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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第6章 王都編~黒い影~
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71・ジーク 好敵手

 俺はジーク。魔王軍の幹部でもあり、暗殺者でもある。

 俺の翼は速い。


 とはいえ王都から休みなく飛び続け、魔族領に入るまでに十日以上も掛かってしまった。

 紅茶もないのだ。休みなど必要もない。

 馬車での移動だとしたら、一年以上掛かった事だろう。


 俺はヴェルト山の山頂に建てられたヴィーダ様の城に到着した。

 すぐにヴィーダ様の元へ報告に赴く事にしよう。


 この城は魔力で建てられたものだ。さすがは次期魔王様、その魔力は誰にも真似の出来ないものを創り出す。




 ヴィーダ様は実に寛容な方だ。王都の紅茶事情を話すとすぐに分かってくれた。

 王都への再訪も転移で送ってくれると言う。ネイファを同伴させる旨を伝えると準備のために自室へ戻った。


 ネイファは俺の傍付きの女だ。戦闘力も高く、決して俺の足を引っ張ることはない。

 紅茶の準備を念入りにさせ、俺たちはヴィーダ様の転移魔法で王都へ送られた。




 王都から離れた森に小さな小屋を建ててある。俺が拠点としている小屋だ。

 偵察させるために残した影も、昼間はここで待機している。


 小屋に入ると影は椅子に座り、じっと待っていた。俺はすぐに影を吸収し、その情報を同期させる。

 

 驚いた事に影は昨夜、闘技場内で攻撃を受けていた。


 意思が無いとはいえ、影の隠密性は確かなものだ。それを感知してあまつさえ攻撃を仕掛けてくるとは、敵も侮れない。


「ネイファ、紅茶を淹れてくれ」

「かしこまりました」


 ネイファにお茶の用意をさせ、俺は影の受けた攻撃を分析する。

 まず接近戦において凄まじい衝撃と速さを体験していた。こいつはいったい何者なのだろう。

 ガブの記憶からも知っていたが、どう見ても子供だ。――だが人間の子とは思えない。

 

 もう一人の女の子供も、かなりの威力の魔法を撃ちこんできている。

 

 極め付けは竜だ。何故竜が居るのだ。

 影は竜のブレスの直撃を受けて、危うくその成分を拡散させる所だった。

 かろうじて構成成分をかき集め、集合体へと戻し逃げる事に成功したようだ。


 ネイファの淹れた紅茶を口にしながら、俺はどうするか考える。


 受けた攻撃は威力も速さも凄まじいが、俺が反応できない程ではない。

 魔法も見る限りではまだ、俺の防御力の範囲内だ。

 竜は……気を付けねばならないだろう。


 不思議なのはこの中で、男が一人と女が一人、何もせずに見ているだけだ。

 その二人の役割が気になる。


「考えていても始まらん。この目で見てくるか」




 夜を待って、闘技場へ侵入した。

 ネイファは小屋に置いてきている。

 あれは偵察向きではないので、俺一人の方が動きやすいのだ。


 昨夜影が遭遇を果たした部屋に侵入する。

 

 壁に空いた大穴が竜のブレスの威力を物語っている。

 こんなものを室内で躊躇いも無く撃ち出すとは、竜とは恐ろしいものだ。


 室内で昨夜の戦闘を検証していると、やがて複数の気配がやってきた。

 どれも魔力が高い、昨夜のやつだろう。

 

 俺は自分の気配を絶っていなかった事に気付いたが今更だ。

 こちらから探しに行く必要も無くなった。

 敵も俺に気付いた事だろう。ならばせめて先制させてもらおうか。


 俺は部屋の扉の影から、向かって右に展開した少女に向けて魔力弾を撃った。

 これは俺の魔力を極限にまで圧縮させたもので、専用の(スタッフ)で撃ち出す事で、威力と速度を数倍にするのだ。

 

 その威力は対象が人体ならば、着弾した瞬間に圧縮された魔力が爆発し、その部位は吹き飛ぶ事になる。

 ……はずだった。

 

 俺はその少女の頭に狙いを定めた。――この距離で外す事はありえない。

 だが、少女は着弾直前で頭への直撃を躱し、肩口でそれを受けた。

 その弾は爆発する事もなく無効化された。

 しかもだ……しかもその傷口は瞬時に塞がり回復されたのだ。

 少女は吹き飛んだが、次の瞬間には無傷なのを俺は見抜いた。


 驚くのも一瞬で済ませ、続けて三発。

 もう一人の少女に向けて撃ったそれは――

 杖も使わぬ無詠唱の結界によって弾かれた。


「……」


 ゆっくりと姿を見せつつ、状況を把握する。

 

 初弾を受けた少女は無傷。

 その先に居るもう一人の少女は結界で防御。もちろん無傷。

 

