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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第6章 王都編~黒い影~
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70・遭遇3

 二度ある事は三度ある。

 俺は身を持って体験した。――あの事務室でだ。

 そして二度あるという事は一度目があったという事だ。

 つまり、一度ある事は三度あるのだ。


「今夜も巡回に行くぞ、準備はいいか?」


 今日の昼も睡眠時間を取り、夜にはしっかり目が覚めた。このままでは昼夜逆転しそうだ。


「昨日遭遇した場所から調べる。あの影が何を調べていたのかも気になる」

「了解しました」

「サーラは怖かったら残っていてもいいんだぞ?」

「わた……わたしも……い、行きます……」

「そうか、離れるなよ」


 戦力外のサーラは残してもよかったのだが、よく考えたら一人で残るのも怖いだろう。

 一緒に連れて行く事にする。


「ウチもブレスはやめとくねー」

「ああ、そうしてくれ。また壊したら確実に弁償させられそうだ」


 ひとまず昨日の遭遇場所へ向かうとする。

 

 またぞろ揃って移動していると、昨日と何かが違う。なんだろう。

 ……空気だ。この場の空気が、昨日のそれと違って明らかに緊張感を孕んでいる。


「今日も居ますよ。ですが、……これは」


 フォウが俺を不安にさせるような言い方をする。


「本体です。魔力濃度が昨日のそれとは明らかに違います」


 昨夜の遭遇場所に着いた辺りで、さらに緊張が高まる。

 ニナのロザリオが首元で光っていた。


「来ます。ニナ、左を」

「なの!」


 ドン! と発砲音と共にニナが吹き飛んだ。

 ドンドンドン! 続けて響くそれは、フォウの結界によって弾かれる。


「ニナ!」

「ニナは無事ですアラン、下がってください」


 俺とサーラは距離を取った。ブレスを封印されたルルも下がる。

 ニナはすぐに復活していた。奇襲を受けたのが回復持ちのニナだったおかげで、こちらの被害はゼロだ。


 そいつはゆっくりと姿を現した。魔族……のはずだが人間の男の姿だ。


 足首まである黒い大振りなマントを羽織り、その全身を覆っている。

 そのシルエットはかなり痩せ形だ。頭には黒の鍔広帽子(トラベラーズハット)を目深く被り、その表情は窺えない。

 両手に短い杖を持ち、こちらに向けていた。


 その杖の先端が一瞬光り、ドンと先ほどと同じ発砲音を響かせ、何かが高速でフォウに向かった。


 フォウの顔の手前で結界に弾かれたそれは、跳弾となって天井を穿つ。

 次の瞬間、横からニナの風魔法による斬撃が一陣、男に向かった。

 男はそれをマントで弾くと後方へと跳躍する。

 跳び様、両手の杖をニナとフォウに向けて、連続で発砲。

 フォウの結界は今はニナにも及び、すべてを弾く。

 お互い決定打が無かった。


「ニナ、時間を稼いでください。五秒です」

「なの!」


 ニナが男に向かって跳ぶ。

 握りしめた小さな拳が魔力を伴って発光。

 強化されたそれが男の体を容赦なく襲う――

 が、男もその動きが見えるのか確実に捌く。


 フォウはその間、全身を輝かせ宙に浮かびつつ両手を開き、何かを呟く。

 いつかの再現だ。

 青き髪は天に向けて咲き乱れる。

 目は閉じている。

 それが開かれた時、世界は光に包まれるだろう。


 きっかり五秒。フォウが目を開けた時、男は既にその姿を消していた。

 ニナも突然視界から消えた相手を探すように、キョロキョロしている。

 フォウの詠唱を必要とする魔法は、使われる事は無かった。


 驚愕した。

 天使二人が男一人を相手に、掠り傷さえ負わせる事も出来ずに逃げられたのだ。

 しかもあの動きはニナに匹敵していた。ニナの攻撃を確実に見て捌いていた。

 

 さらにあの杖がくせもので、ただ向けるだけで魔力の塊のようなものを高速で射出するのだ。

 それも連続で撃つ事を可能としていた。――そんな使い方、魔力量が膨大でないと出来るわけがない。

 しかもどう見ても無詠唱だ。


 フォウの最後の魔法が発動していたら、どうなっていたかは分からないが、男はそれさえも察して潔く決断し、逃げ(おお)せたのだ。

 天使の前から一瞬で逃げられる実力もさることながら、その判断の的確さも恐ろしい。


「何なんだあいつは……」


 俺はそれしか言えなかった。

 天使たちの力を信じきっていた俺にとって、到底信じ難い出来事だったのだ。




  


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