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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第7章 姿なき追跡者編~ジーク~
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78・忍び寄る影

 広い食堂でテーブルの席に着いた俺は、その豪華な食事を覚えていない。

 食事の間、離れた席に着いたサジリナを盗み見ては、頭を沸騰させるという繰り返しをしていた。


 あれは何だったのか。明らかに誘っているようだった。何故? この俺を? どうして?

 頭はパニックで料理の味も何も、分からなかった。

 

 サジリナを見れば彼女も俺の方をチラチラと見ているようだ。

 たまに目が合うと恥ずかしげに逸らす。

 これは……そうなのか? そうだったのか? そういう事なのか? そうならいいな……と頭の中をグルグルさせていると、いつのまにか食事の時間も終わっていた。


「ご馳走さまでした。とても美味しかったです。わたくしも初めて食べた料理がたくさんありました」

「なの!」

「おそまつさまでしたわ。今日の所はお疲れでしょうから、お部屋でごゆっくりお休み下さいませね。アランさんたちの武勇伝は明日にでもお聞かせ願いたいですわ」


 メイドたちに部屋を案内してもらうと、驚いた事に五人ひとりひとりに部屋が用意されていた。

 サーラは少し不安そうにしていたが、せっかくなのでと皆何も言わずに各自部屋に収まった。




 俺はベッドに横になり、パンクしっぱなしの頭を冷やそうと目を閉じる。

 女騎士のおかげで少しは耐性も出来たかと思ったが、いざそういう状況になるとどうにもならないのが男の性だ。

 この先どういう態度をとればいいだろうと考えようとするが、まだ頭が回転してくれそうにない。

 

 それどころか時間が経つにつれ、何も考えられなくなっていく。

 もう寝てしまおう。俺は諦めて毛布を頭まで被り、寝に入った。




 どれくらい眠ったのだろう。――ふいに目が覚めた。まだ夜中のようだ。

 再び眠りにつこうとした時、部屋の異変に気付く。

 

 何かが居る。――扉の辺りだ。

 そのシルエットが動き出し、近づいてくるとそれはサジリナの姿となって現れた。


「サジリナ?」


 サジリナはその薄い唇に人差し指をあて、静かにするようにとジェスチャーする。

 肩からショールのようなものを掛けているが、その下はまるっきり下着姿だった。

 その恰好でベッドまで来ると、突然俺に口づけしてきた。


「んん!?」

「アランさん……どうかこのままお静かに……受け入れて下さいませ」


 一度離れた唇がそう告げると、また俺の口を塞いできた。

 冷めかけた頭がまた沸騰する。いや溶けた。

 俺の全身を溶かしたまま、サジリナは自らの下着を外す。

 再び晒されたその裸体に眩暈を覚え、もうどうにでもなれと開き直った時、その体が被さってきた。


 


 そして俺は拘束された。

 首と腕と胴体と足を――

 ――サジリナの異様に長く伸びた髪の毛で。


「!!!」

「やっと……捕まえたぞ……」


 サジリナの口が、男の声で言い放つ。


「この女に植え込んだ髪は、俺が自ら編んだ超高硬度の魔法繊維だ。動けまい」


 何だ? 何を言っている?


「その繊維は魔力の放出を抑え込む。お前がいくら膨大な魔力を持っていても今は何もできまい」

「んー!」


 俺の腹の上に全裸で跨り、見下ろすサジリナの目は虚ろだ。

 未だに伸び続ける髪の毛は、既に俺の全身を覆っていた。

 今は俺の口をも塞いで、鼻から上が出ているだけの状態だ。


「お前はヴィーダ様にとって邪魔となる存在なのだ。ここで死んでもらおう」


 サジリナは男の声で宣言すると――


 次に取った行動は目を見張るものだった。


 ――自分の腹に手刀をを突っ込んだのだ。

 白い肌に血の花が咲き、腹の中で何かを探るようにしてやがて、ナイフとは違う――小さな剣を取り出した。

 俺は口もきけず、サジリナの狂った行動を見ている事しかできない。ただ、ただ恐怖した。


 自らの腹に穴を開けたサジリナは、血まみれの剣をゆっくりと持ち上げる。

 その剣が魔力によって発光し、俺の唯一露出した顔に振り下ろされんとした刹那、その腕が爆ぜた。

 

 ドン! といういつか聞いた発砲音のようなものが聞こえたが、何が起きたのか分からない。


 サジリナは扉の方を振り向き――


「何故お前がここに居る? そして今なにをした?」


 ――訊くが答えはない。最後の方の言葉には、非常に強い怒気を孕んでいた。


 全身を拘束された俺はその方向を向く事はできなかったが、天使のどちらかが来てくれたのだろうか。

 扉の方向から光が迸り、部屋全体を明るくする。――フォウの魔法か?

 次の瞬間、サジリナは糸の切れた操り人形のように俺の上から崩れ落ちた。


「アラン!」

「なの!」


 天使たちが駆け寄ってきた。やはりこいつらが助けてくれたようだ。

 どうやらサジリナはもう動く事もないようだ。男の声は誰だったのか、そしてそれは憑依だったのだろうか。

 ――いや、あいつだ。あいつしか居ない。確かにあの名前も言っていた。




 髪の毛の拘束を解くのに、フォウの魔法を持ってしても一時間掛かった。


 解放されて自由になった途端、恐怖が蘇ってくる。全身が震え、嫌な汗が噴き出す。

 本気で怖かった。死ぬかと思った。実際死ぬ寸前だった。


 サジリナは片腕の無い遺体となって床に転がっている。

 死因はその腹に開いた穴なのか、憑依された事によるものなのか、あるいは既に死んでいて操られていたのか、何も分からない。


「アランが狙われましたね……」


 フォウの告げる事実が、俺をさらに不安に掻き立てる。


 この後、広壮な屋敷を捜索したが、メイドや料理人を含むすべての使用人たちは殺されていた。




  

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