だけ剥ぎ取った。流石にあの大きさの蛇を引きずって何日も歩くのは現実的ではないからね。無駄な欲は捨てないと身が持たないのは目に見える。
「この鱗一枚でいくらするのかな?」
「そうだなぁ、フィシアム銀貨で一枚か二枚くらいが妥当か」
「そこそこに高いね」
鱗の一枚を空にかざして僕はゴネットに問う。
フィシアム銀貨って言ったら僕らの国の硬貨だ。価値としては一枚で一回、そこそこの料理が食べられるって感覚。贅沢を言わなければもっと安い料理なんていくつもあるから、基本二回食事にありつける。宿に泊まるなら安くて一枚。安全性を考慮しないならもう少し下だけど、物を盗られれば損失は一枚じゃ済まないし、やっぱり妥協点は一枚のところだ。
そんな価値のある鱗を僕は全部で十三枚持っている。その内三枚はゴネットが持ちきれなかった分を僕が持ち運んでるんだけどね。
僕のリュックサックでは十三枚以上入らなかった。価値を知った今なら惜しいことをしたなと感じてしまう。勿論、数時間掛けて戻ったところで持てる数が増えるわけではないのだけれども。やはり人の欲求とは計り知れないものがある。
「王都に着いたらさ、これで何を買う?」
「何を買う、か。そうだな、宿代と食費を差し引いて、残るといいな」
「あーそっか、滞在費を考えたら余裕ないね」
どこか浮かれた旅行気分の僕も、そんなことを言われたら自覚する。もう大人になったのだから、これからは自立しないといけない。自分でお金を稼いで自分の力で生きなきゃいけない。
「じゃあお金を稼ぐ方法を考えないと……ちなみにゴネットはどうする予定だったの?」
話を聞いた限り、ゴネットの計画は一人で旅立つものだった。なら、一人で稼ぐ方法だってゴネットは考えていたはずだ。もしそこに僕が加わっても差し障りがないのなら、一緒に働こうかなどと僕は考えていた。
「従魔次第でいくつか考えてはいたけど、ドラゴンだったら魔物を狩るのが一番だな。俺らは各地域を転々とするわけだからな。そういった職業がないわけでもないし」
「そっかぁ、じゃあ水の従魔だった場合は?」
「水を作って売る」
わぁーい。僕何もできないや!
いや本当に水作れないし、どうしよう。これじゃあ足手まといだ。精々魔物の鱗運びを手伝ってるくらいだけど、働いている感じが全く得られない。これじゃあ僕がゴネットに寄生しているみたいじゃないか!
「ゴネット、僕どうしたらいい? その方法できないんだけどさ。このままだとゴネットに寄生する形になっちゃうんだよ」
「……え? 自覚があったのか?」
そんなに驚くことなのか、僕にはそれが疑問なのだけれど。うん、率直に馬鹿だと思っていたのかな? 僕そんなに君に酷いことをした覚えがないんだけど、酷い言われようだ。
「あったあった。で、このままだと友好関係にひびが入るかもって危惧し出したの。何か妙案ある?」
「今更そんなことでひびが入るとは思わないけどな。まぁ、あるにはある」
「おっ、その妙案とは?」
「お前の従魔ができることを探す。従魔は人間じゃないんだから、人間には到底真似できない何かがあるだろ。たぶん」
最後に添えられた自信なさげな言葉に、僕は痛く不安を覚えるのだけれど。
でも、そうか。白にできること。人間にはできなくて、白にはできる何かしらの特異性。
「あ、白って何でも吸収できるから、雑草取りの仕事とかできるんじゃない?」
「雑草取りか、なるほどな。残った枯れ草はお前が回収すりゃ、確かに普通にやるよりかは楽になりそうだな」
「え? 残った枯れ草? いやいや、白が全部吸収するんだから何も残らないよ」
「はぁ? 物が残らないって、じゃあどこに消えるんだよ」
「どこって言われても、白が溶かして吸収してなくなるから、白の中?」
「溶かす? 待て、溶かすのか?」
わざわざ動かしていた足を止め、僕に聞いてくるのは今日で何度目だったか。それほどまでにゴネットは驚いているということなんだろうけど、何を驚いているのか、僕には分からない。