 俺は確かめるためにさらに一発、結界を展開した少女に撃つ。

 弾かれて天井に穴をあけた。

 結界は強度も持続時間も普通ではなさそうだ。


 何なんだこいつらは、……化け物か。

 身震いした。

 久しぶりだ。こんな高揚感は。


 吹き飛んで距離が開いた少女から、一陣の風が向かってくる。

 ただの風ではない、触れれば切れる刃だ。

 

 一年掛けて防御魔法を織り込んだマントで弾き、後方へ跳びながら二人に向けて連続で魔力弾を撃ちこむ。

 ――すべて弾かれた。風魔法の少女にも結界が及んでいた。


「ニナ、時間を稼いでください。五秒です」


 その声が聞こえた瞬間、風魔法を撃った少女が飛び込んできた。――速い!

 繰り出されるその拳は、異常なほど強化されていた。

 

 昨夜の影の戦闘を見ていなければ、その小さな拳に油断していたかもしれない。

 だが今の俺はその速さも威力も、影の記憶で体験済みだ。

 

 その軌道を見切り、いなす。

 

 だが、――まずい。

 もう一人の少女の様子が明らかにおかしい。

 

 あれは極大魔法の前兆だ。

 俺の頭の中で危険信号が高らかに打ち鳴らされる。

 何が出てくるか分からないがこれ以上は付き合えない。

 戦闘開始から間もないが引き際だ。

 

 瞬時に判断した俺はスキルを発動する。――『影化(シャドウ)』――

 俺は自身を影とし、その場から姿を消した。




  ◇   ◇   ◇




 難なく闘技場を後にして森へと潜んだ。


「おかえりなさいませ。ジーク様」

「とりあえず紅茶だ。ネイファ。えらい目にあったぞ」

「それは……珍しいですね、ジーク様」


 先程までの戦闘を振り返る。

 恐らくあそこに居たメンバーがパーティーなのだろう。

 五人だ。

 

 一人の少女は接近戦をこなし、その威力も速度も凄まじく、風魔法とさらには回復魔法さえ使う。


 そしてもう一人の少女は結界を操り、その強度と持続時間は計り知れない。

 最後に展開していた極大魔法らしきものは発動していたらと思うと、俺でさえ身震いしてしまうほどだ。


 後は後ろに控えていた三人。

 

 一人は少女の姿だが、影の記憶から、それが竜だと判明している。

 今日は最後まで待機していた。

 残る二人。男と女だが、これが問題だ。


 何が問題かと言うと、その魔力だ。

 俺は数値こそ分からないが、ある程度の魔力は感知できる。

 

 女の方の魔力は恐ろしい程に膨大だった。あれはかつての魔王様を超えているかもしれない。

 おぞましい雰囲気の杖を持っていた事から、その魔法はとてつもないものを展開してくるだろう。


 最後に男の方だ。

 その男ははなんと、魔力を隠ぺいしていた。――まったく見えなかったのだ。

 

 その意味するところは想像に難くない。常に隠さなければならない程、異常な魔力量なのだ。

 

 だいたいあのメンバーの中に居て、魔力が些少なはずがないのだ。

 化け物のような連中の中に居てもなお、あいつだけは桁違いなのに違いない。

 武器も持たず、防具すら着けていないその姿は、魔法さえあればどうにでもなると言っているようなものだ。


 昨夜から待機していたあの二人は恐らく、パーティーの切り札だ。

 前衛に二人の子供を配置して、状況によって出てくるものと思われるが、子供らがあの強さだ。恐らく切り札の二人が前に出る事態は、そうそうないだろう。


 だがあのまま戦闘が長引けば、この二人も参加してきたに違いない。

 そうなればさすがに俺も、死を覚悟しなければならない所だった。

 いや、それ以前に前衛の少女の極大魔法さえ凌げたのか、いささか自信もない。

 

 俺とした事がこんなに消極的にならざるを得ないのは、実に初めてではないだろうか。


 ネイファの淹れた紅茶を一口飲む。

 香りと一緒に喉に流し込んだ液体は、俺の心を落ち着かせてくれる。


 ――認めてやろう。

 

 最後の男は恐らく、俺の初めての……好敵手(ライバル)となる男だ。




 俺が一番注意しなければならない人間はこれで分かった。

 ならばどうするか。

 

 さすがにあいつらを纏めて相手になど出来るわけがない。

 命がいくつあっても足りないだろう。

 今日生きて帰れたのも、運が良かっただけなのかも知れない。

 だとすればおのずと戦法は見えてくる。――各個撃破だ。




 俺はジーク。魔王軍の幹部でもあり、暗殺者でもある。

 俺の辞書に敗北という文字はない。




 

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