80・その者、赤き姿の
事件の後、俺たちはしばらく拘束された。
拘束と言っても牢屋に入れられた訳でもなく、ただ町から出ないようにと約束させられただけだ。
この町のギルドには既に責任者は居ない。
王都から応援を呼ぶとともに、王都のギルドマスターであり、サジリナの姉でもあるサジリアもこの町に来た。
サジリアは酷く悲しんだが、俺たちを責める事はしなかった。
検死の結果、サジリナの死因は自らが開けた腹部のそれであり、男の声についてはまだ不明のままだ。
だが俺は、サジリナに憑りついていたのがあの魔族であると確信していた。
そいつは、ヴィーダの邪魔になる俺を殺すとはっきりと言ったのだ。
つまり、あの魔族は四天王ではなかった。
一部始終を話はしたが、四天王の名前だけは伏せておいた。
なんとなくだが、そうした方がいいと思ったのだ。
「旅の途中だというのに、この町に一ヶ月以上も足止めさせて、申し訳ありませんでしたわ」
「いや、それはいい。……サジリナは残念だった」
「はい。……とても悲しいですし、とても悔しいですわ……」
事件があって、王都から応援が来るまでに一ヶ月以上かかっている。
その間に、あの魔族がまた襲ってくる事はなかった。
あいつは王都からずっと追ってきていたのだ。
今後も諦めてくれる可能性は低いだろう。
王都から来た騎士たちは、町やその周辺に捜査網を広げてはいるが、あの魔族が捕まるとはとても思えない。
だいたい騎士たちはあの魔族を知らないし、犯人として特定できたわけでもないのだ。
誰を追えばいいのかも分からず、怪しいやつを探す程度の事と聴き込みぐらいしか出来ない。
サジリナの口から男の声を聞いた。
王都で魔族に襲われた。
俺はそれぐらいの事しか言っていない。
魔法鑑定の結果、俺たちの無実はすでに証明されている。
サジリナが自らの手で腹に穴を開けた事さえ、鑑定で分かってしまうのだ。
出された料理に睡眠薬が混入されていた事も判明したが、俺には何故か効かなかった。以前、ニナのスキル『天使の誘惑』も効かなかった事も関係があるのだろうか。――俺はそういう体質なのかもしれない。
天使や竜にもそんな薬が効くはずもないらしく、何ともなかったらしい。
不思議なのはサーラでさえ効かなかった事から、その薬は不良だった可能性もある。
「アラン様は既に自由にしてくれていいのですけど、最後にもう一度だけ現場の検証に付き合っていただけまして?」
サジリアは申し訳なさそうに切り出した。
「それはかまわないけど、今更何を調べるんだ?」
「王都から到着が遅れた者が居るのですわ。その者に現場を見てもらっているのですけど、当事者のアランさんたちからも、意見が聞きたいという事ですわ」
今からでいいかと言うので、サジリアと一緒に例の、殺戮現場の豪邸へと再び向かった。
死の恐怖の記憶が体に刻まれてしまったせいか、その建物の存在自体が既に、忌まわしいものに感じてしまう。
中に入ればさらに重い空気が漂い、息苦しくなるほどだ。
「大丈夫ですか? アラン」
「ああ。気分は悪いが、大丈夫だ」
吹き抜けの玄関でサジリアは誰かを探すように見廻し、すぐに目的を果たしたようだ。
「居ましたわ。彼女ですわ」
サジリアが言うより先に、俺はその異質なものを視界に入れていた。赤いマントの少女がひとり、ツインテールの赤い髪を躍らせて駆け回っていたのだ。
あっちへ行っては、階段の手すりのほこりをすくい、そっちに行っては、足元のゴミを拾う。
動きは機敏だが、やたらと短いフレアな感じのスカートがその度にひらめいて、中の下着を見え隠れさせていた。
あれは何をやっているのだろうか。
「マルちゃん! 連れてきましたわ!」
マルちゃんと呼ばれた少女はこちらを振り向き、スタスタとやってきた。
年の頃はサーラと同じくらいだろうか。
赤毛のツインテールに赤いマント姿、やたらと短いスカートも赤く、長めのブーツも赤い。
「はじめまして! あたしは……」
ここまで言って、なにやらポーズを決めだした。
「東に暗雲立ち込めたれば、それに赴きサクっと解決!」
さらにポーズを変え――
「西に迷える子羊あれば、そこに赴きマルっと解決!」
正面を向き――
「カラダは少女! 頭脳はSランク!」
くるっと回転して右手を天に人差し指を立て、左手は腰にあて――
「ランクS美少女魔法探偵! マルゲリーテとはあたしの事よ! キラッ」
さらに今度は右手を前に突きだし、左手は顔の右側半分を隠し――
「神にかわって~~~~~お昼寝よ!!!」
――ピョンと小さく跳ねると短すぎるスカートの裾が翻り、水色ボーダーの下着を一瞬露わにさせた。
「寝るのかよ!……寝てどうすんだよ。てか神いらねーだろ!」
反射的に突っ込んだ。
こいつの口上を黙って聞いてた俺が、馬鹿みたいだった。
「おにーさん、ナイスツッコミですねっ。何者ですか?」
サジリアが間に入って紹介する。
「彼女は世界に数人しか居ないとされるSランクなのですわ。今は冒険者というより探偵業に重きを置いてるようですけど、その実力は折り紙つきですわ」
全身真っ赤な姿のパンチラ少女は、まさかのランクSだった。