「溶かすよ、ほら白」
取り敢えず信じられてないようだから、僕は適当に近くの雑草をむしり取る。そして、ゴネット側に見えるようにして、摘まんでいる草を白へあげた。背後だから当然僕にはその様子が見えないのだけれど、徐々に指で挟んだ雑草が引っ張られているから、白は食べているのだろう。
そんな様子をゴネットはありえないものでも見たかのような表情で、早い話、驚愕していた。
「少し前にさ。俺、お前の従魔は水の従魔っぽい従魔って言ったよな」
「うん」
「それで俺はそいつが水の従魔の派生かと何かかと思ってたけど、違う。その従魔は派生ですらない」
「……どういうこと?」
「水の従魔の定義は『水分の吸収と排出』なんだよ。だから『全てを吸収するだけ』の根本がずれてるそいつは水の従魔とは呼べない。姿が似ているだけの別物だ」
「へぇー」
難しい話は学生時代に置いてきた僕は、話半分で驚いておく。要約すれば白は水の従魔じゃないってことを言いたいようだし、何か聞き逃しても大丈夫でしょ。
「そこでマテル。朗報だ」
「お、何々?」
「そいつが何でも溶かせるなら、魔物と戦えるとは思わないか?」
「戦える……うーん、戦えるかなぁ?」
焼き肉を食べた実績はある。なら草食というわけではない。雑草も食べたから白は雑食なんだろう。でもほら、今まで食べてきたものって柔らかいんだよね。タンポポはすぐ消えたけどお肉はゆっくり消えた。
仮説として、お肉は味わっていたんじゃなくて、あれがあの大きさとあの硬さのときの最大速度だったりするんではなかろうか。なら魔物と戦うにしても攻撃手段が乏しくて戦えない。
ということを僕なりに考えてみるんだけど、結局こういうことに関しては考えるよりも実際に見た方が早いんだよね。
「白、白はこれ食べられる?」
持ち出したのは蛇の鱗だ。だいたい僕の手のひらくらいの大きさで、あのときのお肉より大きい。強度も叩いてみた感じ、石のようであった。
それを見せると白は僕の肩を這って近づいてくる。拒絶のような様子も見られないし、食べられるってことかな。
「じゃあ、できるだけ早く食べてみて」
そう言って、僕は白に触れさせるように鱗を近づけた。金銭的に考えれば少し痛いけど、僕は実戦中に確認とかしたくない。
まぁいいよね。この鱗も剥ぎ取りを手伝った報酬としてゴネットから貰ったわけだし、これで僕の取り分は九枚か。いやまぁ、平等にしようっていうゴネットの提案を蹴ったのは僕だし、ろくに働いてないのに取り分があるだけいいんだけどさ。それでも高価なものが無くなるって辛いものがあるからね。
(さようなら、僕の蛇の鱗)
そんな別れを惜しむ暇もなく、白に近づけた鱗は一瞬にして消えた。
「……お? おぉーっ! 早い!」
あまりに早いものだから落としたのかと思ってしまった。けれど吸い込まれていったのは指の感触で分かった。もう鱗の姿は見えない。タンポポのときと同じだ。瞬時に溶かされて消えたんだ。
なら、白だって戦えるかもしれない。あとは一度にどれだけ食べられるかが分かればいいんだけど。今までに食べた最大量ってお肉四枚だったっけ。あれ? 五枚だったかな?
ともかく、それが限界の量かもしれないということを念頭に置きつつ、これから少し確認作業になりそうだ。でも少しずつ分からなかった白のことが分かるようになって、僕の心は嬉しさに溢れている。銀貨の死は無駄じゃなかったんだ! ……銀貨の死ってなんだ?
前回の話を書くときに、「あれ? このときって白はどの位置にいたっけ」と確認に戻ることがあったんですよ。
それで読み返してみるとまぁ酷いですね。基本勢いで書くから誤字脱字が多いんですよ。ちょくちょくそれで見かけたものは修正しましたけど、節穴じゃないなら初めから誤字脱字なんてないですからね。まだ残ってたら教えていただけると助かります。




