72・出発前夜
「さて、あいつは四天王だったのか否か」
俺たちはシャランの事務室で緊急会議を開いていた。
シャランはここの長椅子をベッドにして寝ていたので叩き起こした。
なんとこの女騎士は、鍵の掛からない事務室で寝ていたのだ。
「それほどの相手だったのか?」
白いローブ姿のシャランが訊く。
「まず攻撃が効かない。動きもニナ並みだ。ニナの攻撃を捌いていた」
「四天王が自らやってきたのでしょうか」
「一言も口を利かなかったからな、何とも言えないがあの強さは本物だ」
戦ってもいない俺は言う。
あれが四天王でも、そうでなかったとしても、問題は残る。
もし四天王だった場合、俺はチカラを復活させる術をまだ知らない。
単純に倒せばいいというのならそれでいいが、いざ倒した後で条件が違いますじゃ目も当てられない。
それ以前に今は倒せるのかも分からないのだが。
だからこそ情報が欲しい。
そして四天王じゃなかった場合でも、あの倒せるか分からないやつを倒した上で、さらにあいつより強いであろう本物の四天王を相手にしなければならないという事だ。
「次にまた戦ったとして、勝算はあるか?」
「わたくしたちとしては何とも言えませんが、確実に勝ちたいのであれば、サーラがその杖を一振りすれば、すぐに終わるんじゃないでしょうか」
「こんな時に冗談はやめなさい」
「アランはサーラを大事にしすぎです」
お、フォウが嫉妬しているだと。可愛い所もあるじゃないか。
確かにサーラの杖は貴重なものだと判明したが、サーラ自身は別だ。か弱い魔力なしなのだ。
「情報が欲しい。あいつの事もだが、四天王の情報もだ」
「次あったら名前きくなの」
「訊いて教えてくれるのなら楽だよなぁ、四天王はヴィーダだっけ?」
「ヴィーダですね。一応次に会った時は名前を訊いてみましょう。案外教えてくれるかもしれませんよ」
「そんな楽観的な……」
こうなるとますます、最初の馬鹿な魔族を生け捕りにしておけばよかったと思うのだ。
あいつなら色々としゃべってくれただろう。
「それでアラン殿、明日伝えようと思っていたのだが、ここのオーナーからの伝言だ」
む。弁償か?
「ルル殿のブレスによって、破壊された施設の賠償責任は問わないそうだ」
ほっとした……が、まだ続きがあった。
「だが次にこの施設が破壊される、あるいはその恐れがあるような状況に陥った場合は、即刻これまでの依頼分を精算して出て行ってもらうようにとの事だ。今まさにその状況らしい。……申し訳ないがアラン殿。そういう事だ」
「そうなるだろうな。四天王あたりの強敵がいつ襲ってくるかも分からないんだ。ここにいたら確実に闘技場は被害に遭うだろう。そのオーナーの言う事はもっともだ」
「いろいろと頼んでおきながら、追い出すようで申し訳ない」
「いや、気にするな。俺たちもそろそろ王都を出ようかと思っていたところだ」
あいつはまた襲ってくるかもしれない。なら何処に居ても同じだろう。
このまま魔族領へ向かい、道中邪魔をすると言うのなら迎え撃つだけだ。
「みんなそういう事だ。明日出発する。シャランもそれでいいか?」
「ああ。依頼報酬の計算もこれからだ。今日は部屋で休んでくれ。明日の出発前には報酬を渡そう」
「じゃあよろしく」
俺たちは部屋へ戻り、闘技場最後の夜を過ごした。
そして俺は夢を見る。
いつもの続きだ。これまでの夢などいつも忘れているはずなのに、それはいつも見る夢の続きなのだと何故か分かった。
久しぶりに見た夢はやはり俯瞰視点で俺自身を見下ろしていた。――俺は歩いている。
前回も歩いていた気がする。そして、ぼやけた風景の中から四角い箱が飛び出してきた。俺の身長よりも大きなそれは俺を跳ね飛ばして止まった。
ああ、これが転生した原因なんだと理解した。何故こんな夢を見ているのか分からない。たぶんこれも目が覚めたら忘れてしまうのだろう。
もしかしたら夢の中に俺の失われた記憶は残されているのかもしれない。
何かに気付いたような気がした時、俺は夢の中で眠りに落ちた。




